直ぐ上の兄が「数個、結実したから…」とその中のひと莢を送ってくれた。莢が青かったし割れていたけれど熟したと言うには時間が不足している段階かも知れないなあ、と思いつつ水切りネットに入れてカーテンレールにぶら下げた。乾燥が進みはじけて溢れ出ても部屋中「なんてこったい!」なんて事態にはならない。
もともと結実したキジョランは小生が育成した苗なので、端的には「里帰り」の種子になるのだが当地で育てている兄弟姉妹、はてまた大先輩のキジョラン達は未だに結実してくれないのが小生のフイールドの現実である。「キジョランは気難しい、育てにくいい、生育不良のまま」なんて心証は小生だけでなくS先生も同意してくれるほどのキジョランの扱い難さであるが「鬼女蘭」と漢字で書けば生易しい植物ではないと言うのが窺い知れる。写真のキジョランに発芽能力が備わっているかどうかは播種して見なければ判明しないけれど、数本でも発芽してくれれば願ったり叶ったりだ。
年明けの4日、フイールドのキジョランを見回ってみたが観察できる高さの葉には既にアサギマダラの幼虫は発見できなかった。ただトチノキの梢にまで上ったキジョランには食痕は見えているので1頭くらいは生存しているかも知れない。ここはまあ、生存していると思って眺める事にした。
莢ごと送ってもらいそのまま水切りネットに入れてカーテンレールにぶら下げて置いたらモコモコと大冠毛付きで溢れ出て来た。この大冠毛、タンポポの冠毛の比ではなく大きいものは40mmほどに達する。それだけに捕縛から逃せば屋外では僅かな風に乗って行方不明になるし、室内では千切れた冠毛が室内を漂い、呼吸もしたくなくなる惨事となる。
播種までネットの中という訳にもいかないので45リットルのゴミ袋の口を二折りほどしてからその中で種子と大冠毛を外した。屋外ならばネットから摘まんで取り出すだけで済むけれど、何せこの日は寒さ厳しい曇天では庭に出る気にもならず暖かな室内でと横着を決め込んだのだ。取り外した種子はおおよそ60個、中には明らかに未熟果と見える物もあるから歩留まりは7割程度だ。しかしながら播種して発芽までに至るかどうかは現時点では不明の完熟莢とも思えない実からの採種である。まずはお彼岸ごろに播種して発芽するのは梅雨に入る頃になるから結果が判明するのは半年も先だ。育林だけでなく草本の育成も時間と手間が必要なのだった。