【社説②】:坂本さんを悼む 音楽に生き行動に生き
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:坂本さんを悼む 音楽に生き行動に生き
音楽家の坂本龍一さんが七十一歳で亡くなった。音楽ユニット「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」の鮮烈な活動をはじめ、世界的なアーティストとして活躍。反戦や脱原発運動に熱心に取り組むなど、音楽に生き、行動に生きた偉才だった。
まさしく衝撃的な登場だった。一九七八(昭和五十三)年、細野晴臣さんと高橋幸宏さんとともに坂本さんが結成したYMOだ。
その特徴は、シンセサイザーを用いた「テクノ・ポップ」。演歌はもちろん、ポップスさえ独特の「湿気」を帯びた音楽性を示してきた日本に、スマートでビートが効き、実に歯切れよい電子音楽を提示。ちょうどコンピューターが普及し始める頃で、音楽界からも新たな時代の到来を予感させた。
三歳からピアノを、十歳からは作曲を学び、東京芸大の大学院を修了。正統派の修練と、最先端のテクノロジーに基盤を置く独自の創作は、広く世界で支持された。
八三年の映画「戦場のメリークリスマス」では、音楽を担当して英国アカデミー賞音楽賞などを受賞する。この作品には俳優として出演もしており、多才さが際立った。また映画「ラストエンペラー」(八七年)では、日本人初の米アカデミー賞作曲賞を受賞した。戦後の日本が生んだ、最も傑出した表現者の一人といえる。
社会に向けた発言や行動も活発だった。森林の保全や植林などを進める一般社団法人「more trees」の設立、二〇〇一年米中枢同時テロをきっかけとした論考集「非戦」の監修などだ。
さらに一一年、東日本大震災と原発災害が起きると脱原発運動に注力。音楽イベントや、市民集会などを通じて、原発そのものと、原発依存を続けようとする人々に対し「ノー」を言い続けた。この国のアーティストには、社会的な発言をためらう風潮もある中で、その存在感は突出していた。
残念ながら今年三月には作家の大江健三郎さんが他界し、そしてまた坂本さんを失った。この国の未来のために「反戦・脱原発」を訴えた二人をしのび、その遺志を受け継ぐ思いを新たにしたい。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年04月04日 07:13:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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