東京都千代田區大手町1-4、企業ビルの敷地内に遺る、一橋德川家の屋敷跡でしばし足休め。
一橋家は十一代家斉、十五代慶喜と二人の将軍を輩出した御三卿のひとつ。
水戸德川家から養子に入って一橋家の九代目となった慶喜と聞くと、私は先年に慶喜直系の曾孫が急逝して血統が斷絶したと云ふこと、それから大河ドラマ「徳川慶喜」を連想する。
古冩真などが傳へる慶喜は面長な役者顔、主演の本木雅弘さんは現代的な小顔で、ちょっと印象が合はない氣はしたものの、時代の荒波に真っ向真剣勝負で立ち向かふ最後の青年将軍を見事に演じきってゐた。
そのほか、太閤鷹司政通役の宝田明さんが温和にして貫禄ある朝廷の實力者像を綺麗な公家言葉で、關白九條尚忠役の森山周一郎さんが耳に心地よい重低音の聲で幕末に生きた五摂家の名門公家を好演、勝海舟役の當時坂東八十助だった十代目坂東三津五郎さんの、裃姿で端座してゐるだけで周りの俳優たちとは明らかに修業が違ってゐた風情も忘れられない。
……しかし、いま挙げた人々はすでに鬼籍に入ってゐる。
現在見られる一橋家時代の遺構は、一ツ橋の傍に遺る石垣だけらしい。
人はいつか亡くなっても、人が造ったものは守る人さへゐれば、半永久の命を保つ。
命の永續とは──
などと考へはじめるより先に、真冬の容赦ない空氣に體が冷えてきた。
さあ、いま見える先へ歩き始めやう。