ー私ー
家に帰ってもどうせ一人 それならばと空いた時間を人の話相手をするなんて暇つぶしを始めると
ひとり暮らしの人間は それぞれに多少は不思議な話を持っているもので いつか私はそうした話を書きとめるようになっていた
もとは一人暮らしの高齢者(この言い方は好きじゃないんだけど)の方の身のまわりのお世話
ほら 茶碗洗いとか頼まれて買い物に行く ボタンつけなどの縫物をするとか 簡単な仕事のお手伝いーとかしていた
ある事で家族を喪った私は 何かすることで正気を保っていられたのかもしれない
そう むしろ自分自身の為だった
そして私が知ったのは 人は案外 誰かに話しを聞いてもらいたいーそう思っているのだということ
昔話
ずうっと昔のことなのに 悔しくて忘れられないこと
死んでしまって会えない人間の想い出話
ちょっと不気味な 説明のつかない話とか
そうした私の 人の話を聞く趣味を知ったある先生が紹介してくれたのが学校から車で半時間ばかしの所にある先生の自宅近くのお店の経営者だった
その経営者の女性からちょいと変わった夢の話を聞いたからーと
それから私はそのお店の雰囲気もすっかりお気に入りになり 時々食事に行くようになった
そのお店の経営者 女主人は ああ面倒 いっそマダムと仮に呼ぶことにします
マダムはとても上品な雰囲気の女性なのに 時にわざと伝法だったり蓮っ葉な物言いをしたりして それでも品を落とさず似合うのです
私が初めて会った頃には還暦近くの年頃で でももっとずっと若く見えて
首がすっと細くて長いから優雅な鶴のような・・・・・
大学を卒業してからも 理由をつけては寄ったものだった
初めてお店に行ってから いつか十年近い時が流れ ある日ご主人から報せがあった
ー長い間 有難うございました
妻が亡くなり 店を閉めることとなりましたー
後でマダムの葬儀に行った先生から聞いた
マダムの死に顔は その表情は何故かしら夢見るようで甘やかな笑みを浮かべていたと
二度あることは三度ある
かつてマダムはそう言った
もしやマダムはその黒い影が誰か知っていたのではないかしら
人は全てを話すとは限らない
大切なことは胸の奥に秘めているもの
沈黙して語らないことにこそ真実が
だから これは 私が 人がマダムについて話していたことからの勝手な妄想
そう 膨らませてしまった想像のつくりごと話
死神はその人間が誰より好きだった 愛していた相手の顔で現れるという
魂を奪う相手への思いやり 気遣いなのか
それでも死にゆく人は随分と楽になるだろう
死んでいくのが
叶わなかった恋
届かなかった想い
胸の奥底に沈めて諦めるしかなかった恋
そうした相手が娘時代のマダムにもいたのではないかしらと
三度(みたび)死神はその相手の顔で現れ
とうとうマダムを連れていったのかしらと
家に帰ってもどうせ一人 それならばと空いた時間を人の話相手をするなんて暇つぶしを始めると
ひとり暮らしの人間は それぞれに多少は不思議な話を持っているもので いつか私はそうした話を書きとめるようになっていた
もとは一人暮らしの高齢者(この言い方は好きじゃないんだけど)の方の身のまわりのお世話
ほら 茶碗洗いとか頼まれて買い物に行く ボタンつけなどの縫物をするとか 簡単な仕事のお手伝いーとかしていた
ある事で家族を喪った私は 何かすることで正気を保っていられたのかもしれない
そう むしろ自分自身の為だった
そして私が知ったのは 人は案外 誰かに話しを聞いてもらいたいーそう思っているのだということ
昔話
ずうっと昔のことなのに 悔しくて忘れられないこと
死んでしまって会えない人間の想い出話
ちょっと不気味な 説明のつかない話とか
そうした私の 人の話を聞く趣味を知ったある先生が紹介してくれたのが学校から車で半時間ばかしの所にある先生の自宅近くのお店の経営者だった
その経営者の女性からちょいと変わった夢の話を聞いたからーと
それから私はそのお店の雰囲気もすっかりお気に入りになり 時々食事に行くようになった
そのお店の経営者 女主人は ああ面倒 いっそマダムと仮に呼ぶことにします
マダムはとても上品な雰囲気の女性なのに 時にわざと伝法だったり蓮っ葉な物言いをしたりして それでも品を落とさず似合うのです
私が初めて会った頃には還暦近くの年頃で でももっとずっと若く見えて
首がすっと細くて長いから優雅な鶴のような・・・・・
大学を卒業してからも 理由をつけては寄ったものだった
初めてお店に行ってから いつか十年近い時が流れ ある日ご主人から報せがあった
ー長い間 有難うございました
妻が亡くなり 店を閉めることとなりましたー
後でマダムの葬儀に行った先生から聞いた
マダムの死に顔は その表情は何故かしら夢見るようで甘やかな笑みを浮かべていたと
二度あることは三度ある
かつてマダムはそう言った
もしやマダムはその黒い影が誰か知っていたのではないかしら
人は全てを話すとは限らない
大切なことは胸の奥に秘めているもの
沈黙して語らないことにこそ真実が
だから これは 私が 人がマダムについて話していたことからの勝手な妄想
そう 膨らませてしまった想像のつくりごと話
死神はその人間が誰より好きだった 愛していた相手の顔で現れるという
魂を奪う相手への思いやり 気遣いなのか
それでも死にゆく人は随分と楽になるだろう
死んでいくのが
叶わなかった恋
届かなかった想い
胸の奥底に沈めて諦めるしかなかった恋
そうした相手が娘時代のマダムにもいたのではないかしらと
三度(みたび)死神はその相手の顔で現れ
とうとうマダムを連れていったのかしらと