一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『あなたへ』 ……平戸でロケ地めぐりをしたいと思った……

2012年08月30日 | 映画
高倉健の映画を見た最初の記憶は、
『網走番外地』シリーズのどれかだったように思う。
佐世保にあった東映の映画館で見た。
当時、佐世保の映画館は、
東宝、日活、松竹、東映、大映などそれぞれに専門館があり、
カスバ、ピカデリーなど、洋画専門館が別にあった。
小学生のときはもっぱら東宝の映画館に行くことが多く、
加山雄三の『若大将』シリーズや、怪獣映画を主に見ていた。
小学高学年の頃だったろうか、
8歳年上の兄に連れられて、初めて東映の映画館に行った。
そして、びっくりした。
ひとつは、大人ばかりで、子供がほとんどいなかったこと。
ふたつめは、館内が煙草の煙でもうもうとしていたこと。(笑)
当時も館内禁煙であったと思うのだが、
東映の映画館だけは別格という感じだった。
なんだかとんでもない場所に来てしまったという感じだけが残っている。
任侠映画はそれほど好きではなかったので、
高倉健の映画を本格的に見るようになったのは、
昭和50年代になってからだった。

『君よ憤怒の河を渉れ』(1976年)
『八甲田山』(1977年)ブルーリボン賞主演男優賞受賞
『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)日本アカデミー賞最優秀主演男優賞とブルーリボン賞主演男優賞を受賞
『冬の華』(1978年)
『野性の証明』(1978年)
『動乱』(1980年)日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞
『遙かなる山の呼び声』(1980年)日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞
『駅 STATION』(1981年)日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞
『海峡』(1982年)
『南極物語』(1983年)
『居酒屋兆治』(1983年)
『夜叉』(1985年)
『海へ 〜See you〜 』(1988年)
『ブラック・レイン』(1989年)
『あ・うん』(1989年)日本アカデミー賞優秀主演男優賞受賞
『ミスター・ベースボール』(1993年)
『四十七人の刺客』(1994年)日本アカデミー賞優秀主演男優賞受賞
『鉄道員(ぽっぽや)』(1999年)日本アカデミー賞最優秀主演男優賞とブルーリボン賞主演男優賞を受賞
『ホタル』(2001年)
『単騎、千里を走る。』(2005年)

こうして見てくると、
高倉健の出演作は、やはり、
1970年代から1980年代あたりが充実しているかなと思う。
私の好きな作品も、その辺りに集中している。

『単騎、千里を走る。』(2005年)以来、
久しぶりの主演作『あなたへ』が公開された。
監督は、『冬の華』『駅 STATION』『居酒屋兆治』『夜叉』『あ・うん』『鉄道員(ぽっぽや)』『ホタル』など、数々の名作でコンビを組んできた降旗康男。
共演陣も、
ビートたけし、田中裕子、大滝秀治、佐藤浩市、草剛、綾瀬はるか、余貴美子など、
とても魅力的なので、さっそく見に行った。

北陸のある刑務所の指導技官・倉島英二(高倉健)のもとに、
亡き妻・洋子(田中裕子)が残した2枚の絵手紙が届く。
そこには、一羽のスズメの絵とともに
〈故郷の海を訪れ、散骨して欲しい〉
との想いが記されていた。
そして、もう1枚は、
洋子の故郷・長崎県平戸市の郵便局への“局留め郵便”だった。
その受け取り期限まで、あと十日。
刑務所に歌手として慰問にきていた洋子とは、
穏やかで幸せな夫婦生活を営んでいた。


長く連れ添った妻とはお互いを理解し合えていたと思っていたのだが、
妻はなぜ生前その想いを伝えてくれなかったのか……
妻の真意を知るため、彼女の故郷を訪れることを心に決める。
妻の故郷を目指すなかで出会う多くの人々。


彼らと心を通わせ、彼らの家族や夫婦の悩みや想いに触れていくうちに蘇る、洋子との心温かくも何気ない日常の記憶の数々。


さまざまな人生に触れ、
さまざまな想いを胸に目的の地に辿り着いた英二は、
遺言に従い散骨する。
そのとき、彼に届いた妻の本当の想いとは……
(ストーリーはパンフレット等より引用し構成)


妻の遺骨を散骨するために、
そして、妻の生前の真意を知るために、
北陸から九州まで、車で1200キロの旅をするロードムービー。

回想シーンで出てくる兵庫県朝来市にある竹田城跡、


関門橋を望む山口県下関市唐戸など、


魅力的な場所が多く、
ロードムービー好きの私としては、
それだけでもとても楽しみなのだが、
目的地が長崎県平戸市薄香ということで、
一層の親しみを感じる作品であった。

1931年生まれの高倉健は、現在81歳(撮影時80歳)。
『キネマ旬報』(2012年9月上旬号)でのインタビューで、
「『あなたへ』の完成版をご覧になって、いかがでしたでしょうか」
という問いに対し、

個人的には反省しきりです。作品の出来は素晴らしいと思いますけれど、やっぱり俳優は仕事をしていないとダメだなあと、反省してます。

と答えている。
この答えには、いろんな意味があるような気がする。
そのひとつに、
〈もっと早くやっておけばよかった……〉
という思いがあったのではないかと感じた。
彼が演じる倉島英二という人物は、定年を過ぎた刑務官。
刑務所で嘱託として職業指導している設定なのだが、
やはり80歳で演じるには少し無理があったように思った。
それを高倉健自身も感じていたのではないか……
前作から6年ほど経過しているが、
せめて75歳くらいで演じていたならば、
不自然さは最小限にとどめられたのではないかと思った。
とはいえ、高倉健の存在感は抜群で、
丁寧に丁寧に演じていたこともあって、
しみじみとした佳作に仕上がっている。


共演陣では、大滝秀治と余貴美子が特に良かった。
高倉健演じる主人公が、散骨するための船を出してくれるよう頼みに行くシーン、
老いた漁師役の大滝秀治は、スクリーンに登場したその瞬間から、
すべてが画になっていた。


科白は少ないものの、その発せられる言葉のひとつひとつに味があり、
感動させられた。


余貴美子は、薄香漁港で食堂を営む女の役であったが、
『駅 STATION』での倍賞千恵子にも匹敵する存在感で、
小さな港町で生きている少し不幸な影のある女を好演していた。


嵐の日に、食堂の片隅で、高倉健とふたり、酒を呑むシーンは殊に秀逸。
いつまでも記憶に残る名シーンであった。


ロードムービーなので、様々な場所が登場するが、
長崎県佐世保市生まれの私としては、
やはり平戸に着いてからの場面が特に良かったように感じた。
大滝秀治、余貴美子、綾瀬はるかなどが長崎弁を喋っているのにも感動したが、
物語としても、この平戸での各シーンに心を揺さぶられた。


この映画には、種田山頭火の句が何度も登場するが、
山頭火自身も平戸を訪れたことがあり、

平戸は日本の公園である

平戸よいとこ旅路じやけれど
旅にあるよな気がしない


等の言葉を書き残している。
高倉健がロケの合間に訪れていたという「御家紋」(おげもん)という喫茶店には、

どこで死んでもよい
山の水をのむ


という山頭火の句が壁に掛かっており、
高倉健は、その短冊を眺めて、何度もその句をつぶやいていたとか。

平戸には秋の花が楽しめる山が数多くある。
近いうちに、登山とロケ地めぐりを兼ねた旅をしてみたいと思った。

《追記》
後日、ロケ地めぐりをした。
コチラからご覧下さい。
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