一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『月の満ち欠け』 ……有村架純と柴咲コウが美しい廣木隆一監督作品……

2022年12月13日 | 映画


本作『月の満ち欠け』(2022年12月2日公開)を見たいと思った理由は三つ。

①有村架純、柴咲コウが出演している。


私の好きな女優である有村架純、柴咲コウの出演作として、
以前よりチェックしていたし、見たいと思っていた。

②原作が佐藤正午の小説。


佐藤正午は、1983年に作家デビューして以来、39年間で、
18冊の長編小説と、9冊の短編集と、11冊のエッセイ集を出しているが、
長編小説の半数は、デビュー後数年の間に書かれたもので、
2000年以降の長編小説は7作しかなく、
どちらかというと寡作な作家という印象がある。
20代で作家デビューし、
直木賞を(『月の満ち欠け』で)受賞したのも60代になってからであった。
佐藤正午は、1955年長崎県佐世保市生まれで、現在も佐世保在住。
私も佐世保市で生まれ育ち、年齢もほぼ同じなので、
デビュー作から愛読してきたが、
地方で、スローペースで執筆活動をしているからか、
それが作風や文体にも表れていて、
「今」を描いていても、どこか非現実的であり、シュールな感じがする。
それが、映画化された作品にも反映されていて、
『永遠の1/2』(1987年公開、監督:根岸吉太郎、主演:時任三郎)も、
『リボルバー』(1988年公開、監督:藤田敏八、主演:沢田研二)も、
『ジャンプ』(2004年公開、監督:竹下昌男、主演:原田泰造)も、
『彼女について知ることのすべて』(2012年公開、監督:井土紀州、主演:笹峯愛)も、
『鳩の撃退法』(2021年公開、監督:タカハタ秀太、主演:藤原竜也)も、

浮遊感のある不思議な映画であった。
私は、原作となった『月の満ち欠け』もすでに読んでおり、
あの小説をどう映画化したのか楽しみだった。

③廣木隆一監督作品。


今年(2022年)公開された廣木隆一監督作品は、
『ノイズ』(2022年1月28日公開)
『夕方のおともだち』(2022年2月4日公開)
『あちらにいる鬼』(2022年11月11日公開)
『母性』(2022年11月23日公開予定)
『月の満ち欠け』(2022年12月2日公開予定)

と、5作もあり、
実にエネルギッシュだし、
廣木隆一監督の年と言っていいほどの活躍ぶりである。
当たり外れはあるが、(極私的感想です)
今年は『夕方のおともだち』という傑作をものしていたし、
どんな作品も、ある水準以上に仕上げる力を持った監督なので、
『月の満ち欠け』も楽しみにしていた。


公開から1週間が経ち、
「Yahoo!映画」や「映画.com」のユーザーレビューを見ると、
5点満点の3.3点くらいの微妙な評価で、(2022年12月13日現在)
レビューのタイトルだけを拾っても、
「世にも奇妙な物語」「不思議な感覚でした」「変な映画」「何を描きたかったのか」
「思っていたのと違った」「ファンタジーですね」「見方によってはホラー」
「異色の輪廻転生ラブストーリー」「泣けなかった」「泣きどころ解らず」

など、戸惑いが感じられた。
過去に映画化された(佐藤正午の小説が原作の)の5作も、
同じような評価、感想が多かったし、
原作を読んでいる私も、まだ見ぬ映画を「さもありなん」と思ったことであった。
佐藤正午の小説は、読むと素晴らしいのだが、
映像化して一般的な娯楽映画として楽しむには、あまり適さないように感じるのだ。
それでも私は佐藤正午原作の映画を楽しんできたし、
『月の満ち欠け』にも期待するものがあった。
で、12月10日にイオンシネマ佐賀大和で鑑賞したのだった。



小山内堅(大泉洋)は、
愛する妻(柴咲コウ)と家庭を築き、




幸せな日常を送っていたが、


不慮の事故で妻の梢と娘の瑠璃を同時に失ったことから日常は一変する。


悲しみに沈む小山内のもとに、三角哲彦(目黒蓮)と名乗る男が訪ねてくる。


事故当日、娘の瑠璃が面識のないはずの三角に会いに来ようとしていたという。
そして、三角は、
娘と同じ名前を持ち、自分がかつて愛した「瑠璃」という女性について語り出す。


それは数十年の時を超えて明らかになる許されざる恋の物語だった……



現代を生きる、愛する妻子を亡くした小山内堅。
27年前にある女性と許されざる恋をした三角哲彦。
無関係だった彼らの人生が、”瑠璃”という名の女性の存在で交錯する……
なんとも不思議なストーリーであるが、
原作を読んだときにも、
〈これはどういうこと?〉
と、前の頁に戻って、何度も文章を読み返した覚えがあり、(『鳩の撃退法』のときもそうであったが、それが佐藤正午の小説の楽しみのひとつでもある)
原作未読でこの映画を見たならば、
同じような現象が起きるのではないかと考えた。
私など、
〈あの小説をよくこれだけ解り易くまとめたな〉
と思ったくらいであったが、
原作未読の人にとっては、
そして、『黄泉がえり』(2002年公開)や『いま、会いにゆきます』(2004年公開)のようなライトノベル風な感動を求めて本作を見に行った人にとっては、
かなり難易度の高い映画であったと思う。
「世にも奇妙な物語」「変な映画」「何を描きたかったのか」「思っていたのと違った」
「ファンタジーですね」「見方によってはホラー」「泣けなかった」「泣きどころ解らず」

といった感想をもらすのも理解できると思った。
私の場合は、
佐藤正午の原作も読んでいたし、
これまでに映画化された作品も見ていたので、
(佐藤正午原作の映画の)楽しみ方を知っていたとも言え、
本作『月の満ち欠け』も大いに楽しむことができた。

※本作に限っては、白紙の状態で見ると、理解不能に陥る危険性があり、できれば原作を読んでから見た方がイイし、なんならネタバレ記事も鑑賞前に読んでも構わないと思う。それほど準備万端で見た方が楽しめるように感じる。


正木瑠璃を演じた有村架純。


大学生の三角哲彦(目黒蓮)と恋に落ちる人妻で、




不慮の事故で亡くなるという役。


※その後、小山内夫妻(大泉洋、柴咲コウ)の娘として生まれ変わり、また三角哲彦に逢おうとするのだが、これは小山内瑠璃として菊池日菜子が演じている。(幼少期は阿部久令亜)


三角哲彦(目黒蓮)との恋愛パートの有村架純がとにかく美しい。
特に、三角が撮った8ミリ映像の中で、オノ・ヨーコの「Remember Love」を歌っているシーンが秀逸。


「このシーンを見るだけでも本作を見る価値はある!」
と言えるし、


極私的には、
〈このシーンだけ切り取って永久保存したい!〉
とさえ思う。




それにしても……あの『ビリギャル』を演じた有村架純が、


年下の大学生と不倫をする人妻を演じるようになったか……と、感慨深い。



小山内堅(大泉洋)の妻・梢を演じた柴咲コウ。


夫婦仲も良く笑顔の絶えない日々を送っていたが、
事故で、娘の瑠璃(菊池日菜子)と共に他界してしまう……という役であったが、
現実の柴咲コウも良かったが、
柴咲コウの魅力をより強くの感じたのは、
ホームビデオに映し出される彼女を見たときであった。


特に、ラスト近くで、このホームビデオの後半部分が映し出されるのだが、
このときの柴咲コウがキュートで実に魅力的なのだ。
8ミリ映像に映し出される有村架純と同様に、
ホームビデオに映し出される柴咲コウも、
瞬間冷凍保存したいほどに好もしい。



小山内夫妻(大泉洋、柴咲コウ)の娘・小山内瑠璃を演じた菊池日菜子。


彼女のことはほとんど知らなかったので、ちょっと調べてみた。

【菊池日菜子】
2002年2月3日生まれの20歳。(2022年12月現在)
女優、ファッションモデル。福岡県出身。アミューズ所属。
2019年より芸能活動を開始。
同年、西日本鉄道グループのCMオーディションに合格し、CM初出演を果たす。
起用の決め手となったのは「男子に憧れられる存在感」、「視聴者を惹きつける透明感」。
2020年4月、福岡の芸能事務所を経てアミューズに所属。
2021年、三池崇史演出の舞台『醉いどれ天使』のオーディションに合格し、舞台初出演。
同年、映画『私はいったい、何と闘っているのか』に出演。長編映画初出演となる。
12月には、「全日本高等学校女子サッカー選手権大会」の初代応援マネジャーとして約200人の応募者の中から選ばれた。


背が高く、170cmもある。
ふとした表情が清原果耶に似ており、ドキッとさせられる。


まだ演技経験も少なく、本作での演技もぎこちなかったが、
これから経験を積んで、好い女優になっていくような気がする。



小山内堅(大泉洋)の母・小山内和美を演じた丘みつ子。


『由宇子の天秤』(2020年公開)
のレビューで、

自殺した教師の母・矢野登志子を演じた丘みつ子。
スクリーンでは久しぶりに見たような気がするが、
若い頃はそれほど演技が上手い女優とは思わなかったが、
年輪を重ねた丘みつ子の演技は秀逸で、感心させられた。
老いた女性を演じられる映画女優は少なく、
これからオファーが絶えることはないような気がする。



と書いたのだが、
その後、こうして廣木隆一監督作品の、
『あちらにいる鬼』(2022年公開)
『月の満ち欠け』(2022年公開)

で、続けて見ることができ嬉しかった。
演技も素晴らしく、これからの丘みつ子にも期待したい。



和美の介護士・荒谷清美を演じた安藤玉恵。
一度見たら忘れることができないほど個性的な女優で、
TVドラマでは、
昨年観て面白かった、
「今ここにある危機とぼくの好感度について」(2021年)NHK総合)
や、現在面白く観ている、
「拾われた男 Lost Man Found」(2022年)NHK BSプレミアム・NHK総合)
で、安藤玉恵の演技を楽しんでいる。
彼女が出演しているだけで、「何かありそう」だし、
「何かやってくれそう」な予感を抱かせる。
本作の安藤玉恵もすごく好い。



緑坂ゆいを演じた伊藤沙莉。
小山内瑠璃の親友で、瑠璃の死後に母になり、小山内にある頼み事をする……という役。
原作での肩書は女優だったので、もっと華やかな役柄を想像していたが、
伊藤沙莉が演じる緑坂ゆいは地味で控えめな女性で、
原作のイメージとはかなり違っていて驚いた。
それでも、伊藤沙莉が演じることで、
よりリアル感のある緑坂ゆいという女性が表現できていたし、
高校生の時代から子持ちの母親というように、時代を経た女性を演じ分け、
小山内堅(大泉洋)に転生の秘密を教えるという重要な役割も立派に果たしていた。
伊藤沙莉なればこそだと思った。



実は、この緑坂ゆい(伊藤沙莉)の娘が、
小山内瑠璃の生まれ変わりとなる緑坂るりで、
この緑坂るりを演じた小山紗愛が、
子役ながら大人びた演技で見る者を感心せしめる。


この小山紗愛と同様に、
小山内瑠璃の幼少期を演じた阿部久令亜や、


荒谷清美(安藤玉恵)の娘・荒谷みずきを演じた尾杉麻友など、
子役が素晴らしい演技をし、本作に貢献していた。



女優偏重主義者なので、女優だけに絞ってレビューを書いたが、
小山内堅を演じた大泉洋は、
生まれ変わりを信じない“普通感覚の人物”の代表として、
本作の骨格を支えていたし、


正木瑠璃(有村架純)の夫・正木竜之介を演じた田中圭も、
本作における“悪の権化”としての役割を十分に果たしており、
「男優陣も好い演技をしていた……」とだけ付け加えておこう。(コラコラ)



原作を読んでいなくても楽しめるのが映画だと思うし、
そのことに関しては異議申し立てをするつもりはない。
だが、「原作を読んでいると、もっと楽しめる……」という映画があってもイイと思う。
映画を楽しめなかった人には、原作を読むことをお勧めする。
「そういうことだったのか!」という気づきがたくさんある筈だ。
そうして映画をもう一度見ると、
1回目の鑑賞では見えなかったものが見えてくるに違いない。
「そこまでして楽しもうとは思わない……」
と思う人は、そこまでの縁でしかなかったということだろう。
楽しみを単に受け取るだけではなく、楽しみは自ら掴み取りに行く。
それほど貪欲に面白さを追求するのも楽しいと思うのだが、如何。

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