梅香崎橋のたもとにて、
春のかほりに、
暫し足を留むる。
「見渡せば 柳桜をこきまぜて 都は春の 錦なりけり」
と西行が歌を口ずさみ、
春は桜ばかりにあらず、
緑の美しさにも目を向けるべしと、
教えらるる。
その時、
梅香崎橋の袂にて、
ひとり桜を愛でし法師、
しばらくと我を呼び止むる。
何事と振り向けば、
いま口ずさみし歌、西行に非ず。素性法師の詠みし歌なり
と笑わるる。
はづかしきを忍びて、
そなたはいかなる者やらんと問ひければ、
我こそが歌を詠みし者なり、
と言ひすてて
青める柳のもとに立ち
かき消すやうに失せにけり。
かき消すやうに失せにけり。
春のかほりに、
暫し足を留むる。
「見渡せば 柳桜をこきまぜて 都は春の 錦なりけり」
と西行が歌を口ずさみ、
春は桜ばかりにあらず、
緑の美しさにも目を向けるべしと、
教えらるる。
その時、
梅香崎橋の袂にて、
ひとり桜を愛でし法師、
しばらくと我を呼び止むる。
何事と振り向けば、
いま口ずさみし歌、西行に非ず。素性法師の詠みし歌なり
と笑わるる。
はづかしきを忍びて、
そなたはいかなる者やらんと問ひければ、
我こそが歌を詠みし者なり、
と言ひすてて
青める柳のもとに立ち
かき消すやうに失せにけり。
かき消すやうに失せにけり。