殺人事件は解決したが 景海寺がある風姫山と姫御前神社がある貴恋山周辺は時ならぬ純粋じゃない観光客に迷惑していた
夜半スコップ担いできたり ブルドーザ―で乗り込む古い映画の悪役のような事をする常識忘れた人間もいる
―ね・・・眠れぬわ!―物臭な姫御前もたいそうご立腹であった
最近 新しい芸を覚えた姫御前はなつきの頭の中に話しかける
「ふ~ん そりゃ大変だね」と なつきはすげなく言う
ばかりか一度などは叱られた
「あのね 授業中はやめてよね
特に生物は僕が楽しみにしてる数少ない・・・授業なんだから」
で「だいたい・・・」と なつきは続ける
「さやかやすずか それにしずか 僕でなくても いいじゃんか」
「そなたは わらわのこの世での宿のようなものじゃ
せいぜい体をいとうてたも」高笑いと共に姫御前は言う
なつきは半ば頭を抱えつつ叫んだ「勝手に宿にするな」
ハタから見れば随分危ない奴である
さあて そうした記事を書いた記者の事が刑事達の間では話題になっていた
すっぱ抜いて書かれなければ 事件も解決したし こんな大騒動にはならなかったはずなのだ
「本人いわく服部半蔵の遠縁の隠し子の子孫だとか
家光はこの隠し金の件に関しては柳生も服部も どちらも信用せず
どちらも隠し金の行方を突き止めようとして失敗した
記者の先祖の忍者はこの地に住みつき生涯かけて探ったが
姫御前の死と共に 隠し金の行方は判らないまま
しつこく代々の子孫は探しつづけていたそうな」
山本が話し終わると 津田が言った
「そりゃ無能な一族なんだ」
「そのせいで毎晩警戒体制だ たいした山じゃないから 迷い込んで遭難はないだろうが」日頃温厚な三船も機嫌が悪い
携帯電話を閉じて雅が立ち上がる「ビデオの予約確認もしたし 見回り行ってきます」
雅 京四郎は携帯電話で番組予約までしているらしい
次第に上品イケメン王子の評価は 時代劇オタクの妙な奴へ―変わりつつある
来年のバレンタイン・デーに貰えるチョコはないかもしれない
ただ本人はもてるもてないは さほど気にしていない
雅が出ていくと津田が拗ねた「何であいつは無駄にああも元気なんだ」
「そりゃ若いからだろ羨ましいこった」と山本が人の悪い笑顔になる
言葉につまった津田は上着持ち立ち上がる 「俺も行ってきます!」
人の噂も七十五日
けれど時ならぬ黄金熱 一獲千金の夢はいつ収まるものか
住人達もパトロールしているが
噂の無能な忍者の子孫の記者も地図を片手に山に入っていた
彼は姫御前神社に何か証拠があるのでは―と疑っている
名前を 初鳥吾郎(はつとり ごろう)と言う
代々 埋蔵金の夢にとりつかれているのだ
妄執と言ってもいいだろう
身長175センチ やや太め・・・
自分こそ埋蔵金を見つけるのだと
その情熱はかなりハタ迷惑である
しかも姫御前神社の娘 安倍すずかが気になっている
いっそ清いお付き合いを続けてめでたくお婿になれれば~なんて勝手に 慾と二人づれの夢を見ている
初鳥吾郎三十五才 安倍すずか十五才
お似合いのカップルとは絶対に言えない