日本国憲法は3日、施行から68年を迎えた。憲法改正をめざす安倍晋三首相のもと、自民党は国会での改正発議と国民投票の実施に向けた戦略を模索している。連休明けには、憲法論議の舞台となる衆院憲法審査会で実質的な審議が始まる。改憲へ動く安倍自民党に、他党はどう臨むのか。憲法をめぐる攻防の「現在地」を検証した。

2月4日夕、首相官邸5階の執務室。安倍首相は、自民党の船田元・憲法改正推進本部長と礒崎陽輔・首相補佐官を招き入れた。

数日前から面会を求めていた船田氏の狙いは、憲法改正に向けた段取りについて首相のお墨付きを得ることだった。

「国民投票までの手続きを考えれば、憲法改正は来年夏の参院選には間に合いません」。憲法改正は衆参両院の3分の2以上の賛成で発議し、国民投票で過半数を得る必要がある。それを念頭に、船田氏は国会での与野党の合意形成を優先すべきだと主張した。

改憲を政権の究極目標とする首相は折に触れ、早期改正への意欲を見せてきた。だがこの日は、急がば回れと迂回(うかい)を説く船田氏に賛意を示した。「それが常識的ですね。改正の中身はこれからの議論に任せましょう」

自民党内ではいま、改正時期や段取りを巡る対立が表面化しつつある。船田氏ら「合意形成派」の動きを警戒するのは、首相に近く、来夏の参院選と国民投票の同時実施を掲げる「急進派」の議員たちだ。

「いよいよ安倍政権になって(改正への)機運が高まってきた。状況を見つめ、国民運動として憲法改正に取り組んでいきたいというのが総理の本意だ」

古屋圭司・前拉致問題相は3月19日、早期の憲法改正をめざす運動団体「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の総会であいさつし、首相の「本意」は早期改正にあると強調した。総会では、来夏の参院選に合わせて国民投票を行う目標が再確認された。

首相や古屋氏らは「連合国軍の押しつけ」とみる憲法の中でも、とりわけ戦争放棄を規定する9条改正こそ「本丸」と位置づける。公明や野党の反発が強い9条改正を実現するため、国会の発議要件を過半数に下げる96条改正の先行実施を首相に働きかけたのも、古屋氏ら「急進派」だった

ただ、昨年の衆院選圧勝で首相は求心力を高め、9月の党総裁選も「無投票再選」との声が強まっている。2月の会談で船田氏らは、「時間」を得た首相にギアチェンジを持ちかけ、急進派の機先を制して当面の主導権を握った形だ。国民投票を行う時期の目標設定は、首相の改憲戦略の方向を決めるからだ。

「熟柿(じゅくし)路線」の船田氏らがめざすのは、緊急時の政府・国会対応を規定する緊急事態条項などを新設する改憲策だ。なぜ首相がこだわってきた9条や96条でなく、新条項なのか。(石松恒、渡辺哲哉)

つづきは、2面に(引用ここまで