路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

 路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

【社説①】:岸田首相会見 国民の不安解消されぬ

2022-02-18 05:05:50 | 【感染症(1類~5類)・新型コロナ・エボラ・食中毒・鳥インフル・豚コレラ】

【社説①】:岸田首相会見 国民の不安解消されぬ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:岸田首相会見 国民の不安解消されぬ 

 新型コロナウイルスの変異株オミクロン株による感染拡大が続く中、政府はきょう、まん延防止等重点措置について北海道などの期限延長を決める。期限は計31都道府県で来月6日までとなる。

 これに合わせて岸田文雄首相は記者会見を行った。短時間の囲み取材ではなく正式な会見は年初以来、1カ月半ぶりである。

 新規感染者数はピークを越えたとされるものの、1日当たりの死者数は過去最多の水準だ。重症者数も高止まりしている。いずれも高齢者が感染の中心だ。

 全国の自宅療養者は過去最多を更新し、療養中に亡くなる人も多い。第5波と同様の事態だ。

 しかし首相は会見で必要な医療は提供できていると述べた。さらに「第6波の出口に向かって徐々に歩みを始める」と語った。

 首相は重点措置の延長と同時に水際対策の緩和も打ち出した。メッセージがちぐはぐに見える。

 危機的状況を認識しているのか。これでは国民の不安は解消されまい。現実を直視し、命と健康を守る取り組みに力を入れる時だ。

 首相は水際対策の緩和について、入国者数の上限を現行の3500人から5千人に引き上げ、原則禁止していた外国人の新規入国の制限を緩めるとした。待機期間も現行の7日を3日に短縮する。

 これまで首相は「先進7カ国で最も厳しい」とする水際対策で感染拡大を遅らせ、医療提供体制の拡充に取り組むことをコロナ対策の核心に位置づけてきた。

 だが、経済界や留学生から「鎖国」と批判され、与党からも緩和を求める意見が出ていた。

 首相はこうした声に押されて緩和に踏み切らざるを得なかったのだろう。そのためか、重点措置の延長と矛盾しないのか、5千人とする根拠は何か、といった質問に説得力のある説明はなかった。

 緩和するなら空港での検査や健康観察の態勢などの拡充をセットにして、感染状況を見極めながら判断することが欠かせない。

 東京や大阪で重症病床の使用率は緊急事態宣言の要請基準を超え、医療提供体制は逼迫(ひっぱく)している。

 鍵を握るのは高齢者に対するワクチンの追加接種だ。しかし、首相は遅れている理由について明確に答えず「さらに加速させる」と述べるにとどまった。

 2回目までと異なる種類のワクチンを接種することへの懸念が遅れの一因との指摘もある。

 国民の不安に丁寧に応えるのが会見のあるべき姿だろう。

 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年02月18日  05:01:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【社説②】:ヘイト条例合憲 差別なき社会へ前進を

2022-02-18 05:05:40 | 【事件・未解決事件・犯罪・疑惑・詐欺・闇バイト・旧統一教会を巡る事件他】

【社説②】:ヘイト条例合憲 差別なき社会へ前進を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:ヘイト条例合憲 差別なき社会へ前進を 

 ヘイトスピーチの抑止策を定めた大阪市の条例が表現の自由を保障する憲法の規定に反するかどうかが争われた住民訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷は合憲とする初の判断を示した。

 違反したら氏名や団体名を公表するとした条例について「表現の自由の制限は合理的で必要やむを得ない限度にとどまる」とした。

 判決では条例が表現活動を一定の範囲で制約すると認めつつ、特定の民族への差別意識を助長し、加害を扇動する行為は抑止する必要性が高いと指摘した。

 最高裁がヘイトスピーチの有害性に着目し、差別を封じる意義を明確に示したことは大きい。

 各地での条例制定に向けた動きを後押しする可能性がある。

 多様な意見が阻害されることは本来あってはならないが、人間を差別し、尊厳を著しく傷つけるような言動は許されない。

 法令の整備と並行して差別解消への粘り強い取り組みを社会に広げていきたい。

 大阪市の条例は専門家らの審査会がヘイトに当たるか検討し、答申を受けた市長が認めた場合は実施団体や個人名を公表できる。

 原告は大阪市民らで政治的主張まで規制される恐れがあり、条例は無効だとして関連する公金支出約115万円について、当時市長だった吉村洋文大阪府知事に返還請求するよう市に求めた。

 国内では2016年にヘイトスピーチ解消法が施行されたが、表現の自由との兼ね合いで罰則のない理念法としている。そのため、実効性を高めようと独自に条例を制定する自治体が出てきた。

 川崎市の条例では市が氏名公表と同時に刑事告発し、裁判で有罪が確定すれば50万円以下の罰金が科される。ただ、ネットの投稿は対象外で課題となっている。

 ネット上では匿名の排外的な書き込みが後を絶たない。加害者の責任を追及するにも被害者の負担は大きく、時間がかかる。被害者の早期救済への仕組みが急務だ。

 かつて道内の地方議員が「アイヌ民族はもういない」と発言したり、沖縄県の米軍施設工事への反対派を機動隊員が「土人」と呼ぶなど、事実と全く異なる差別的言動は見過ごしてはならない。

 政府や国会は差別のない社会に向けて何が必要なのか、何をすべきなのか議論を深めるべきだ。

 教育などを通じて過去の歴史ときちんと向き合い、差別を生む社会の土壌自体を変えていくことも欠かせない。

 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年02月18日  05:01:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【卓上四季】:セイを求めて

2022-02-18 05:05:30 | 【学術・哲学・文化・文芸・芸術・芸能・小説・文化の担い手である著作権】

【卓上四季】:セイを求めて

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季】:セイを求めて

 フィンランドの作家ミア・カンキマキさんのデビュー作「清少納言を求めて、フィンランドから京都へ」(草思社)は、人生に飽いた作者が清少納言を研究するため、長期休暇制度を利用して日本や英国、タイで過ごした日々をつづる。清少納言にセイと呼びかけ、対話する文体が新鮮だ

 ▼大学時代に英訳の枕草子を読んで憧れていたという理由だけで、日本語の日常会話もままならない状態で来日した。それでも、清少納言がなぜ枕草子を書いたかを考察した章は圧巻である

 ▼清少納言が仕えた中宮定子(ていし)は、朝廷の実権を巡る藤原氏の政争で道長のライバルだった伊周(これちか)の妹に当たる。だから、セイは伊周の依頼で身の回りの「をかし」を書き、定子のサロンを「素敵!」と思わせようとした。広告編集の経験から、そう直感する

 ▼自国で文献を調べても、同じ結論に至ったかもしれない。だが、セイが暮らしたかつての平安京を実際に歩いたからこそ、清少納言の魅力を伝えて余りある作品に昇華できたのだろう

 ▼岸田文雄首相が外国人の新規入国を原則禁止する新型コロナの水際対策を緩和すると発表した。「鎖国」批判を受けたものだが、入国制限は続く

 ▼ミアさんは遠い北欧の国に日本古典文学の面白さを伝えた。それぞれのセイを求めて日本を目指す外国人は多い。門戸を狭め過ぎて損失が生じないか。国民の安心とのバランスが悩ましい。2022・2・18

 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】  2022年02月18日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【岸田首相】:収束なお視界不良 17道府県「まん延」延長/1日の死者最多、世論意識 水際緩和小幅に

2022-02-18 05:05:20 | 【感染症(1類~5類)・新型コロナ・エボラ・食中毒・鳥インフル・豚コレラ】

【岸田首相】:収束なお視界不良 17道府県「まん延」延長/1日の死者最多、世論意識 水際緩和小幅に

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【岸田首相】:収束なお視界不良 17道府県「まん延」延長/1日の死者最多、世論意識 水際緩和小幅に 

 北海道など17道府県への新型コロナウイルスまん延防止等重点措置の延長を決めた岸田文雄首相は、17日の記者会見で感染「第6波」の収束が見えつつあると強調した。ただ、1日当たりの死者数は過去最多となり、ワクチン3回目接種率も低迷。水際対策では緩和を求める経済界と、慎重な世論の双方に気を配った結果、小幅な緩和となった。首相はさらなる水際対策の緩和など出口戦略も語ったが、その行方はなお不透明だ。

収束なお視界不良 17道府県「まん延」延長/1日の死者最多 首相、世論意識 水際緩和小幅に

 

 首相は会見冒頭で「諸外国に比べ感染状況を低いレベルに抑えられている」と説明。まん延防止措置について「飲食店のクラスター(感染者集団)が減少するなど一定の効果はあった」と述べた。

 延長に関し「今が一番厳しい時だと思う。この困難を乗り越えられるよう、もうしばらく協力をお願いする」と話し、軽く頭を下げた。菅義偉前首相が昨年8月、感染状況が改善しない中で「明かりははっきりと見えている」と述べ、批判を浴びたことを念頭に低姿勢をアピールした形だ。

 官邸内で当初は延長幅を3週間とし、感染が落ち着けば前倒しで解除する案が有力だったが、3月6日までの2週間とした。感染がピークを越したとみた首相は、先行して6日まで措置を延長した14都県と合わせて解除することを重視。「最後は首相が決めた」と官邸関係者は明かす。

 首相の思惑通りに流行が収まるかは見通せない。コロナによる1日当たりの死者数は今月上旬以降100人を超え、17日は271人。「第5波」までで最多だった昨年5月18日の216人を大きく上回る。全人口に対するワクチン3回目接種率は17日時点で11・9%と経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中で最も低い水準だ。首相が就任以来繰り返してきた「最悪を想定」という言葉は看板倒れとなりつつある。

 首相は記者会見で接種の遅れを指摘され、1、2回目の接種が海外に比べて遅れたためと釈明し「1日100万回ペースまで上がってきた。職域接種も本格化する」と語った。ただ、副反応への心配から接種を敬遠する傾向もある中、これまで会見を開いて接種を呼び掛けることもなかった。

 水際対策を巡っては、海外でオミクロン株が確認された昨年11月、外国人の新規入国を原則禁止とし、支持を得た。首相周辺は「首相は国民の反応を一番気にしている」と話す。一方、留学生やビジネス客が入国できず、経済団体から批判が続出。「世界の経済の中で日本が立ち遅れていく」(安倍晋三元首相)との声が党内からも上がり、緩和を余儀なくされた。

 首相は水際対策の緩和には依然として慎重な考えだが、記者会見で入国者数の拡大、待機期間の短縮を表明し「段階的に国際的な人の往来を増やしていく」と述べた。「各方面に批判されない道を探るうちに身動きが取れなくなってしまっている」。厚生労働省関係者は政権の現状を解説した。(吉田隆久、玉邑哲也)

 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 政治 【新型コロナウイルスの感染拡大に伴う施策・まん延防止等重点措置】  2022年02月18日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【フォーカス】:道内第6波ピーク越えた? 高齢者感染増 派生株懸念 短期間で減少見込めず

2022-02-18 05:05:10 | 【感染症(1類~5類)・新型コロナ・エボラ・食中毒・鳥インフル・豚コレラ】

【フォーカス】:道内第6波ピーク越えた? 高齢者感染増 派生株懸念 短期間で減少見込めず

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【フォーカス】:道内第6波ピーク越えた? 高齢者感染増 派生株懸念 短期間で減少見込めず 

 道内の新型コロナウイルスのオミクロン株による感染「第6波」は17日、新規感染者が6日連続で前週の同じ曜日を下回り、減少傾向が強まり始めた。厚生労働省の専門家組織も「全国的な感染拡大のピークは越えた」との見方を示すが、再び3千人台に達した道内の新規感染者が短期間で大きく減ることは考えにくく、高齢の感染者の重症化や死亡が増える懸念も抱える。専門家は「さらに感染力の強い変異株が広がる恐れもあり、まだ安心はできない」と警戒している。

<フォーカス>道内第6波ピーク越えた? 高齢者感染増 派生株懸念 短期間で減少見込めず

 道内の感染第6波は、1月8日に日別の新規感染者が約4カ月ぶりに100人を突破。オミクロン株が道内各地でほぼ同時期に拡大し、今月10日には過去最多の4097人の感染が確認された。ただ12日以降は、前週の同じ曜日を下回る日が続いており、札幌市内の病院幹部は「PCR検査の件数も一時よりは減っており、ピークは越えつつある」との認識を示す。※残り:871文字 全文:1397文字

 ※:この記事は会員限定です。いますぐ登録して続きをお読み下さい。

 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社会 【話題・北海道・医療・新型コロナウイルスの感染拡大】  2022年02月18日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【岸田首相】:ロシアに外交解決要請 ウクライナ巡り首脳電話会談

2022-02-18 00:45:30 | 【ロシア・北方領土・シベリア開発・サハリン石油天然ガス・ウクライナ侵攻犯罪】

【岸田首相】:ロシアに外交解決要請 ウクライナ巡り首脳電話会談

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【岸田首相】:ロシアに外交解決要請 ウクライナ巡り首脳電話会談

 岸田文雄首相は17日夜、ロシアのプーチン大統領と電話会談した。緊張が続くウクライナ情勢について「重大な懸念を持って注視している」と強調。「力による現状変更ではなく、外交交渉によって関係国が受け入れられる解決方法を追求すべきだ」と要請した。両氏は対話の継続で一致。プーチン氏は「侵攻する意図はない」と言明し、米国や北大西洋条約機構(NATO)との安全保障を巡る交渉のやりとりを詳細に説明した。

 ロシアのプーチン大統領との電話会談を終え、取材に応じる岸田首相=17日夜、首相官邸

 ロシアのプーチン大統領との電話会談を終え、取材に応じる岸田首相=17日夜、首相官邸

 両氏がウクライナ情勢を主題に話し合うのは初めて。電話会談は日本側が要請し、約25分間行われた。首相は終了後、記者団に「粘り強い外交努力を続けていきたい」と表明した。(共同通信)

 元稿:東京新聞社 主要ニュース 政治 【政策・外交・ ロシア】  2022年02月18日  00:45:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【スピードスケート女子1000m】:高木美帆「体は限界でも謎の自信あった」金メダル決まる前にガッツポーズ

2022-02-18 00:43:30 | 【中国・共産党・香港・一国二制度・台湾・一帯一路、国家の個人等の権利を抑圧統治】

【スピードスケート女子1000m】:高木美帆「体は限界でも謎の自信あった」金メダル決まる前にガッツポーズ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【スピードスケート女子1000m】:高木美帆「体は限界でも謎の自信あった」金メダル決まる前にガッツポーズ 

 好発進がメダルの色を決めた。女子1000メートルはスプリント力に加え、スピードを維持できるかが鍵になる種目。17日、北京冬季五輪の自身5種目。高木美帆(27)=日体大職=のイメージは500メートルと同じだった。「スタートを決めることを一番にフォーカスしていた」。反応良く飛びだし、200メートル通過までは17秒60で全体トップタイ。伸びのある滑りで周回を刻めれば、あとは続けるだけだ。
 
スピードスケート女子1000メートル 五輪新記録で金メダルを獲得した高木美帆の滑り

スピードスケート女子1000メートル 五輪新記録で金メダルを獲得した高木美帆の滑り

 
 中盤のバックストレートではヨハン・デビット・コーチの「疲れていても滑りだけは変えるな」という言葉に従い、無駄な足の運びをしないよう心がけた。五輪新記録の1分13秒19をたたき出してフィニッシュ。まだ後ろに2組のレースを残していたが、右腕を何度も上げて喜んだ。
 
会心の滑りにガッツポーズの高木美帆

会心の滑りにガッツポーズの高木美帆

 500メートルから3000メートル、団体追い抜きまで計5種目7レースを完走した。以前から数多くの種目をこなしてきたのは「可能性があるものは、どんどんやっていきたい」という挑戦心があったから。距離にかかわらず、自己記録を0秒01でも塗り替えようとする意識が、短距離のスプリント力、中長距離のスタミナを磨き上げた。

 ◆「コーチたちの支えが表れた金メダル」

 恩師が新型コロナウイルスに感染した影響もあり、世界記録を持つ1500メートルは負けに等しい銀メダル。姉菜那が転倒した団体追い抜き決勝では悔しさを押し殺した。「体に限界はきていた」というが、最後のレースに「2周ぐらいならいける謎の自信があった」という。
 滑りでブレードと氷のぶつかる音がほぼ出ない。日体大1年時に指導した青柳徹部長が「力強さが先に来て、繊細な動きで制御している」と分析するように、パワーを効率よく氷に伝えられるフォームを体に染み込ませてきたから、疲労がたまっても足は動いた。
 
金メダルを獲得し、コーチのヨハン・デビット氏と喜び合う高木美帆(右)

金メダルを獲得し、コーチのヨハン・デビット氏と喜び合う高木美帆(右)

 初五輪だったバンクーバーの1000メートルは、完走者の中で最下位の35位に終わった。悲願だった個人種目の頂点。ソチ五輪後からタッグを組んだデビット・コーチと抱擁を交わすと感極まった。「コーチたちの支えが表れた金メダル。チームの強さを証明できたのかな」。自らの努力と周囲への感謝がもたらした金メダルだった。(北京・永井響太)

 元稿:東京新聞社 主要ニュース スポーツ 【北京五輪・パラリンピック】  2022年02月18日  00:43:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【スピードスケート女子1000m】:高木美帆の意識変えさせたひと言とは? 「スーパー中学生」から12年、最強金メダリストに

2022-02-18 00:43:20 | 【中国・共産党・香港・一国二制度・台湾・一帯一路、国家の個人等の権利を抑圧統治】

【スピードスケート女子1000m】:高木美帆の意識変えさせたひと言とは? 「スーパー中学生」から12年、最強金メダリストに

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【スピードスケート女子1000m】:高木美帆の意識変えさせたひと言とは? 「スーパー中学生」から12年、最強金メダリストに 

 今大会の7レース目。疲れるどころか、切れ味は増していた。北京冬季五輪は17日、スピードスケート女子1000メートルで高木美帆(27)=日体大職=が五輪新記録で金メダルを手にした。両手を突き上げ「悔いはないレースができた。金メダルも取れてうれしさ倍増」。五輪初出場から12年。日本のエースがついに個人種目の頂点に立った。(北京・永井響太)
女子1000メートルを五輪新記録でゴールし、ガッツポーズの高木美帆

女子1000メートルを五輪新記録でゴールし、ガッツポーズの高木美帆

 
 2010年のバンクーバー五輪に出たときは15歳。「スーパー中学生」と騒がれたが、14年ソチ五輪は代表から落選した。「本人に必死さがなかった」。当時、日体大スケート部で指導した青柳徹部長(53)が気になったのは競技への姿勢。荒療治に出た。
 
 代表から落選した後の海外遠征。試合の合間の練習で、「あの選手の後ろにつけ」と命じた。高木美がいないソチ五輪で金2つ、銀3つを獲得したイレイン・ブスト(オランダ)だった。
 
 「滑りを見ろという意味と、そいつが勝つべき相手だと認識させたかった」。世界屈指のオールラウンダーに対抗させ、意識を変えた。それだけの能力があると信じていた。
 
 恩師の期待通り、以降の飛躍はすさまじかった。平昌ではメダル3つを獲得。1500メートルでは世界記録を樹立した。ただ、個人の金メダルだけが足りなかった。「北京は勝ちたい」。狙いは1つだけ。序盤の3000メートルと1500メートルは苦戦。2日前の団体追い抜きは姉の菜那(29)=日本電産サンキョー=の転倒で連覇が消えた。最後のレース。朝、姉に言われた。
 
 「美帆、銀メダル4つでも快挙らしいよ」。気にも留めなかったが、金メダルを取った後に何げない会話を思い出した。実際、1大会4つのメダルは冬季五輪の日本勢最多。それも最高の色で締めくくった。
 
 「この五輪は苦しい中で始まったが最後に出し切れた。やっとみんなに、ありがとうと言える」。張り詰めていた空気がやっと緩んだ。希代のオールラウンダーの目に、最後はうれし涙が光った。

 元稿:東京新聞社 主要ニュース スポーツ 【北京五輪・パラリンピック】  2022年02月17日  23:50:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【スピードスケート女子1000m】:高木美帆、五輪新記録で金メダル「体は限界…でも喜び倍増」 小平奈緒は10位

2022-02-18 00:43:10 | 【中国・共産党・香港・一国二制度・台湾・一帯一路、国家の個人等の権利を抑圧統治】

【スピードスケート女子1000m】:高木美帆、五輪新記録で金メダル「体は限界…でも喜び倍増」 小平奈緒は10位

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【スピードスケート女子1000m】:高木美帆、五輪新記録で金メダル「体は限界…でも喜び倍増」 小平奈緒は10位 

 北京冬季五輪スピードスケートは17日、女子1000メートルが行われ、今大会5種目目で3つの銀メダルを獲得している高木美帆(27)=日体大職=は1分13秒19で五輪記録を更新して金メダルを獲得した。
 
スピードスケート女子1000メートル 五輪新記録を出しガッツポーズする高木美帆=北京(AP)

 スピードスケート女子1000メートル 五輪新記録を出しガッツポーズする高木美帆=北京(AP)

 今大会5種目に出場し、金1つ銀3つ、計4つのメダルを獲得。計7つの五輪メダルは日本女子最多を更新。個人種目での金メダルは初だった。表彰式直後の一問一答は以下の通り。
 
ー最後に金メダル
 「何かこの五輪の出だしは本当につらいことがたくさんあって、調子を上げきれないまま3000m、1500mに挑む形になったので、すごい苦しい中での始まりだったんですけど、最後にこうやって自分の全てを出し切ることができた。このレースで金が取れなくても、悔いはないって思えるレースができたことがすごく嬉しくて、さらに金メダルを取れたっていうことで、嬉しさが倍増というか、何か形となって残ったなと思う」
 
ー今大会7レース行って疲れは
 「(7レースを終え)正直、もう体の方は限界が来ていて、疲労感というより咳が出ちゃうんですけど、内臓というか体の中の方がギリギリのところだった。無事に走り切れてよかった」
 
ーパシュートからの切り替えは
 「パシュートから2日かというところで難しい部分もあったけど、仲間だったり、日本にいる人たちからたくさんのエールをいただいて、スタートの一歩目を出すときに、ひるまずに攻めることができた。最後1000mが終わってやっとみんなにありがとうって言える」
 
ー改めて個人での金メダル
 「思い返せば、初めてシニアの大会で表彰台に上がったのも1000mだった。ずっと1500mを頑張ってきたけど、1000は1000で私にとって、また1500とは違った、特別な種目なんだなと実感している」
 
▷高木美帆の獲得メダル
・18年平昌
団体パシュート 金
     1500m  銀
             1000m  銅

・22年北京
             1000m  金
             1500m  銀
              500m   銀
団体パシュート 銀
 
   ◇   ◇

 ◆前回覇者小平10位「絶望的な状況から…感謝」

 この種目連覇を狙う小平奈緒(35)=相沢病院=は1分15秒66で10位だった。
 「500mの時のような大きなミスはなかったが、年が明けてから一度、絶望的な状況に陥ってしまって、この大会に間に合うか心配だった。少しでも希望を見ることができた。成し遂げることはできなかったが、自分なりにやり遂げることはできたのかなと思う。楽しいんで滑ることが多くの皆さんの心に響くことだと思い、自分自身もこころからスケートを楽しもうと思ってスタートラインについた。痛みとか、やるせなさとか、体からにじみ出てくるようなことも、その都度飲み込んで自分なりに乗り越えるために本当に多くの皆さんに支えていただいた。その感謝の気持ちを持って滑ることができたのは良かった」
 
【関連記事】今さら人に聞けない…スピードスケートの最強オールラウンダー、高木美帆のすごさって?時速何キロぐらい出てるの?
【関連記事】涙が止まらない姉を妹はそっと抱きしめた…高木菜那・美帆姉妹が紡ぐ物語は続く
【関連記事】高木美帆、本人が驚く快走 2個目の銀メダルは「挑戦した証し。誇りたい」<スピードスケート女子500m>
【関連記事】小平奈緒の「人間的な魅力は金メダル以上」 台風被害の復興の後押し受けたリンゴ農家から声援

 元稿:東京新聞社 主要ニュース スポーツ 【北京五輪・パラリンピック】  2022年02月17日  18:53:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【フィギュアスケート女子フリー】:「まさか個人でメダルとは」坂本花織、盤石の滑りでロシア勢の厚い壁崩す

2022-02-18 00:33:30 | 【中国・共産党・香港・一国二制度・台湾・一帯一路、国家の個人等の権利を抑圧統治】

【フィギュアスケート女子フリー】:「まさか個人でメダルとは」坂本花織、盤石の滑りでロシア勢の厚い壁崩す

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【フィギュアスケート女子フリー】:「まさか個人でメダルとは」坂本花織、盤石の滑りでロシア勢の厚い壁崩す 

 滑りきった坂本花織(21)=シスメックス=は、万感の思いをかみしめるように短く天を仰ぎ、軽く両手を突き上げた。17日、北京冬季五輪フィギュアスケート女子。ショートプログラム(SP)に続き、フリーでもノーミスの滑り。持てる力を余すことなく出し切ると、驚きと歓喜が待っていた。最終演技のワリエワ(ROC)が崩れて、その得点が表示される。「(最初は自分が)3位って認識できなくて。あとあと気付いて、びっくりしかないし、うれしい以外に言葉が出ないです」。顔をくしゃくしゃにして、泣いて、笑った。
フィギュアスケート女子 笑顔で日の丸を掲げる坂本花織

フィギュアスケート女子 笑顔で日の丸を掲げる坂本花織

 
 冒頭のダブルアクセル(2回転半ジャンプ)から、よどみなく演技を紡いだ。ルッツやフリップ、サルコーなどの3回転ジャンプを丁寧にそろえ、スピンやステップも揺らぐ気配はない。派手さはなくても盤石の滑りで存在感を示し、フリーの自己ベストをこの大舞台で塗り替えた。
 
 4回転ジャンプやトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の大技を持たない分、堅実かつ丁寧な演技でロシア勢に対抗してきた。15日のSPで積み上げた技術点は、首位ワリエワに次ぐ43.22点。技術点のベースとなる基礎点はワリエワに5点近く離されたが、全ての要素を取りこぼしなくそろえた結果、技術点の差を1.29点まで詰めた。難しい技がなくても、十分戦えることを示していた。SP後は「トリプルアクセルなしでここまで点数を上げられた」と手応えを語っていた。
のびのびと丁寧に滑る坂本花織

のびのびと丁寧に滑る坂本花織

 難技を駆使する若手の突き上げを受け、焦りを覚えた時期もある。だが、やってきたことは間違いではなかった。「いろいろ悔しい思いもたくさんしてきたこの4年間の集大成というか、今まで頑張ってきたことが報われた」。厳しく育ててくれた中野園子コーチからは「しっかり神さまがついて、見てくれたね」と言ってもらえた。
 
 自分でもロシア勢の壁は厚いと思っていた。それでも、やれることをやりきった結果の銅メダル。「個人でまさかメダルをもらえるとは思っていなかったので、もう、びっくりだし、うれしすぎます」。トレードマークの天真らんまんな笑顔が、これまで以上に輝いた。(北京・永井響太)

 元稿:東京新聞社 主要ニュース スポーツ 【北京五輪・パラリンピック】  2022年02月18日  00:33:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【今日の視覚】:今年の予定(内田樹氏)

2022-02-18 00:03:50 | 【社説・解説・論説・コラム・連載】

【今日の視覚】:今年の予定(内田樹氏)

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【今日の視覚】:今年の予定(内田樹氏)

 新年最初の寄稿なので、今年の個人的な目標を書くことにする。読者諸氏は興味があるまいが、こういうところに書いておくと引っ込みがつかなくなるので、目標の実現可能性が高まるのである。

 まず主宰する道場凱風館(がいふうかん)を「コモン(共有財産)」化すること。財団法人化して、私名義の土地建物を寄贈する。市民社会というのは市民が私財を投じて「公共」を立ち上げるという遂行的な営みのことだと私は考えている。当世はどこでも公共財を削り取って私財に付け替えることにみなさん熱心であるが、それでは市民社会が立ち行かない。まず隗(かい)より始めよ。貧者の一灯をもって市民社会を支えようという微志である。

 第二に、齢(よわい)古希を過ぎたので、大学や学会の役職から退くこと。急に辞めると困るところもあるので、そろそろと様子を見ながら撤退する。

 第三に、若い人たちの活動を支援する側に回ること。もう私には新規事業を始めるだけの気力体力はないが、人を応援するくらいのことはできる。私のことを「口うるさいおじいさん」だと思っている人が多いが、私は身近の人たちに対してはけっこう「親切なおじいさん」なのである。その「あしながおじさん」的ミッションを余生の課題としたい。

 もう一つは、ライフワークを仕上げること。恩師エマニュエル・レヴィナスの哲学を「伝道」する仕事は今年出る『レヴィナスの時間論』でほぼ終わる。研究書としては不出来だが、私の本務は「研究」ではなく、日本人読者たちの袖をひっぱってレヴィナス哲学にご案内することなので、「そこまで言うなら読んでみようかな」と思ってくれる人が一人でも出れば、責務を果たしたことになるのである。アルベール・カミュの「伝道」本も今年のうちには仕上がりそうである。

 果たして、この目標のうちいくつ実現できるだろう。

 元稿:信濃毎日新聞社 ニュースセレクト 社説・解説・コラム 【今日の視覚】  2022年01月04日  17:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【賢人に聞く】:内田樹氏「おとこたちよ!『思考停止社会』に正しく絶望せよ」

2022-02-18 00:03:40 | 【社説・解説・論説・コラム・連載】

【賢人に聞く】:内田樹氏「おとこたちよ!『思考停止社会』に正しく絶望せよ」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【賢人に聞く】:内田樹氏「おとこたちよ!『思考停止社会』に正しく絶望せよ」

 ◆内田樹(思想家・武道家) 

 鳥取県の智頭という町で天然酵母のパンとビールを作っているタルマーリーという店がある。店を切り盛りする渡邉格・麻里子ご夫妻が、先日神戸のわが家まで遊びに来てくれた。

 その時の最初の話題が、「日本の男たちはどうしてこんなにダメになってしまったのだろう」という嘆きだった。

 「日本の男たちは」というような大雑把な括り方で問題を立ててはいけないのだが、あえて「大雑把に」とらえた方が問題の輪郭がはっきりするということがたまにある。そういう場合は方便として、あえて「雑な論じ方」を採用する。

内田樹氏(C)日刊ゲンダイ

       内田樹氏(C)日刊ゲンダイ

 ■男はこれまで“下駄”をはかされてきた

 タルマーリーのお二人からは、採用しても男子は仕事ができず、こらえ性がなく、すぐに「きつい」と言って辞めてしまう、残って一人前に育つのは女子ばかりだ、という嘆きを聴いた。そうだろうなと思った。

 私の主宰する武道の道場である凱風館には、「部活」というものがある。スキー部とか登山部とか麻雀同好会とか、そういうものである。

 次々と新しい「部活」ができるのだが、この数年を振り返ると、発案するのも、運営するのも、参加するのも女性たちである。乗馬部、滝行部、修学旅行部など、面白そうな部活がいろいろ誕生したのだが、部員はほとんどが女性。先般、羽黒山伏の宿坊に泊まった時も、集まった山伏たちは大半が若い女性であった。『日刊ゲンダイ』の読者はたぶんご存じないだろうが、現代修験道は若い女性たちが支えているのである。なんと。

 何年か前に「医学部受験で女子受験生だけ減点していた」という事件があったのをご記憶だろうか。あれはペーパーテストの点で上から順に取ると、女子学生が過半を占めてしまうので、女子の面接点を減らしていたのだという内情を後から医学部の先生から聴いた。

「パリテ」とか「クォータ制」とかいう議論を表面だけ聴くと、日本におけるジェンダー問題は「女性に下駄を履かせないと、バランスがとれない」ことのように思えるが、実は話は逆なのである。「男子に下駄を履かせないと、バランスがとれない」というのが、日本におけるジェンダー問題の実相なのである。

 制度的に「男に下駄を履かせる」ということは、わが家父長制の伝統である。かつて男は正味の人間的実力とはかかわりなく、「ポスト」が与えられた。それで何とかなった。「ポスト」は定型を要求するからである。

 家長には子弟の進学や就職や結婚についての決定権があった。戦前の民法では、家長の判断に従わないメンバーには勘当されるリスクがあった。家長にはそれだけの権限があった。だから、それらしい顔つきで、それらしいことを言っていれば家族は黙って彼に服したのである。

 しかし、今、そんな制度の支えはない。男たちは正味の人間的実力だけで家族からの敬意を勝ち得なければならない。でも、そんなことができる男は申し訳ないけれど、きわめて少数に止まる。

 ◆「自分は思考停止していない」と思っていないことの異常さ 

 日刊ゲンダイの記者からの依頼は、「思考停止している中高年サラリーマンに年頭の一言」をというものである。彼らはもう定年まで勤め上げて、花束をもらって見送られ、悠々自適の年金生活を送るというようなのどかな未来を期待することができない。 

内田樹氏(C)日刊ゲンダイ

   内田樹氏(C)日刊ゲンダイ

 人口減やパンデミックやAIによる雇用消失が目の前に迫っている。彼らは明日にも路頭に迷うかもしれない、というリスクにさらされている。しかし、そのシリアスな現実を直視する勇気がなく、砂の中に頭を突っ込んでいる駝鳥のように思考停止に陥っているというのが記者氏の診立てであった。

 どうしたらいいのか問われても、私に妙案があるわけではない。とりあえず中高年サラリーマン諸氏にはとりあえず、「私は思考停止しているのではないか」という病識を持ってもらうしかない。病気になるのは「よくあること」である。病気になったら治療すればいいだけの話である。

 けれども、病気なのに「病気じゃない」と思い込んでいると、いずれ危機的な事態になる。問題は、おそらく中高年サラリーマンの多くが「自分は思考停止なんかしてない」と思っていることである。だって、「周りの人間たちと同じことをしている」からである。

 ふつうは「みんながしていること」が「正常」で、「みんながしてないこと」が「異常」である。みんなが思考停止している社会では、思考停止していることが「ふつう」なのである。そして、これが現代日本社会のほんとうの病態なのだと私は思う。

 ■とりあえず「しょんぼり」してみる

 例えば、全国紙や民放テレビは、遠からずビジネスモデルとしては立ち行かなくなる。いくつもの新聞やテレビ局が消えるだろうが、その場合、これまでそういうメディアが果たしていた社会的機能は、何が代替するのか。重要な問いのはずだが、メディアはそれについては口をつぐんで語ろうとしない。「なぜ私たちは存在理由を失ったのでしょうか?」と自問するのがつらい仕事だということはわかる。

 だが、おのれ自身の足元が崩れている時に、それを報道することも分析することもできないほど知的に非力なメディアには、冷たいようだがもう存在理由がない。

 思考停止から脱出するのは、それほど難しいことではない。自分の足元をみつめ、未来をみつめる。そして、ただしく絶望することである。思い切って「しょんぼりする」のである。

 武道を稽古しているとわかるが、「しょんぼりする」というのは、構えとしてはきわめて安定的で、しなやかなのである。どこにも力みがなく、こわばりもない。何か起きてもすぐに対処できる。

「明るさは滅びの姿であろうか、人も家も、暗いうちはまだ滅亡せぬ」と、太宰治は『右大臣実朝』に記している。

 暗いうちはまだ滅亡しない。とりあえず日本の男たちには、適切に「しょんぼりする」ところから始めることをお勧めしたい。

 元稿:日刊ゲンダイ 主要ニュース ライフ 【暮らしニュース】  2022年01月04日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【賢人に聞く】:重松清「ささやかな、がっかり」が人生を豊かにする リモート授業は8勝7敗で“明”

2022-02-18 00:03:30 | 【社説・解説・論説・コラム・連載】

【賢人に聞く】:重松清「ささやかな、がっかり」が人生を豊かにする リモート授業は8勝7敗で“明”

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【賢人に聞く】:重松清「ささやかな、がっかり」が人生を豊かにする リモート授業は8勝7敗で“明”

 ◆重松清 作家・早稲田大学文化構想学部で任期付きの教授

 ワセダの先生になったのは、作家として大失敗だったな──。そんな後悔はするかもしれないと思ったが、1人で部屋にこもってウェブカメラを見つめながら授業をする日が来るなんて夢にも思わなかった。おい、コロナめ。

重松清氏(C)日刊ゲンダイ

    重松清氏(C)日刊ゲンダイ

 2016年度から早稲田大学文化構想学部で任期付きの教授として教壇に立っている。任期3年の契約だったが2回の更新を経て、現在は2~4年生と大学院生を受け持ち、ゼミ、卒研、演習で小説やジャーナリズムについて教える日々。そんななか、20年度の春学期は全講義がオンラインに切り替わり、教育の現場は激変した。従来のやり方はまるで通用しない。モバイル通信や格安スマホを使う学生は、あっという間にギガ不足になってしまった。動画の画質を落としたり、パワポをPDFに切り替えたりして、ギガを長持ちさせてやらないと……。

 ■オンライン授業は「のりしろ」を奪ってしまった

 シラバス(講義概要)も、自分の学生時代とは比べものにならないほど詳細なものが求められる。コロナ禍以前からそうだったけど、リモート授業になって、さらにその窮屈なベクトルに拍車がかかったみたいだ。学生の「課題地獄」を考えると、あらかじめノルマや負担を明示するのは大事なんだけど、「まあ、とりあえずやってみるか」のユルさが消えるのは、学生にもキツいんじゃないかな。

 そう、オンラインはユルさがないんだ。「のりしろ」の時間と言ってもいい。対面だと、落語のマクラのように雑談や世間話をすることで雰囲気をつかみ、学生はもちろん自分の緊張もほぐす。そんな「場を温める時間」があったけど、いまはもう、そもそも「場」が失われたわけだから……。

 オンラインでの講義は、教室に居残ったりキャンパスから最寄り駅まで移動したりする「のりしろ」の時間を奪った。Zoomを退出したら、ハイ、ぷつん。そんな隙間のない日常は学生の間に暗い影を落としていると思う。

 オンラインのつらさを知ったからこそ、対面のうれしさがわかる

 人と人とのつながりが唐突に断ち切られてしまうのは、本当にしんどいものだ。そのつらさが分かるから、おしゃべりができる環境を整えるようにした。ブレークアウトルームで2、3人のグループを作成し、授業後のミーティングホストはゼミ長に預け、自分は退出する。学生同士の放課後はいつの時代も変わらず、大切な時間なのだから。

授業の資料はパワーポイントで作成。大学で教える以前は使ったことがなかったという

 授業の資料はパワーポイントで作成。大学で教える以前は使ったことがなかったという

 コロナ以降、毎日400字以上の日記を書く課題も出すようになった。月に1度.7日間のローテーションを組んで、提出されたものをシゲマツが編集して、1週間分の日記をリミックスしてまとめて、みんなに共有するんだ。大変だけど、やめるわけにはいかない。仲間が何を考え、どのように生活しているかを知ることで、お互いにつながれるから。Slackを使って毎月1冊ずつの書評を共有し合うことも、孤立や孤独の時間を埋めるのに少しは役に立ってるかな。

 リモート授業は「明」か「暗」か? これは、あえて、「8勝7敗で明」だと言いたい。言わなきゃ悔しいじゃないか。「暗」は大前提だけど、だからこそ生まれた「明」もあるはずなんだ。オンラインのつらさを知ったからこそ、対面のうれしさがわかる、みたいにね。

 まあ、でも、学生は大変だよ。30代以上は多少なりとも人間関係の貯金はあるが、20代の若者はそうとは限らない。分断、バッシング、炎上が蔓延する時代ならなおさら、人間関係における遊びがない。「親友」の存在は、オンラインでも変わらないかもしれないけど、「よっ」と声を掛ける顔見知り程度の「よっ友」は、大学に行かないと会えない。サークルやクラブ活動だって、学園祭がオンライン中心になると、コロナ禍以前のバカ騒ぎの伝統を受け継げなくなるし。そういう学生生活のユルさを味わえなかったことが、これからボディーブローみたいに効いてこなきゃいいんだけど……。

 ◆ビミョーに思い通りにならない良さ

 シゲマツ個人の話でいえば、大学側から教授としてお声が掛かった時、正直自信がなかった。心臓を悪くしていたので体力的にしんどい。執筆のペースは物理的に落とさなければならないだろうし、仕事盛りの50代を迎えた作家としていかがなものか。ただ、自分の子どもより若い連中との付き合いは必要なんじゃないかという思いは強かったんだ。

重松清氏(C)日刊ゲンダイ

 重松清氏(C)日刊ゲンダイ

 実際、大学の先生になったおかげでわかったことはたくさんある。トシを重ねていくと思い通りにならないことが増えていく。若い連中には勝てないことがたくさんあるんだと実感して、モヤモヤする。その感情とどう折り合いをつけるのか。衰えを嘆くばかりでは何も生まれない。学生と並んで歩いていたはずなのに、歩幅が違うから置いてけぼりをくらったりする。

 そういうビミョーに思い通りにならないのも、案外いいもんだ。全く思い通りにならないものは、先に心が折れてしまうからダメだけどね。そういう「ささやかな、がっかり」との付き合いは人生を豊かにしてくれるってことも、学生に教えてもらいました。

 前に進んでいく、積み重ねていく、増えるってことだけが豊かさではない。よく見たら前に進んでいないけれど何か豊かだよねって思う時がある。それが俺にとっては学生との付き合いであり、かけがえのない時間です。作家としては大失敗? いや、違うね。

 コロナによって生活が一変したことも同じ。いろんな不自由と、うまく折り合いをつけながら、その日々をエンターテインできる術を身に付けたら、きっと、最強だよ。

(聞き手=小川泰加/日刊ゲンダイ)

 元稿:日刊ゲンダイ 主要ニュース ライフ 【暮らしニュース】  2022年01月02日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【賢人に聞く】:養老孟司氏が示す「脱・対人偏向主義の向こう側」 プロセスこそが人生にとって大切

2022-02-18 00:03:20 | 【社説・解説・論説・コラム・連載】

【賢人に聞く】:養老孟司氏が示す「脱・対人偏向主義の向こう側」 プロセスこそが人生にとって大切

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【賢人に聞く】:養老孟司氏が示す「脱・対人偏向主義の向こう側」 プロセスこそが人生にとって大切

 ◆解剖学者の養老孟司氏(84)氏 

 《今は人間関係ばかり。相手の顔色をうかがいすぎていないか》

 解剖学者の養老孟司氏(84)氏は、新著「ヒトの壁」(新潮新書)でこう喝破する。

 ベストセラー「バカの壁」で、話せばわかるなんて大嘘、耳を貸さない相手には通じないという壁の存在を示した。だからこそ、その壁を共通理解して、それを乗り越えようというメッセージでもあった。

 刊行から約20年たった今、壁は取り除かれるどころか高くなり、ヒトそのものがヒトの障壁となって立ちはだかっているというのである。

養老孟司氏(C)日刊ゲンダイ

         養老孟司氏(C)日刊ゲンダイ

 ■猫を見習え

 ーー社会のレースからまだ降りることはできない。かといって、いびつな社会に無理に合わせようとすれば破綻するか、共倒れになってしまいそうです。先生はかつてお弟子さんに「塀の上を歩け」と仰っていたそうですが。

 「誰でもそうしているのではないでしょうか。サラリーマンであれば、いわゆるプライベートと仕事。どっちかに落ちちゃうことのないよう、綱渡りしている。それを楽しめ、ってことですね。ただ、好きなことをしろといっても、今のヒトはそれで成功しなきゃならないと思ってしまう。評価とか成果を求める。でもヒトから認められるっていうのは頼りないもので、自分では左右できませんね。奥さんを1ミリ動かそうと思ったら、1メートル動いて努力しなければなりません。そんなの諦めて、ただやりたいことをして、楽しむことです。そうすると生きている苦労なんて、あんまりないでしょ。だから猫を見ろっていうんです」

 ーー先生の、愛猫「まる」との暮らしは、多くの人の憧れだったと思います。

 「何にも無理しない猫でしたからね。(まるが死んで)分かったのは心臓が悪かったということで、すこし動くと身体がきつかったのでしょう。人間も、その人に適した生き方というのがあるはずで。それをまた、成功と結び付けて考えるのではなく、たとえば天気の良い日であれば、暖かい縁側に出て昼寝するのがいいというような。そのくらい自由でいいんじゃないですか。しょうがないものは受け入れるしかない、折り合いをつけるしかない。あとはのんびり、好きなようにやればいいんですよ」

 ーーこの脳化社会に毒されないようにする処方箋として、著書「遺言。」のなかでアートを挙げられています。意識(頭)ではなく、感覚(身体)を取り戻せということでしょうか。

 「今の社会では、意識がわかっていないことは、ないものとして、無視しゼロにしてしまう。ゼロかイチか。でも、そんなわけないじゃないですか。僕の芸術についての結論は簡単ですよ、ゼロとイチとの間に存在しているということ。才能とか好き嫌いがありますけど、楽しんでできる人はやればいい。好きなことを楽しんでやっていると、気分が伝わり、周りに移って周りも楽しくなる。だから、ライブなんか人気なのでしょうね。爺さんが白髪頭を集めて深刻な話してたって、誰も傍に寄りません」

 ◆「生きていない」と見られている日本人

「ヒトの壁」新潮新書

       「ヒトの壁」新潮新書

 ーー生まれて、歳を取り、病気になって死ぬ。この限られた一生のうちヒトは何を残すべきなのでしょうか。

 「若い頃、面白いと思ったことがありましてね。宗教は目的地を与えてくれますけれど、プロセスは教えてくれない。科学はプロセスはとても厳密に、論理的にきちんと解明していきますけど、それで行き先どうなるのというと、わからない。プロセスにこだわると行き先不明になっちゃうし、行き先を固定すると、どうやってそこに行ったらいいのかわからない。どっちにせよ、あらかじめ決めるっていうのは、よろしくないんです。繰り返しますが人生、プロセスが大切なんです」

 ーー日本人は、海外から見ると「生きていないんじゃないか」との印象を持たれている。そう、ご著書にありました。

 「そうですね。プロセスを楽しんでいないのが分かるからですよ。なんでそんなに渋い顔しているのって。我々は、自分自身がやっていることをよく考えていない、きちんと評価していないのは確かだと思います。ニュースも世の中も、反応しているだけで、よく見えていないというのが結構あるんです。たとえば環境問題。日本政府の反応が鈍いというのは世界の見るところですよ。国連の気候変動会議では、日本が温暖化対策に消極的だって、『化石賞』なる不名誉な賞を受賞しました。これは皮肉なんですよ。でも彼らは絶対に言いませんけど、この二十年、先進国でGDPが伸びていないのは日本だけなんですね。サラリーマンの実質賃金もひたすら低下している。経済界は、日本は後進国に落ちてきていると言うけど、先進国と同じ経済成長を果たしていたら、日本が出した炭酸ガスはどのくらいになるか。実質的に、日本は脱成長主義にシフトしているんです。このコストは普通のサラリーマンらがかぶっている。日本くらい環境問題に貢献している国はないと国連で首相は言うべきで、化石賞どころか見習えって威張ればいいし、サラリーマンは『お前ら、20年実質賃金の低下我慢できるか』って胸張っていいんです。会社に内部留保じゃなくて、もっと給料寄越せって言って良いんです。こんだけ働いているのにおかしいだろうって。普通に生きているだけだから騙される。足元から考え直せば、小学校の算数程度の理屈で分かることっていくらでもあるんです」

 ■こんな時代の希望とは

 ーーそして、2022年の幕開けです。コロナ禍の終わりすら見えません。

 「テレビでは、ウィルスの電子顕微鏡写真が映されることが多いですよね。アナウンサーと並んで映ったりしてますけど、ウィルスがあの大きさで見える倍率の顕微鏡でアナウンサーを見ると、私の概算では100万メートル、1000キロの桁に達する。ウィルスにとってのヒトは、ヒトにとっての地球以上になると思います。大きさからして、騙されていませんか。ヒトとウィルスの関係も不要不急で、いかに深いか。コロナもやがて薬剤が開発され、多くのヒトが免疫を持ち、一種の共生関係が生じて不要不急の安定状態に入ると思いますよ」

 ーーああすればこうなるという、アタマの時代は終わり、予測不可能な、考え方の前提から変わるような時代への転換もあるとお考えですか?

 「まあそれはないと思いますね。そういうことがあるとすれば、富士山噴火とか都市直下型地震といった天災のときでしょう。日本はとてもまとまりの良い国ですので。我々は自分自身がやっていることを評価していない、よく考えていないのは確かです。見方が変われば、世界は変わる。答えがすぐに見えなくても、問題を丸めないことです」

 ーー少子高齢化とそれに伴う人口減が止まりません。

 「たとえば認知症は研究が進み、予防的に飲ませる治療薬が認可されるかどうか話題になっています。脳は、神経細胞というのは年に1%ゴミが溜まるって若い頃、言われました。そうすると、100年経つと全部ゴミになってしまうんですけど、ゴミを溜まらないよう、片づけるプロセスを進めることができるようになっていくと思います。いつの世も希望はあります」

(聞き手=長昭彦/日刊ゲンダイ)

 元稿:日刊ゲンダイ 主要ニュース ライフ 【暮らしニュース】  2021年12月31日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【賢人に聞く】:養老孟司氏が語る“生きづらさの正体” 「バカの壁」から20年「ヒトの壁」が立ちはだかる

2022-02-18 00:03:10 | 【社説・解説・論説・コラム・連載】

【賢人に聞く】:養老孟司氏が語る“生きづらさの正体” 「バカの壁」から20年「ヒトの壁」が立ちはだかる

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【賢人に聞く】:養老孟司氏が語る“生きづらさの正体” 「バカの壁」から20年「ヒトの壁」が立ちはだかる

 ◆解剖学者の養老孟司氏(84)氏 

 社会が狭くなっている。息苦しく、剣呑で、逃げ場もない。そんな閉塞感のなか、コロナ後の生き方を模索するサラリーマンらに対して、解剖学者の養老孟司氏(84)は新著「ヒトの壁」(新潮新書)でこう喝破する。

 《今は人間関係ばかり。相手の顔色をうかがいすぎていないか》

 ベストセラー「バカの壁」で、話せばわかるなんて大嘘、耳を貸さない相手には通じないという壁の存在を示した。だからこそ、その壁を共通理解して、それを乗り越えようというメッセージでもあった。その刊行から約20年、壁は取り除かれるどころかますます高くなり、ヒトそのものがヒトの障壁となって立ちはだかっているというのである。

養老孟司氏(C)日刊ゲンダイ

    養老孟司氏(C)日刊ゲンダイ

 ■評価を気にするのをやめる

 「やはり世界は狭くなったのでしょう。地球全体に広がったグローバリゼーション、というと聞こえがいいんですけど、地球の広さが分かったというか、抜け道が無くなっちゃった。人によっては、無理して宇宙まで行ったりしてますけれども、たとえ月に住めるようになったとしても、東京の高層ビルとあんまり変わらないだろうって皆、わかっているんじゃないですか。また鬱陶しさが募るだけでしょうし、もう、いくところまでいくしかないかも知れない。ただ、個人のレベルではもうちょっと世界をもう少し広げる、広くすることができるんじゃないかと思う。そのためにも、他人や共同体の評価ばかり気にするのをやめる。そうすると、ヒトじゃないものに目がいくようになりますから、人生にその部分を増やし、それを楽しんでいくといいと思います」

 ーーネットで欲しい情報がすぐに入り、便利になった一方、SNSは悪口雑言で溢れ、名誉棄損どころか自殺者まで出ています。デジタル社会の反動も実社会に悪影響を与えているように見えます。

 「ある考え方で社会をつくっていくと、どうしても特定の社会、ルールができてしまう。そうすると、非常に多くのヒトがそこから漏れ、外れてしまう。いまはアタマ、理屈の世の中ですけど、人間、理屈で生きているかというと、そうでもない。そう割り切れるものでもないんです。そこらへんのバランスが徹底的に崩れてしまった。感覚が伴っていないから、色々おかしなことになっている。最も割りを食っているのは、自然に近いものです。そんな社会の影響を受けないで、世の中に新しく入ってきた若い人たちも非常に戸惑うと思います。自分が全面的に持っていたもののほんの一部を突出させ、理性で生きなければならないのですから。感情で動いたら駄目だと。一番、世の中変わったのはその変じゃないですかね」

 ◆社会の役に立たなくてもいい

 ーーその結果が、対人偏向の歪な社会だと。

 「ある種の考え方が煮詰まっちゃって、にっちもさっちもいかない。変なルールを正面にたてるからいけないんで。職場の女性との関わり方も、親切にすれば、セクハラ。厳しくすればパワハラだって。そういうことを言っているから、相手をするだけでも大変になってしまう。素直に接することができなくなってしまうのでしょう」

 ーーウイルスといい、人智を超える自然や世界を制御しようすること自体、たかがヒトという分際をわきまえていない、と。

 「スマートシティの議論なんか聞くと、よく分かります。交通事故が起こったらどうする、誰が責任持つんだと、予め全部を考えようとする。ああすれば、こうなる。理屈の世界では可能ですけど、それを突き詰め、理性的に予測したからといって、自分たちに都合よく物事をアレンジすることなんてできませんわ。コンピューター、今の情報社会は、実際に生きているというプロセスを無視して、アタマだけでやろうとする。AかBか。いまやっているAIも、ヒトのつくるものですから、ヒトに似てくる。というより、ヒト自体がAI化してますね」

 ーー凶悪事件だけでなく、電車のホームでも、いい歳をした人が肩をぶつけて罵ったり、怒ったりする姿がそここにあるのは、そんな社会に限界が来ているのでしょうか。

 「ヒトが怒る脳科学的なプロセスは、恐れと酷似しているんです。不安で、にっちもさっちもいかなくなっているのは間違いないでしょうね。そうすると、じゃあ、どうするんだと聞いてくる。だから、それが駄目なんだっていうんです。人生は本来、不要不急なんです。社会、共同体からのモノサシでみると、不要不急だと駄目で、役に立たないといけないと思ってしまう。当たり前だけど、そんなことないよと言いたい。また今のヒトは空気を読めというけれど、実はそういうヒトこそ、きちんと考えてなくて、空気で動いているだけだったりする。一部のヒトはこうした方がいいんじゃないの、が、しなきゃ駄目になって、どんどん感情的になっていく。コロナ禍では自粛警察が現れましたね。もともと日本国民には戦時中といい、そういうのがありましたけど、不安で、考えも丸めて、絶対的に自分が正しいと思い込んでしまうのでしょう」

 ■定年まであと3年のところで辞めたワケ

 ーーそんな社会にどっぷり漬かるのではなく、自分で楽しみを見つけ、楽しむ。

 「そうです。好きこそものの上手なれ、と言いますが、論語ではさらに、これを好む者はこれを楽しむ者に如かず、となる。人生、楽しんで生きているかが大切なんです。日本の社会だと、楽しんでいるというと不真面目だと考えてしまう。そうではなくて、やっていること自体が、楽しいかどうか。そんなこと言ったら、サラリーマンなんか、ほとんど全員、会社辞めちゃうんじゃないかとも思いますが。楽しむことに恐怖心すら感じるかも知れませんね。実際のところ、行きたくて会社行っているサラリーマンがどれだけいるか。いないとすると、むしろそっちのほうがおかしいわけで。まあ、僕も若い頃、東大病院で先輩の顔を見ると皆、機嫌悪いんですよ。ああはなりたくないと思ったものですけど、なってましたね。だから辞めたんです」

 ーーそうしたくても、なかなかできません。

 「定年まで3年というときに教授会で辞めると発表したとき、よく不安になりませんねとの声がありました。僕は言ってやったんです、『あなたいつお亡くなりになりますか。不安じゃないですか』って。同じですよ。先が見える道と見えない道があって、見えない道にはよりリスクがあって当たり前。でも、それが生きるということだし、思わぬ発見が自分に対してあったり、おもしろいでしょう。あのときは空が青くてね。どれだけ自分のものでもないものを背負いこんでいたか知りました。背負い、引き受け、常にやらなきゃならないと思い、長いこと本当に一生懸命でしたから。もういくところまでいっちゃった。会社勤めも、楽しんだりする余裕もないくらい頑張っていたと、ゆくゆく気が付くと思いますよ」

 (聞き手=長昭彦/日刊ゲンダイ)

 元稿:日刊ゲンダイ 主要ニュース ライフ 【暮らしニュース】  2021年12月30日  13:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする