【社説・12.04】:トランプ氏関税引き上げ 日本も経済外交の正念場だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.04】:トランプ氏関税引き上げ 日本も経済外交の正念場だ
トランプ次期米大統領は中国からのほぼ全ての輸入品に10%の追加関税を課すと発表した。メキシコとカナダからの輸入品にも1月の就任時に25%の関税を課すという。
中国は医療用麻薬の流入、メキシコとカナダは不法移民と薬物の流入の阻止が目的としている。対策が取られるまで措置を続ける考え。貿易と関係ない問題で関税を交渉カードとする手法はあまりに身勝手で常識外れと言わざるを得ない。問題があれば、米国内で対応するのが筋だろう。
他国の関税だが、日本にも影響がある。多くの自動車メーカーがメキシコを米国輸出の生産拠点にしている。一定の条件を満たせば関税がかからないルールがあるためだ。トランプ氏が関税を引き上げれば、事業環境は一変する。
マツダも10年前にメキシコ工場を稼働させ、2023年には約20万台を造った。販売先は米国が6割と、メキシコ国内をはるかに上回る。
各社は海外の生産、販売を柔軟に見直す必要があるだろう。中国地方に集積する自動車部品メーカーも、さまざまな展開を想定しておきたい。
トランプ氏は大統領選で、日本を含む全ての国からの輸入品に10~20%の関税を課す「普遍的基本関税」を提唱した。中でも中国は60%、メキシコからの自動車には100%以上の高関税を課す考えを示している。
巨大な市場を背景に関税を武器にして相手国に譲歩を迫るのが、トランプ氏の手法である。これがまかり通れば、国際ルールは破綻する。トランプ前政権では、中国と経済制裁の応酬が続き、世界経済の妨げとなった。
世界貿易機関(WTO)で紛争を処理する上級委員会は、トランプ前政権の米国の反対で委員を補充できず、機能が停止したまま。歯止め役がいない状況を何とか打開できないだろうか。
米国は共和党が連邦上下院とも多数派となり、トランプ氏の権力は1期目より強大になる。今回友好国のカナダを標的にしたように日本にも揺さぶりをかけてくるだろう。
石破茂政権はそれに向き合うことになる。少数与党のため、ただでさえ政権の基盤は弱い。外交面で強力なブレーンの存在も見えない。備えを急がねばならない。
米国が高関税を課せば、米国内はインフレに向かい利下げが進まず、ドル高円安になる可能性がある。中国の景気悪化も日本の不安材料だ。石破政権には、トランプ氏の唐突な動きに対するリスク管理が問われる。いつでも政策で対応できるよう、財政的な余地を広げておくべきだ。
関税に限らない。トランプ氏はきのう、日本製鉄によるUSスチールの買収計画について「全面的に反対だ。大統領としてこの取引を阻止する」と交流サイト(SNS)に投稿した。石破首相は先月、計画の承認を求める書簡をバイデン大統領に送ったようだが、トランプ氏とは会談もできていない。
国益に軸を置き、したたかに対応できるかどうか。経済外交の正念場となる。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月04日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。