聡明女学院では ボランティア活動も成績に加えられる
例えば試験で赤点をとり 追試受けてもまだ足りない場合への救済措置でもある
しかしそうした悲しい事情が無くても 休日に自宅以外の掃除をした
公共機関でお手伝いをした―などは おおいに推奨される行為だ
安倍すずか 香月さやか 藤衣なつきは 風姫山の景海寺住職 英心が 仮住まいの建物で 参拝客にぜんざいを振る舞うと聞き 手伝いを志願したのだ
学年主任の大島千恵子は 張り切って言った
「皆さん 大和女学園の生徒さんも参加されるそうです
よろしいですね 聡明女学院の名を辱めない言動を心がけて下さい
安倍さん 香月さん 藤衣さん 大丈夫ですね」
騒ぎを起こすなら この三人と 大島先生は警戒してるのだった
前にも大島先生は言ったことがある
「あなた達が無事に卒業するまでは わたしは安心して お嫁にいけません」
とは言うものの大島先生は三人を可愛がってくれていた
後輩にあたる数学担当の高山真由子先生によれば 大島先生も学生時代は目立つ やんちゃさんだったとか
三人の担任の英語担当 美人の長崎薫先生も言った
「心配ですわ わたくしもついてまいりますから」
当日 風姫山は 大和女学園と 聡明女学院の生徒 引率の教師
ぜんざい目当ての人々で まるでお祭りのような賑わいだった
大和女学園と聡明女学院は同じ中学から高校まで 望めば大学もあり 女ばっかり十年間―そこでどうしても何かにつけ比較されるのだ
ライバル校と言われ 何かと張り合おうとする意識も生徒達にはある
藤衣なつきの姿を発見し 大和女学園の細川かずみは燃えていた
彼女は陸上部 走り幅跳びと100m走の県大会記録があったのに・・・それをあっさり飛び入り同然のなつきに破られ 激しくプライドを傷付けられた
頼まれれば弱いなつきは幽霊部員だが名前だけ陸上部にもいれていた
活動したことはないが
もっともっと弱小の廃部寸前写真部で だらあ~っと活動しているので
なつきはあっという間に かずみを抜き去り テープを切った
誰もが期待してなかった幅跳びも呆れるほど跳んだ
全く無駄に運動神経が良い娘なのだ
細川かずみは友人の谷野杏子と梅原紀久子に宣言した
「あたし彼女にだけは負けないわ」
杏子と紀久子は呆れた
ぜんざい配りで何を勝負すると言うのだろう
漬けた小豆を煮て 焼いたお餅乗せたぜんざいの碗を配るだけなのに
「このあたしが あんなにぼおおおおぉぉぉ~~~っとしたのに負けたなんて」
その様子を遠くから見ていたなつきは言った「水かけてやりたいほど熱くなってるのがいる」
「陸上一筋にきて たてた記録を のんびり気紛れに参加したのにあっさり破られちゃ むきにもなるでしょ」とさやか
文芸部だが部員の足りない新聞部の応援もしているので詳しい
「あ・ああ」となつきも思い当たった様子
「モテる男は罪つくりですわね」とすずかが言う
むきになるなつき「僕は男じゃない」
男物のトレーナー パーカー
ジーンズだけはウエストの関係で女性用 それに黒い前掛けをしている 紐を後ろで交差させ前で結ぶ着方だ
「まあ どうでもよい話はおいといて
頑張りましょう」さやかがにっこりした
がばっと割烹着を被り 戦闘準備OK
髪も白い三角巾の下に
すずかも揃いの白い割烹着に白い三角巾
なつきは髪はバンダナで包んだ
それぞれ各自割り当てられた持ち場につく
さやかは小豆の煮え加減を見張り なつきは焼いた餅をひっくり返す
すずかはぜんざいを客に配る
聡明女学院と大和女学園の教師達は互いに牽制しあいつつ―相手の生徒達を褒める
「あれが聡明中三トリオですか
それぞれ何とも個性的ですね」大和女学園の校長 円尾照子が言う
聡明女学院の まるまちっくって小さい上田弘子校長は おっとりと微笑んだ
「みんな いい子ばかりですねぇ」
何の因縁か 年も同じ
円尾校長は上田校長の事を内心{狸}と思っている
しかしこの度の殺人事件からの騒動には
教育者として心をいためていた
「事件に遭遇した生徒さんは ショックを受けておられるでしょう」
と学年主任の大島先生が 申し訳なさそうに答える
「それが 逞しいコ達で まったく一向に」
「実に元気な面白いコ達なんですよ」上田校長はニコニコしている
それぞれに個性的で目をひく三人がそれだと円尾校長に説明する
そんなわけで藤衣なつき 安倍すずか 香月さやかの三人は 大和女学園の教師達の注目も集めることになった
餅を焼いてるなつきの側に来ては 細川かずみは 自分はもう幾つ焼いた―と五月蠅い
なつきは余り焦げず香ばしく焼けるように神経をつかっていた
「美味しく食べてもらいたいさ~」と気の抜けた言葉を返す
かずみの友人二人は「は・・・恥ずかしい奴」―と 他人のフリをする
最初は少し張り合うところもあった聡明女学院と大和女学園の生徒達は ぜんざい振る舞いが終わる頃には 打ち解け仲良くなっていた
色々な情報の交換もしている
あの殺人事件で死体に遭遇した三人は みんなに取囲まれ質問を受ける
「埋蔵金の噂は聞いたけど 伝説ですもの
場所はおろか本当に存在するかどうかも 分らないんですのよ」
神社の娘 すずかが言う
学生達の何人かは電話番号やメールアドレスを交換し 三三五五 別れ帰っていく
それぞれの学校へ 後日 景海寺から住職が礼に出向いた
ぜんざい振る舞いの間も なつきの頭の中についてきていた姫御前は しつこく言い続けていた
「食べたい わらわも食べたい ぜんざい 」
そのしつこさに負けたなつきは 遂に母親に頼みこんだ
「ぜんざい作って」
めでたく ぜんざいができると なつきは姫御前に体を貸してやった
「ほんに良い子じゃ わらわは満足したぞえ」
―そりゃ満足もするだろうさ―となつきは思う
姫御前は五杯も食べたのだ
体はなつきのもの
なつきは暫く胃もたれに苦しんだ