the other side of SmokyGitanesCafe
それとは無関係に・・・。
 



GITANESは犯罪的な香りをばら撒く。
それとは無関係に・・・。

小中学校ではやや引っ込み思案と思われていたA君、
実は物心ついた頃から変わらず好きなものがあった。
それはバイク。
もちろん幼少期に排気量云々のことなどわからなかったが
とにかくカッコイイと思っていた。
近所に住む憧れの、かなり歳の離れた従兄が乗っていたバイクは
いつも磨かれピカピカだった。
従兄がA君を抱き上げバイクのシートに座らせてくれたとき
背筋にパチパチと電気を感じるほどうれしかった。
大きくなったら絶対に乗りたい!と思った。

高校はそれなりの進学校に進んだ。成績は中の上あたり。
部活は陸上で長距離が得意だった。
アルバイト禁止の学校だったから勉強も部活もそれなりに
頑張った。
友達も数人いて、たまに一緒に出かける女子の友達もいた。
全体的には目立つ存在ではなかった。
でも学生生活は毎日楽しかったし、それで十分だった。
両親は比較的ものわかりのいい人間だが、それでも
隠れてアルバイトすることは許さないだろうし、
だからとにかく早く大学生になりたかった。
アルバイトができるから。
それは自分でバイクを買う目標に近づくからだった。

念願の大学せいになれた。第一志望の学校だった。
親も喜んでくれた。さすがにバイクを買ってくれるという
褒美はなかったが、アルバイトすることには何の反対もせず
むしろ「一人暮らしして、自炊して、アルバイトして、
勉強もする。こんなに忙しくて自由で貴重な時期を
ムダにするな。ほら、働け。学べ。遊べ!」とけしかけた。

愛想よく笑うことは苦手だったからファストフードでの
アルバイトは除外した。
随時アルバイトを募集していた印刷屋が学校の近くに
あったから、その会社にアポなしで行ってみたら即座に
採用された。
ほぼ、あっちの重い荷物をこっちにやり、こっちのアレを
あっちに運ぶという作業だったが苦にならなかった。
無理矢理スマイル、と言われる方がゾッとした。

2年ほど真面目にアルバイトをした。
それまで持っていたおカネとあわせ、念願のバイクが
手に入った。
すぐに海まで走った。山道も走った。
まだ汚れてもいなかったのに、ヒマがあれば古いTシャツの
切れ端でバイクを磨いた。買った時よりピカピカに
なっていたと思った。

週末は自宅まで走ろうと考えていた。
両親に「普通に育ててくれてどうも。」と感謝を伝えたかった。
あの従兄は今でもバイクに乗っているという。
彼にもこのバイクを見せたかった。


アパートの階段を、ヘルメットを被りながら降りた。
バイクはなかった。
どこにもなかった。
何が起きたのかわからなかった。やがて
「バイクが盗まれた」と悟った。目の前が真っ暗になった。

」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

というストーリーがあったとして。

この話を反対側から見ると
「盗んだバイクで走り出す」
となる。
それを高らかに歌う側だ。


何があったのか知らんけど、乗りたかったら自分で買えよ
とA君はじめ多くの人が思うことだが、曲がりくねって
美しくなってしまった歌は存在してしまい、盗まれた側の物語
には誰も関心がない。

私はどちらの経験もないが、A君頑張れと思う側である。

つまり、普通の人間である。






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