《社説①・12.23》:県宿泊税の導入 使途の議論をまず詰めて
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.23》:県宿泊税の導入 使途の議論をまず詰めて
納得できる使途の検討がまず必要だろう。
県が観光振興の新たな財源として2026年度の導入を目指している「宿泊税」である。
1泊300円とし、年間40億円余の税収を見込む制度の大枠は固まりつつある。ただし、徴税を担う観光事業者には異論もあり、理解が十分浸透しているとは言いがたい。
40億円を何に使うのか。宿泊客に負担を求めるのに、公益性の根拠である使途をめぐる議論が後回しになっているからだ。
県の審議会が導入を答申して8カ月。県が「想定される使途」を例示したのは今月18日、県民との意見交換会の場である。
例示された使途の方向性は理解できる。スマホ操作一つで観光ルートを最適化し、複数の交通機関やサービスの予約、決済が行える「MaaS」(マース)の導入はその一つだ。旅行者へのアンケートで、目的地へのアクセスの満足度の低さが信州観光の弱点だとする認識に基づいている。
それは旅行者の利便性向上にとどまらず、高齢者の足となる公共交通の再生充実や、マイカー利用を抑えて温暖化対策につなげられる可能性も含んでいる。
温泉街などのバリアフリー化や廃屋撤去といったまちづくりへの支援も例に挙げた。それらをたたき台に、使途や地域の将来像を事業者、住民らも主体的に考えられれば、税導入の公益性への理解はより深まるだろう。
今のところ県は、税額を書き込んだ条例案を来年2月県会に提出し、使途は条例が成立した後、市町村や事業者を交えて詰めるとのスケジュールでいる。
「他地域の取り組みに後れを取ることは許されない」と阿部守一知事は述べてきた。県民との意見交換会でも、北海道が45億円規模の税収を得る条例を成立させたことを引き合いに「長野県も戦えるようにならなければいけない」と強調した。
ほかの都道府県が次々導入しているからといって税収の規模ありきでことを進めるのは、徴税の重みを考えても疑問がある。
定額300円とする方針に、県旅館ホテル組合会は、低料金の宿ほど割高感が大きくなるなどとして慎重な姿勢だ。物価高騰にさらされる観光地からは、課税される分、値上げできる余地がなくなると懸念する声も上がる。
現場と歩調を合わせ、信州ならではの持ち味を生かした制度のあり方を、ともに練り上げるプロセスを大切すべきだ。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月23日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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