山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

同じ貧しい心の日本人が花束と拍手をおくる !!

2023-11-03 18:41:00 | 読書

   戦後すぐに「劇団民芸」が創立されその翌年(1951年)に公演されたのが、三好十郎原作の「炎の人、ゴッホ小伝」だった。ゴッホ役は滝沢修、演出も兼ねる。「炎の人」は51年中の初演・再演併せて演劇史上空前の観客動員数10万人を記録。いまも、各地で公演されているときもあったようだが、そのときはオラがあまり関心がなかったので観劇できず残念。その原作の戯曲・三好十郎『炎の人・ゴッホ小伝』(河出書房、1951.9)を読む。

   

 読んでいくにつれて、表紙も裏表紙も外れてしまった。それもそのはず、70年以上前の紙質が悪いころの書籍・初版なんだからね。ゴッホは画家になる前、伝道師をめざして劣悪な環境にあった炭鉱街で抗夫の待遇改善に奔走する。自分の服や食べ物をも労働者に提供するが教会とうまくいかず、絵画だけが心の支えとなっていく。

   

 ゴッホの絵のモデルにもなった画商のタンギー爺さんは、貧乏で無名の画家の絵を店に飾ってくれた。そこに、ゴーギャン、ロートレック、ベルナール、モリソウなど有名になっていく画家も出入りする。それぞれの画家の性格や環境の違いをうまく表現しているのも見どころだ。

  

 また、弟のテオの全面的な支援もゴッホを支えているのがよく描かれている。画家を志したこともある三好十郎ならではの視点も随所に出てくる。精神的に追い詰められていくゴッホの生涯が凝縮的に戯曲に出ているが、なんといってもエピローグの追悼詩が心を打つ。朗読は宇野重吉。きっと、生で聞いていたら涙なしにはいられないことが想像できる。その一部を抜粋すると。

  

 「貧しい貧しい心のヴィンセントよ  /  今ここに、あなたが来たい来たいと言っていた日本で /  同じように貧しい心を持った日本人が / あなたに、ささやかな花束をささげる 」 

 「あなたの絵は今 われわれの中にある。/ 貧乏と病気と、世の冷遇と孤独とから / あなたが命をかけて、もぎとって / われわれの所に持って来てくれた / あなたの絵は、われわれの中にある」

   

 「あなたは英雄では無かった。 / あなたは、ただの人間であった / 人間の中でも一番人間くさい弱さと欠点を持ち / それらを全部ひきずりながら / けだかく戦い / 戦い抜いた。 / だから、あなたこそ /    ホントの英雄だ !   」

   

 ゴッホの貧困・病気・飢え・孤立などの赤裸々な苦境は、原作者の三好十郎そのものの姿であったと言ってもよい。ゴッホは絵画によって救われ、三好は小説や戯曲・演出によって救われた。ゴッホは死後世界的に有名になったが、三好は過去の栄光にもかかわらず忘れ去られようとしている。世界も人間も解体的崩落の中にある今こそ、三好十郎はもっともっと再評価されるべき作家である。

 

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