新垣忠明(しんがき ただあき)に刺されそうになり 庇い助けられた初対面から2年ばかりが過ぎて・・・緑矢あきひの中で連(れん)の存在は日毎に大きくなってきている
祖父の緑矢克雅(みどりや かつまさ)は正式な婚約を考えてみてはーと半ば冗談のように口にする
ただ十歳という年の差とは別に 素直に「好きです」と飛び込めないものを あきひは連に感じていた
子供だと受け流されても仕方ないーあきひの年齢 年の差ではあるけれど
もしも好かれていない嫌われているのだとしたら それは・・・・・・それはひどく哀しい・・・つらい・・・情けない
新垣豊造(しんがき とよぞう)の法事以来 久しぶりに1対1で姿を見て 間近に見る連は少し痩せたようだった
克雅に家に連が来ることを教えられたあきひは 少し考えてういろうを作っておいた
甘さが余りくどくなくて・・・・・・それに案外簡単に作ることができる
緑茶にも合うのだった
「どうぞ・・・・・」
立って庭を眺めていた連に勧める
「祖父が来るまで お相手しているように言いつかりました」
腰かけた連に話しかける
頷いて 連が湯呑み茶碗を手に取る
「いただきます」
「ああ・・・あきひさんのいれてくれるお茶は優しい味がする」
一口飲んで 連が言った
あきひと話す時には連は基本笑顔だ
克雅と話す時にも 連が声を荒げる姿は見たことがない
その笑顔にごまかされている気になることもある
真顔の時には威圧感すら覚える端麗な顔
結婚するというのは この人と一生暮らしていくということ
それが自分には分かっているのだろうかと あきひは思う
自分はまだこの人の好き嫌いさえ知らないのだ
それなのに聞きたい 尋ねたい 自分を想う気持ちはあるのだろうか
少しは自分のことを好きでいてくれるのか
でなければゴリ押しの 押しつけの婚約なんて惨めすぎる
だから確かめておきたい
正直な気持ちを自分で知っておきたい
こんなに苦しいのは嫌だ
恋は もっと楽しいものだと思っていた
「へえ・・・この味は初めてだ 食べやすい ごちそうさま おいしいお菓子ですね」
ういろうを綺麗に食べ終わって連が言う
「あ・・・簡単に作れるんです よかったらまだあります」
「君が?」
「はい・・・」
「有難う」
自分が作ったお菓子をおいしいと全部食べてくれた
お礼を言ってくれた
そんなことが あきひはこんなにも嬉しい
でも早く尋ねないと 祖父が来てしまう
「あの・・・・・」
連がじっと あきひを見る
「あの! あなたは・・・・私を好きだと思っていて下さるのでしょうか」
連はすぐには答えなかった
「そう・・・・・僕は あなたを守り続けたいと考えてる
ただ あなたに些細な瑕疵(かし)でもつけたくない
僕はあなたより10歳年上だ
これからあなたは高校を卒業し大学に入り その先も勉強を続けたいと思うこともあるだろう
そうした生活の中で 僕などよりもっと好きだと思う異性だって現れるかもしれない
可能性に満ちたあなたの未来を まだ僕に縛り付けてはいけない
自由に生きてほしい
何より自身の幸せを考えてほしい
そう 願っていますよ」
「私の可能性?」
「僕にできるのは せいぜい克雅氏の代わり 世間からあなたを守る楯でいること
いまは まだ・・・・・ね」
好きとも嫌いとも わかりやすい言葉は連は言わなかった
好きか嫌いかはっきりわかる言葉が欲しいあきひなのに
あきひの欲しい言葉を連はくれない
「あきひさん あなたは僕にとって無垢な雪だ
消えやすく 溶けやすく 儚い
だからこそ 大切にしておきたい」
あきひと入れ替わりに部屋へ入ってきた克雅は「やれやれ・・・」と言った
「やれやれ 君は誰かを守り続けることばかりしているのだな」と
「そこまで大きな声で話してしまってましたか」
部屋の外に聞えるほどーと連が続ける
「孫娘に関することなら 立ち聞きだって何だってするのが{おじいちゃん}とうものだ」と克雅が開き直る
「薄々 僕の姉の蓮の身に何があったのか 御存じでしょう
僕は自分の理性も信用していません
僕がケモノのように あきひさんに対したらー
あきひさんは美しい これから更に美しくなっていく
いつか僕が傷つけてしまうかもしれない
余り親しく近くにいるべきではない
あきひさんを守る為にも」
「いっそ間違いがあって 君が引き受けてくれるならー」
「あきひさんの生き方を損ねてはいけない ゆがめてはいけない
人生の余りに早い段階で僕に縛り付けてはいけない
・・・・・と 考えています」
克雅は溜息をつく
正しくありたいという連の考え方に
「わたしだって そう長くは生きられない わたしに何かあった時 君が一番あきひを守れる強い立場になれるようにいてほしいんだ」
殺されても死んでない姉の蓮
何かあって その時 自分がどういうモノになっているか わからない連
自分の中にあるモノのことを知らないあきひ
今は普通の人間であっても
連とあきひが夫婦になれば その正体不明のモノが またどういう変化を遂げるのか
それらを知ったあきひが どういうショックを受けることか
会社のこと
姉の蓮のこと
あきひのこと
そして自分のこと
緑矢克雅が死ねば この世から居なくなれば
全部をただ独りで抱え込まなくてはならない
一切合切を新垣連は ただ独りで
祖父の緑矢克雅(みどりや かつまさ)は正式な婚約を考えてみてはーと半ば冗談のように口にする
ただ十歳という年の差とは別に 素直に「好きです」と飛び込めないものを あきひは連に感じていた
子供だと受け流されても仕方ないーあきひの年齢 年の差ではあるけれど
もしも好かれていない嫌われているのだとしたら それは・・・・・・それはひどく哀しい・・・つらい・・・情けない
新垣豊造(しんがき とよぞう)の法事以来 久しぶりに1対1で姿を見て 間近に見る連は少し痩せたようだった
克雅に家に連が来ることを教えられたあきひは 少し考えてういろうを作っておいた
甘さが余りくどくなくて・・・・・・それに案外簡単に作ることができる
緑茶にも合うのだった
「どうぞ・・・・・」
立って庭を眺めていた連に勧める
「祖父が来るまで お相手しているように言いつかりました」
腰かけた連に話しかける
頷いて 連が湯呑み茶碗を手に取る
「いただきます」
「ああ・・・あきひさんのいれてくれるお茶は優しい味がする」
一口飲んで 連が言った
あきひと話す時には連は基本笑顔だ
克雅と話す時にも 連が声を荒げる姿は見たことがない
その笑顔にごまかされている気になることもある
真顔の時には威圧感すら覚える端麗な顔
結婚するというのは この人と一生暮らしていくということ
それが自分には分かっているのだろうかと あきひは思う
自分はまだこの人の好き嫌いさえ知らないのだ
それなのに聞きたい 尋ねたい 自分を想う気持ちはあるのだろうか
少しは自分のことを好きでいてくれるのか
でなければゴリ押しの 押しつけの婚約なんて惨めすぎる
だから確かめておきたい
正直な気持ちを自分で知っておきたい
こんなに苦しいのは嫌だ
恋は もっと楽しいものだと思っていた
「へえ・・・この味は初めてだ 食べやすい ごちそうさま おいしいお菓子ですね」
ういろうを綺麗に食べ終わって連が言う
「あ・・・簡単に作れるんです よかったらまだあります」
「君が?」
「はい・・・」
「有難う」
自分が作ったお菓子をおいしいと全部食べてくれた
お礼を言ってくれた
そんなことが あきひはこんなにも嬉しい
でも早く尋ねないと 祖父が来てしまう
「あの・・・・・」
連がじっと あきひを見る
「あの! あなたは・・・・私を好きだと思っていて下さるのでしょうか」
連はすぐには答えなかった
「そう・・・・・僕は あなたを守り続けたいと考えてる
ただ あなたに些細な瑕疵(かし)でもつけたくない
僕はあなたより10歳年上だ
これからあなたは高校を卒業し大学に入り その先も勉強を続けたいと思うこともあるだろう
そうした生活の中で 僕などよりもっと好きだと思う異性だって現れるかもしれない
可能性に満ちたあなたの未来を まだ僕に縛り付けてはいけない
自由に生きてほしい
何より自身の幸せを考えてほしい
そう 願っていますよ」
「私の可能性?」
「僕にできるのは せいぜい克雅氏の代わり 世間からあなたを守る楯でいること
いまは まだ・・・・・ね」
好きとも嫌いとも わかりやすい言葉は連は言わなかった
好きか嫌いかはっきりわかる言葉が欲しいあきひなのに
あきひの欲しい言葉を連はくれない
「あきひさん あなたは僕にとって無垢な雪だ
消えやすく 溶けやすく 儚い
だからこそ 大切にしておきたい」
あきひと入れ替わりに部屋へ入ってきた克雅は「やれやれ・・・」と言った
「やれやれ 君は誰かを守り続けることばかりしているのだな」と
「そこまで大きな声で話してしまってましたか」
部屋の外に聞えるほどーと連が続ける
「孫娘に関することなら 立ち聞きだって何だってするのが{おじいちゃん}とうものだ」と克雅が開き直る
「薄々 僕の姉の蓮の身に何があったのか 御存じでしょう
僕は自分の理性も信用していません
僕がケモノのように あきひさんに対したらー
あきひさんは美しい これから更に美しくなっていく
いつか僕が傷つけてしまうかもしれない
余り親しく近くにいるべきではない
あきひさんを守る為にも」
「いっそ間違いがあって 君が引き受けてくれるならー」
「あきひさんの生き方を損ねてはいけない ゆがめてはいけない
人生の余りに早い段階で僕に縛り付けてはいけない
・・・・・と 考えています」
克雅は溜息をつく
正しくありたいという連の考え方に
「わたしだって そう長くは生きられない わたしに何かあった時 君が一番あきひを守れる強い立場になれるようにいてほしいんだ」
殺されても死んでない姉の蓮
何かあって その時 自分がどういうモノになっているか わからない連
自分の中にあるモノのことを知らないあきひ
今は普通の人間であっても
連とあきひが夫婦になれば その正体不明のモノが またどういう変化を遂げるのか
それらを知ったあきひが どういうショックを受けることか
会社のこと
姉の蓮のこと
あきひのこと
そして自分のこと
緑矢克雅が死ねば この世から居なくなれば
全部をただ独りで抱え込まなくてはならない
一切合切を新垣連は ただ独りで