「つばめ」
今年も、玄関の庇の下から5羽の「ツバメ」が無事に巣立った。
私が育った家は、5人の子供を一生懸命育てながら、資金も無く、又、昭和30年代の初めであり、公庫などと言う便利な仕組みも無い中、貧しかった両親が果敢に挑戦して建てた家であった。
母屋だけを、先に建て、資金の出来た範囲で、建て増しを繰り返した家は、高度成長経済にも助けられ、完成した時に、家は残ったが、借金は残らなかったと、母は自慢気に言ったものだった。
しかし、乏しい資金で建て増ししたその家は、内玄関の、天井さえ仕上げてなく、梁やらなにやら、剥き出しで、ネズミなど走り回り放題。蛇を恐れる「ツバメ」が、巣を構えるような環境の家では、到底無かった。
生き物の大好きな私は、友達の「ツバメ」が来る家が羨ましくてならなかった。巣の近くに隠れ、「親ツバメ」が運ぶ餌に、一斉に黄色い口を開く「子ツバメ」を、飽かず眺めていたものだった。
母の死後何年か経ち、10年程前に、家を新築した。その家にツバメ達が懸命に、巣作りを始めた時は、高揚した気持ちの覚めやらない中で、自分の家が出来た。と言う実感に浸らされた、至福の時でもあった。その後、毎年のように「ツバメ」達は来てくれた。
しかし、我が家の「ツバメ」達も、安穏な生活だけでは無かった。なんと、アルミサッシの僅かな隙間を利用して、「子ツバメ」を狙う、蛇がいたのである。
ある朝、群れをなし、大騒ぎをする鳴き声に、嫌な予感を感じ、玄関に飛び出してみると、蛇が巣に頭を入れている最中であった。すぐさま棒で、蛇を叩き落した。
中々巣に戻らない「親ツバメ」の様子に心配し、巣を覗くと、なんと言う事であろうか、可愛そうにすべての雛達は無残に事切れていたのである。
(続く)