前号の記事で富士総合火力演習の問題点を記事にしました。ここでは、島嶼奪還作戦のためとのフレコミのウソとトリックについて、考えてみました。愛国者の邪論は、軍事専門家ではありません。以下は、あくまで愛国者の邪論の「邪論」です。
まず、想定です。NHKをはじめ全国紙は、以下のように演習の位置づけを報道しました。そこで、オカシイ!と思いました。それは、
1.まず、相手の部隊・敵部隊・離島に攻めてくる敵・離島の奪還・離島への攻撃・離島防衛・洋上から島に押し寄せる艦艇・離島防衛作戦・離島に上陸した敵・離島奪還などと、その表現がバラバラだということです。
2.尖閣諸島か、或いは与那国島とか沖縄本島とか、本当周辺の島々に「敵」が攻めてくるという場合、どのように想定できるか、です。
(1)中国艦船が大挙して攻めてくる場合、艦船の種類は?
(2)中国艦船が大挙して攻めてきて、領海を侵犯された場合、領海線で戦う?
(3)中国艦船が大挙して攻めてきて、尖閣・沖縄本島・本当周辺の島々に上陸を許してしまった場合?
3.以上3つの想定には、事前の前提があります。
(1)中国軍が大挙して攻めてくるのは何故かという、戦争の要因が考えられなければなりません。事件で言えば、「動機」です。
(2)「万が一」攻めてくる場合、攻めてくるまでの間に、どのような手を打つか、中国国民や中国成府への外交交渉や国際社会に何を訴えるのか、です。
(3)軍事的対立の発生を前提とするのであれば、どのような予算を組むかです。弾や補給・人員は国民が負担するのです!
(4)武力紛争を前提とするのであれば、中国における日本の資産、日本における中国の資産はどうするのかです。その際中国に移転している日本の工場や資本・労働者はどうするのか、です。
(5)死者や負傷者が出ることを想定しておかなければなりません。その対応は?
(6)島々の攻防戦の後の事態、すなわち、武力紛争の拡大とその後の決着の仕方、決着後の日中両政府と国民の感情、経済交流などのあり方を想定しておかなければなりません。
(7)日米軍事同盟が適用されることは当然です。その場合、米中全面戦争の可能性も出てきます。中国を支持する国々とアメリカを支持する国々との関係などを踏まえると、国際的問題となるでしょう。
(8)ということは、日本本土の米軍基地への攻撃を含めて本土攻撃は当然のこととなります。
(9)日米中の戦争となれば、どこまで戦争を継続するか、です。どの段階で戦争を中止するか、です。
(10)或いは、日中武力紛争にアメリカは巻き込まれたくないという態度を取るかもしれません。
4.中国の軍事力の行使を前提とした日本とアメリカの軍事力の対応が問題となりますが、富士総合火力演習の内容を見ると、使用した兵器のデタラメさが浮き彫りになります。
(1)10式戦車・90式戦車74式戦車・74式戦車や96式装輪装甲車?などは、尖閣諸島や沖縄本島周辺の島々で使えるのか、です。
(3)12式地対艦誘導弾も同様です。
(4)対戦車ヘリコプター隊・AH-1 コブラなどは使えるでしょうか?中国が戦車を持ち込むことが前提です。
(5)最後に、尖閣諸島の写真と地図集を見れば、富士山の裾野における演習が如何にデタラメか、判ります。
5.デタラメの「総合火力演習」の政治的意図は何かです。
(1)政治的・軍事的パフォーマンスが中心です。
(2)中国「脅威」論を煽り、安倍自公政権の正当性を強調する。
(3)日米軍事同盟深化論、日米共同作戦を具体化する。
(4)「防衛計画の大綱(防衛大綱)見直しの中間報告」の具体化としての「水陸両用(海兵隊的)機能の確保」(毎日)への宣伝効果。
(5)対中防衛に活躍する自衛隊を国民に宣伝。
(6)軍事力強化の強調によって自民党の改憲案への討議と支持の枠内に国民を巻き込む。
(7)最大のネライは、マスコミを使った宣伝効果。
6.今回の島嶼作戦は、過去の歴史から学ばない軍事論のみの島嶼「防衛」作戦のデタラメさを改めて浮き彫りにしました。
(1)アッツ島の戦い
(2)アッツ島玉砕戦:山崎保代大佐への玉砕命令 鳥飼行博研究室
(3)硫黄島の戦い
(6)フォークランド紛争
(7)島嶼防衛の際の補給・兵站、しかも中国本土との距離との関係、島嶼作戦の軍事戦略と戦術の土台にある政治・経済・文化・思想戦略との関係がほとんど語られていません。
7.尖閣に対して対応している思想と論理を竹島に適用しないのは何故か。
(1)日本が実行支配している尖閣諸島と南西諸島を中国の軍事占領から、その奪還を含めて防衛するというフレコミで軍備・軍事強化を正当化している安倍自公政権ですが、そうであるならば、実効支配を許している竹島は、軍事力で奪還しないのか?です。
(2)中国に対して主張している思想と論理は、大韓民国には適用しないのか、です。勿論、大韓民国は中華人民共和国と違って自由と民主主義という共通の価値観を共有する国家というフレコミがあることは承知しているのですが、安倍首相の主張する「国益」を踏まえるのであれば、中国の尖閣に対する対応とは大きく異なって、日本の領土である竹島に軍隊を派遣して「実行支配」している大韓民国に対して、軍事力を使って奪還しないのは何故か、です。
(3)別に煽るつもりはありませんが、尖閣に対して、盛んに上陸などを試みている日本の「愛国者」たちは、竹島には上陸作戦はしないのか、です。
8.尖閣も竹島も、近代以降の歴史は別として、近代の国際法に準拠して、その歴史的根拠を検証すべきです。それは単に領土の支配の有無だけの問題ではありません。「向こう三軒両隣」思想の具体化です。日本というか、私たちの住む、この列島においては、2000年の歴史を大陸と半島と密接に結びつきながら発展してきたという事実をどのように考え、発展させていくか、です。
歴史の流れに即した友好と連帯、発展を踏まえた思想と論理こそ、日中韓朝国民生活の豊かな発展を保障していくことでしょう。これこそが日本国憲法思想の具体化です。
以下は、富士総合火力演習の性格を表現した日本語一覧です。
NHK 演習は去年に続き、相手の部隊が海上から離島に侵攻し、陸海空の自衛隊が共同で対処することを想定して行われました。
時事 離島防衛などを想定した統合訓練
産経 敵部隊の離島侵攻を想定し、陸海空の3自衛隊が統合作戦で敵を制圧、奪還する一連の流れを演習・離島侵攻に対する制圧・奪還作戦を披露
読売 離島に攻めてくる敵を迎え撃つ想定での訓練
毎日 防衛省は離島の奪還を念頭に、防衛計画の大綱(防衛大綱)見直しの中間報告で、「水陸両用(海兵隊的)機能の確保」
日経 離島への攻撃を受けたとのシナリオで実施
朝日 離島防衛を想定し、洋上から島に押し寄せる艦艇を地対艦ミサイルで狙ったり、上陸部隊を最新鋭の10式戦車などで迎え撃ったりする様子が公開された。
東京 陸海空3自衛隊が連携した離島防衛作戦の際に展開する最新鋭の10式戦車や迫撃砲からの射撃を約2万8千人の観衆に披露した。演習は離島に上陸した敵を排除するとの想定。雨や霧による悪天候で、航空機やヘリコプターを使うプログラムは大半が取りやめになったが、沖縄県・尖閣諸島をめぐる中国との緊張関係を背景に防衛省が進める離島防衛強化をアピール(引用ここまで)
毎日 離島奪還の訓練(引用ここまで)
それでは、前号では掲載しなかった部分を掲載しておきます。
世界遺産登録後初めて富士演習 陸自2013年8月26日
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201308250437.html
陸上自衛隊による国内最大級の実弾射撃演習「富士総合火力演習」が25日、東富士演習場(静岡県御殿場市など)であり、陸自富士教導団を中心とする約2300人の隊員、戦車・装甲車など約90両、戦闘ヘリなど航空機約20機、大砲約50門が参加した。富士山が世界遺産に登録されて以来、初めての演習。陸…(つづく) (引用ここまで)
富士のふもとで実弾射撃演習 陸自、離島防衛を想定2013年8月25日18時31分
http://www.asahi.com/national/update/0825/TKY201308250061.html
【動画】陸上自衛隊富士総合火力演習=仙波理撮影 |
国内最大規模の実弾射撃が行われた陸上自衛隊の「富士総合火力演習」=25日、静岡県の東富士演習場、仙波理撮影 |
陸上自衛隊の「富士総合火力演習」で、一斉砲撃する最新鋭の10式戦車=25日午前、静岡県の東富士演習場、仙波理撮影 |
国内最大規模の実弾射撃が行われた陸上自衛隊の「富士総合火力演習」=25日午前、静岡県の東富士演習場、仙波理撮影 |
実弾射撃をする陸上自衛隊最新鋭の10式戦車=25日午前、静岡県の東富士演習場、仙波理撮影 |
陸上自衛隊最新鋭の対地攻撃用ヘリ「AH-64D」。「アパッチ」の通称で知られる=25日午前、静岡県の東富士演習場、仙波理撮影 |
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陸上自衛隊による国内最大級の実弾射撃演習「富士総合火力演習」が25日、東富士演習場(静岡県御殿場市など)であり、陸自富士教導団を中心とする約2300人の隊員、戦車・装甲車など約90両、戦闘ヘリなど航空機約20機、大砲約50門が参加した。
離島防衛を想定し、洋上から島に押し寄せる艦艇を地対艦ミサイルで狙ったり、上陸部隊を最新鋭の10式戦車などで迎え撃ったりする様子が公開された。
富士山が世界遺産に登録されて以来、初めての演習。陸自によると、世界遺産登録にあたって関係機関が調整し、東富士演習場など自衛隊の演習場や駐屯地は「保全管理区域」に指定された。国や自治体が主体的に管理して景観を損なわないようにするが、自衛隊の訓練などは影響を受けないという。
関連リンク
島しょ部侵攻想定 陸自が実弾射撃訓練 静岡(8/21) (引用ここまで)
離島防衛強化をアピール 陸自の富士総合火力演習 2013年8月25日 17時44分
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013082501001378.html
富士総合火力演習で実弾射撃訓練をする陸上自衛隊の10式戦車=25日、静岡県の東富士演習場
陸上自衛隊で国内最大規模の実弾射撃訓練「富士総合火力演習」が25日、静岡県の東富士演習場であり、陸海空3自衛隊が連携した離島防衛作戦の際に展開する最新鋭の10式戦車や迫撃砲からの射撃を約2万8千人の観衆に披露した。演習は離島に上陸した敵を排除するとの想定。雨や霧による悪天候で、航空機やヘリコプターを使うプログラムは大半が取りやめになったが、沖縄県・尖閣諸島をめぐる中国との緊張関係を背景に防衛省が進める離島防衛強化をアピールした。(共同)(引用ここまで)
陸自:大音響と閃光 国内最大規模、総合火力演習始まる−−東富士 /静岡 毎日新聞 2013年08月21日 地方版
http://mainichi.jp/area/shizuoka/news/20130821ddlk22040152000c.html
島に上陸した敵を自衛隊が撃退するという設定で行われた演習
陸上自衛隊の国内最大規模の実弾射撃訓練「富士総合火力演習」が20日、東富士演習場(御殿場市など)で始まった。離島に上陸した敵を陸海空の3自衛隊が統合して撃退するという昨年同様の設定の演習もあり、初日の昼は招待者ら約1万2380人が見守った。 演習では、タッチパネル式画面を通じて互いの情報が共有できる最新式の10式戦車が攻撃目標を分担しながら攻撃するネットワーク射撃が初めて披露された。 離島奪還の訓練では海上自衛隊のP3C哨戒機や航空自衛隊のF2戦闘機も加わった。迫撃砲や戦車が大音響と閃光(せんこう)、白煙を上げて砲弾を撃ち、目標に命中し土煙が上がると観客からはどよめきが起こった。 昨年並みの約2400人の隊員が参加。戦車や装甲車約80両、大砲約40門、航空機25機が集結した。演習の4日間で使われる弾薬は約44トンで約3億5000万円相当という。【石川宏】(引用ここまで)