「住宅難」
ある朝のことである。我が家の軒下というか、一階の引き戸の上の出っ張りで、二階のベランダの下に当たる部分に今年も巣を作ったツバメの鳴き声が凄まじい。ツバメの鳴き声の間にスズメの鳴き声も混じる。
表に出て様子を見ると、ツバメの巣から何やらワラ屑のような長い物がはみ出ている。どうやらスズメが、ツバメの巣を狙い、我が物にしようと企んだようである。私の周囲も最近は瓦屋根が減り、鋼板葺きの屋根が増えている。冬の雪下ろしの省力化を考え、滑り落とし・自然落下方式を採用するためである。
その結果として、屋根瓦の下に巣作りをしていたスズメが住処を追われる事になったのだ。ツバメは順調ならば、二回の子育てをして南へと帰る。一回目の巣立ちは七月の初めに終わっていて、二回目の仕度をしていた最中である。
妻はツバメが可哀そうだから、何とかしてと言うが、私にしては可哀そうなのはスズメも同じである。優柔不断な私の態度に、妻は敢然と行動に出た。竹箒でワラ屑、すなわちスズメの巣を除去すると言う荒業である。ところが「あら、大変」と言う妻に訳を聞くと、ワラ屑を引っ張ったら、何と肝心のツバメの巣全体が落ちてしまったと言うのだ。
しばらく、呆然と言うか悄然と言うか一緒に電線に並んでいるツバメとスズメの姿が見られた。
数日すると、又ツバメの鳴き声がけたたましい。まだ夜も明けぬ、四時前から二階の私達の寝室の前の電線で鳴いている。あいつ等私達に巣が落ちた恨み言でも聞かせているのかと考えたりしたのだが、そうではなかった。気が付くと、いつの間にか大屋根のすぐ下、二階のサンルームの庇に新しい巣が出来ていた。賑やかな鳴き声は二回目の愛のささやきだったのである。
ここのところ恒例になった、けたたましい愛の言葉の交換に目覚めた私達といえば、妻は安心して再度眠りに入り、眠られぬ私は犬のマックスの散歩を兼ね、軽トラックで、山の畑へと向かう。