
期待していなかった深夜TVで映画「長州ファイブ」を観る。幕末に国禁を犯して命がけでイギリスへ留学する長州藩5人の青春グラフィティ映画だ。武器商人グラバーや長州藩の後押しもあって密航は成功する。物語の初めは廓がたびたび出てきて骨太ではない作品かなと思ったら、後半になるにつれてなかなかの見ものだった。(画像は製作委員会から)
明治になってから活躍した5人衆とは、初代総理の伊藤博文、鉄道の父・井上勝、工学の父・山尾庸三、造幣の父・遠藤謹助、外交の父・井上馨だ。画面からは最初誰が誰だかわかりにくいのが欠点で、事前にテロップが出ていれば納得がいくのに。(画像は製作委員会から)
技術の進歩がつまり蒸気機関車・造船・縫製工場などが社会をドラスティックに変えていく現実に圧倒される留学生だった。後半になって松田龍平が演ずる山尾庸三に焦点が当てられるところから物語の真骨頂が展開されていく。とりわけ、聾啞の女性との交流を絡め、産業革命下のイギリス社会の格差も描いていく。
山尾は帰国後、日本の工学発展に奔走し、今の東京大学工学部の前身を創設している。一段落ついてから、イギリスで見た「手話」に触発され、障碍者の学校も開校している。映画の中では、イギリスの都会の闇を描く一方、地方の自然の美しさを強調していて、文明の進歩とは何かを提起している、
しかしそれが明治政府に継承されたかどうかは触れられていない。留学生たちは西洋の富国強兵を痛感させられたのだろうが、その限界を知った指導者はいたのだろうか。映画ではそれをちょっぴり提起したが、視聴者にはあまり伝わっていない気がする。2006年制作。萩市と下関市の企業と市民がバックアップした地方創生映画。監督・脚本は五十嵐匠。