【社説・12.26】:市街地の危険鳥獣 安全最優先で抜本論議を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.26】:市街地の危険鳥獣 安全最優先で抜本論議を
政府は市街地に現れたクマやイノシシに対し、猟銃の使用を条件付きで認めるよう鳥獣保護管理法の改正準備を進めている。
近年、市街地の近くで暮らす「アーバンベア」による人的被害は深刻化している。人に危害を与えかねない大型動物を、速やかに駆除する仕組みづくりに異論はない。
ただ、最終的に駆除を担うのは地域の猟友会などに所属する民間のハンターだ。高齢化が進む上に、住宅街での発砲を巡る司法判断も揺れている。住民の安全を誰が、どのようにして守るべきか。猟友会頼みの現状を見直す議論も深めてもらいたい。
現行法では市街地にクマやイノシシなどが出没しても、銃猟を使えない。人に危険が迫り、警察官が職務執行法に基づいてハンターに発砲を命じた場合などに限られている。麻酔銃を使うにも都道府県知事の許可が必要で、迅速な対応は難しいのが現状だ。
改正案では市町村長が一定の条件の下で「緊急銃猟」と判断すれば、ハンターの発砲を容認する。建物に損害があった場合は自治体が補償し、けが人が出てもハンターの責任が問われない仕組みも検討中という。駆除のリスクや負担を考えれば当然だろう。
とはいえ銃が住民を傷つける事態は起きてはならない。万全の状況判断が求められる。住民への注意や避難を促すのに警察の協力は不可欠だ。しかし、その警察や司法と、政府方針との足並みはそろっているとは言い難い。
北海道砂川市では、住宅地に現れたヒグマを市の要請で駆除した猟友会の男性が、道公安委員会に「弾丸が建物に届く可能性があった」として猟銃所持許可を取り消された。当初、男性は子グマなので撃つ必要はないと判断したが、市職員の依頼で発砲。警察官も発砲を前提に周辺住民の避難誘導をしていたという。
男性の不服申し立てに対し、札幌地裁は「取り消しは著しく妥当性を欠く」と全面的に主張を認めた。今年10月に札幌高裁が一転して取り消しを「妥当」とし、男性が上告する事態になっている。
責任の重さから駆除を拒むハンターが増えても仕方あるまい。現場にいない市町村長が発砲の是非をどう判断するのか。責任の所在と連携の在り方を明確にした法整備やマニュアルが求められよう。
そもそもハンターは全国で減少が続き、6割は60歳以上と高齢化も進む。駆除には高度な技術と集中力が必要とされる。住民の安全を民間ハンターに委ねる態勢は、いずれ行き詰まるのは明らかだ。
少しずつでも行政主体の駆除へとかじを切る時だろう。狩猟免許を持つ人を自治体の職員や警察官に採用したり、現職員の免許取得を支援したりして対策を強めてもらいたい。地域を巻き込んだ協力体制づくりも欠かせない。
むろん市街地に発砲音などが響かないに越したことはない。クマやイノシシなどが人里に下りてこないよう、放置された柿や栗の木、耕作放棄地などをなくす取り組みを官民で粘り強く続けたい。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月26日 07:00:00 これは参考資料です。転載等は、各自で判断下さい。