【筆洗】:「内藤新宿より青梅まで/直として通ずるならむ青梅街道/馬糞…
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【筆洗】:「内藤新宿より青梅まで/直として通ずるならむ青梅街道/馬糞…
「内藤新宿より青梅まで/直として通ずるならむ青梅街道/馬糞のかわりに排気ガス/ひきもきらずに連なれり」。茨木のり子さんの「青梅街道」を引きたくなった
▼東京の西の方の住人なら車が「ひきもきらずに連なれり」の光景はおなじみだろう
▼青梅街道と中野通りが交わるあたりに男の子は住んでいた。三歳のある日、冒険を思いついた。青梅街道を横断して家とは逆の方向へ。渡ったはいいが、たくさんの車に怖くなって、帰れなくなった。歩道でわんわん泣いた。音楽家の坂本龍一さんが亡くなった。七十一歳
▼坂本さんの三歳の記憶にその深い音楽が重なる気がする。通りを思い切って渡り、区切られた世界から飛び出す。クラシックから民族音楽、テクノ、ポップ音楽。通りを自由に行き来しながら音の「かけら」を拾い集めて「坂本龍一」という唯一無二の音楽ジャンルをこしらえた
▼環境問題や平和への主張も通りを渡るその人にとって、横断しやすく、おだやかな世界をつくる願いからだろう
▼昨年三月、東日本大震災の被災地の子どもたちによる「東北ユースオーケストラ」の演奏会で坂本さんの新曲「いま時間が傾いて」を聴いた。十一拍子の曲。米中枢同時テロの「9・11」、東日本大震災の「3・11」の十一。鎮魂の曲である。傷ついた人の背中をさするために優しい音を、通りを渡って届ける人だった。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【筆洗】 2023年04月04日 07:05:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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