山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

帚木蓬生『水神』(上下)の視座

2015-02-27 21:05:21 | 読書
 とある会社のCEOが「帚木蓬生(ハハキギホウセイ)を読まなくちゃいけませんよ」としきりに強調する。
 作者の名前からして胡散臭い響きがあったので、手にしないでいた。
 それがまた「時代小説『水神』はとくにいいよ。葉室麟よりぜんぜんいいよ」とダメ押しをくらう。

 読み終えてCEOの言うとおりだった。
 江戸初期、枯渇に苦しむ農民のために5人の庄屋が命がけで筑後川の水路を開鑿する物語だ。

                          
 映画のような見せ場はない。
 長塚節の『土』を思わせる農民の視点が貫徹されている。
 冒頭、小さな桶で川の水を畑に流していく「打桶(ウチオケ)」という作業が描かれる。
 その作業は夜明けから夕暮れになるまで続けられるが焼け石に水。
 この痛ましいような姿が庄屋や武士の決意を促していく。

          
 映画「七人の侍」のように映画や小説ではほとんどが武士が主人公だ。
 山田洋次の映画でさえそうだ。
 それからみると、徹底して辛酸をなめた農民の立場からの視点で、地域や武士や農民の内部矛盾といったものを丁寧に表現している。

                    
 実話を基にした小説だという。
 であるならばよけい、NHK大河ドラマで取り上げてほしいものだ。
 視聴者は家康や信玄や信長らをからめないと満足いただけないとゴマすり企画が目立ってしょうがない。

 CEOさんの確かさな眼力に頭が下がるばかりだ。
 さっそく作者が医者でもあるので『閉鎖病棟』というのを読み始める。
 これがまた琴線を震わす珠玉の文章なのだ。  
コメント (2)
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