【社説①】:回顧2020 コロナから命守る政策を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:回顧2020 コロナから命守る政策を
新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄(ほんろう)され、恐怖した1年だった。世界中で8千万人以上が感染し、今までに170万を超える命が奪われている。歴史に深く刻まれるのは間違いない。
感染防止へ各国は国境を閉じ、都市封鎖も繰り返されている。
国内では4月に新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言が出され、不要不急の外出や飲食店の営業などが自粛を求められた。学校も一斉休校となった。
人やモノの動きが途絶え、社会は一変した。東京五輪・パラリンピックも1年延期された。経済への影響は大きく、事態は深刻だ。
来年には国内でワクチン接種が始まるだろうが、行き届くには時間がかかる。しばらくはこれまで同様、感染予防に注意しながらの生活を余儀なくされるだろう。
孤立を避け、助け合う。そんな日常を根づかせたい。
政府は国民の生命、財産を守り、生活を支える政策を徹底させなければならない。
■政府の姿勢が一因だ
国内で感染者が初めて確認されたのは1月15日だった。その後、感染は数週間で全国に広がる。
道内では2月末に全小中学校への休校要請があり、道独自の「緊急事態」も宣言された。
全国的には安倍晋三前首相がイベントの中止や延期、小中高校に休校を要請し、緊急事態宣言で国民の多くが「巣ごもり」を受け入れた。宣言は7週間続いた。
にもかかわらず、感染拡大は今や第3波が襲来し、医療体制は旭川などで崩壊の危機を招いた。
要因の一つは政府のちぐはぐな政策にあろう。菅義偉首相は感染防止を求めつつ、観光などを支援する「Go To」事業を進め、国民に移動を促した。
有識者による「新型コロナ対応・民間臨時調査会」は、「場当たり的」と指摘した。科学的知見を軽視すれば危ういということだ。
一方で、自粛要請を強めれば個人の権利の抑圧につながる。芸術やスポーツなどの活動は豊かな生活に欠かせない。公共の利益とのバランスに注意する必要がある。
医療従事者や感染者などへの差別的な言動が心配だ。感染リスクは誰にもあることを理解したい。
■目に余る独り善がり
コロナ下で「政治とカネ」の問題が相次いだ。忘れてはならない。
安倍氏の後援会が主催した「桜を見る会」前夜祭の問題のほか、河井克行前法相と妻の案里参院議員の公選法違反事件や、吉川貴盛元農水相の贈収賄疑惑などだ。
さらに衆院調査局の調べによると、安倍氏は「桜を見る会」問題で事実と異なる国会答弁を少なくとも118回行ったという。
菅首相は山積する問題の真相解明を進めるべきだ。しかし、その姿勢は不十分と言うしかない。
日本学術会議の会員候補任命拒否では理由を示していない。立法府軽視も甚だしい。
権力側の姿勢からは、政権維持には国民への説明はなおざりでいいという独り善がりが透ける。
民主主義の根幹を揺るがしかねない。歴代最長の安倍前政権を継承した菅首相が疑惑の幕引きを許せば、政治不信は増幅しよう。
原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査に入った後志管内の寿都町、神恵内村の動きも自分中心ではないだろうか。
周辺町村の意向は脇に置き、住民の意見の把握も十分ではない。「肌感覚」で強引に進める手法は民主的な手続きとは言い難い。
■強権政治が拡大する
世界でも指導者の言動が社会に不安の種をまき散らした。
11月の米大統領選は民主党のバイデン氏が勝利を確定したが、トランプ大統領は今も敗北宣言はしていない。
民主政治の土台である選挙制度をないがしろにし、米国内の分断をいっそう深めた。この事態を引き起こした責任はあまりに重い。
習近平体制が続く中国の強権姿勢には懸念が強まる。香港に対し6月には国家安全維持法を施行し民主派への締め付けを強めた。
中国が返還時に50年変えないと約束した「一国二制度」は、すでに有名無実化されている。
世界中では富の集中が進み、格差が拡大する。不安や不満が募り、社会の安定を揺るがす。
スウェーデンの調査機関V―Dem独自の調査では、世界の民主主義国は昨年8カ国減り、今世紀初めて非民主主義国が上回った。
民主主義や自由など従来の価値観が信頼を失い、強権的な政治が広がる現実を憂う。貧困層を直撃するコロナ禍がこの流れを後押しする可能性がある。世界が岐路に立っているように見える。
人々が安心と豊かさを感じてこそ、平和は保たれる。指導者が目を向けるべきはそこしかない。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2020年12月30日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。