拠点、道具小屋横に生えているカシワ1本、日当たり良好だし周囲に枝葉を展開するのに邪魔になる立ち木もないので伸び伸び育ったのだ。周囲にカシワの自然樹は見当たらないから大方、往時の地主さんが柏餅用に植えたのかも知れないのだが現在は周囲を日陰で覆うだけの存在になっており「伐採して!」との話はあったのだ。しかし孤爺にとっては格段急いで処理しなければならない対象でも無く、ましてや右腕が痛くて使い難い現状では災の河原の砂礫掘り以外にすべき作業など無いのである。
そんな状況なのに代表から「伐採」の依頼が来た。他に男衆はおるけれど伐採の経験値は持ってはいない会の現状となった現在、斯様な作業は小生に回ってくるのである。まあ、よくよく経緯を思い出してみればむざむざ廃木にするのも資源としてもったいないから「榾木になるかもしれない…」と口を滑らせていたのは孤爺なのであった。そんな事があり年が明けての定例会時に榾木を作る活動となったのである。お偉い様達と異なり「秘書が、秘書が・・・」とか「記載漏れだから修正!」なんて習性の無い孤爺であれば泣く泣く砂礫掘りを先送りし、肩の痛みに耐えながら定例会前日に伐採する事にしたのだった。
ところがである。伐採予定の朝、朝食が済んだ頃合いに代表からの電話で「定例会当日に皆の前で伐採してくれないか…⁉」との要望があった。喫緊の課題、災の河原の砂礫掘りを先送りしつつ痛い肩を抱え重心の変化が大きく難しい作業になる落葉樹の伐採をギャラリーの前で行って欲しい、なんて無理にもほどがある。三本の幹を持つカシワは一筋縄ではいかないし伐倒方向は重心方向には小屋やミカン樹があり避けなければならない。端的には「作業はどう展開するか成り行き次第」になりそうだし「枝掛かり」必至の環境ではギャラリーなんて危険なだけで役にも立たないのである。であるから断って予定通りの開始にする。
まずは低い位置からねじれて伸びた幹を切除する。これは難なく出来たのだが残った二本は難物である。使いたい牽引器はバンビーノガーデンへ日当たりを良くするための伐採に貸し出しており手元にない。そこでに荷締め用の牽引器を代用したのだが牽引距離は1メートル余りだし使うロープは麻ロープで効きが悪いはずだ。でもこの環境で伐採するしかないので、ここも粛々と進行にこれ努める孤爺なのであった。二本目は思った通りにクリの樹とヒノキに枝掛かりがして落ちてこない。ロープを曳きつつ齧ったままの切断面を修正しつつようやく地上に落とせたのだった。しかし幹は落ちても枝葉の部分で立ったままだ。ここで「行ってはならない掛かっている樹の元玉切り」をせざるを得なくなった。処理作業の安全のために「行ってはいけない方法」は幾つかあるのだが、これもその一つだけれど現状、これ以外で掛かり木処理は不可能だ。こういう作業をギャラリーの前で行うなんて愚の骨頂、年寄りの冷や水、悪法の刷り込み以外の何物でもなくなる。
2本目は案の定、掛かった ➡ ようやく地上に落とせた。3本目は余裕がなく撮影できなかった。
最後の1本は高さも高いし重心の外れも大きい。何もせずチェーンソーを入れれば道具小屋、ミカンの樹、キジョランが這い上って展開しているネズミモチを直撃する。荷締め器では役不足なのだが重心と反対方向に曳いてから伐採開始する。案の定、牽引距離が短いので伐倒位置まで曳けない。追い口に楔を打ち込み固定してから再度、荷締め器を設定しなおす。幸いにも再設定の間、立ち姿を維持できていた。こういう状態になる不安定な伐採現場にギャラリーなんて問題外である。見物する方は暇つぶしで面白いかも知れないけれど作業する側は見世物でしかなく、見物させれば微力と言えど里山保全に寄与するでも無いし、たまったものではない。で、ようやく地上部に落とす事が出来た。残った株元を綺麗に切断して昼前に作業は無事に終えたが定例会当日の処理作業には参加せず水源地の取水堰掘り出しに痛い肩をつぎ込む日々に戻れたのである。