迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

かたりあかすもむかしなり。

2012-02-13 22:48:53 | 浮世見聞記
向かいの席に座ったその人は、わたしを見て、驚いたやうな瞳(め)をした。

わたしはてっきり、あの人がわたしの目に、再び見えてしまったのかと思った。

見たくないと願うわたしの心底を、嘲るかのやうに。

わたしはすぐに、その人はわたしを誰かと勘違いしていると思った。

そう、思うことにした。


ほら、瞳(め)が違うだらう。





宿に着いたわたしのもとに、二通の便りが届いていた。


一通は明日のわたし宛て。


もう一通は、半年も昔のわたし宛て。

こちらを差し出したのは、あの人だった。


わたしの心は波立つ。


迷いと。

怒りと。


あの人はもういない。

そうしなければならぬ。


わたしは引き裂いたそれを、

宙に散らす。





もう一通には

明日の宿への道しるべが記されている。


これを大事に懐に仕舞い、

また夢枕で、

懐かしくもない人々に、

逢ってやらう。
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