土曜日の深夜
仕事を終わらせ 静岡県富士市に車を走らせる
目的は今期初レース
「富士クリテリウムチャンピオンシップ」への出場だ
朝6時半に起きて 窓を開けたら
目の前に富士の裾野が広がっていた
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なんと美しい街だろう
3月は2時間睡眠が続いていて
なかなかうまくトレーニングを積めなかったが
とりあえずダメ元で出場することにした
レースを走り その場の空気を吸うだけで
これからの自分へのエネルギーを もらえるかもしれない
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レース前にしっかり洗車する五郎さんにならって
チェーンの1コマまでしっかり洗車した
初めてのクリテリウムなので
どんな機材で挑むべきかと五郎さんに聞いたら
「ホイールは軽い方がいい」とのこと
コーナーごとに 一気にスピードを上げる必要があるため
巡行能力よりも加速力が大事だという考えだ
私の場合 ホイールは2択しかなく
軽いホイールといえば 危うく飾り物になりかけている
「ビターボ」で行くことにした
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せっかくなのでラチェットをグリスアップ
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DTスイス製のスターラチェットには
専用グリスがある
この赤いグリス 毒性が強いため
「絶対に素手では触らないように」と注意書きがある難物だ
ゴム手袋をはめて 丁寧にグリスを塗る
願うことは「レースでコケませんように」だ(笑)
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会場は 富士市街地のメイン通り
私のエントリーしているマスターズクラスは
1.8kmの周回コースを10周回
だが たった18kmと侮るなかれ
ゴールまでに180度ターンのコーナーが20回
つまり25分ほどの間に20本のアタックが発生する
間違いなく地獄の18kmになるのだ…
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男子部で出場するのは 私ともう1人
この男
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伊織くんだ
20分340Wを出せるツワモノ
(私はベストな体調でも290W)
こんなバケモノにどうやってついて行けというのか…
改めて 出場するだけ無駄なレースに来てしまった感が拭えない(笑)
しかもエントリーリストを見ると
その伊織くんより速い人がゴロゴロいる
30代のマスターズTT全日本チャンピオンとか
50代のマスターズロード全日本チャンピオンとか
…なんてこった(笑)
9時30分からコースを試走
調子は思ったより悪くない
しかし 会場に来ていたコーチに
「Dさんなら残れますよ 自分を信じてください」
と言われ 行けるところまで行ってみようと覚悟を決めた
11時10分 スタート
久々のレースで緊張して
ドキドキした(笑)
予想通り スピードは一気に上がるが
さすがマスターズクラス がむしゃらなアタックは起こらず
落ち着いている
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写真:ヤッシー(伊織くんの友達)
500mほど走って 最初の180度ターン
いきなりインに突っ込んでくる人がいて焦る(笑)
油断すると落車するぞと 用心する
ここの立ち上がりで どれぐらいの強度が必要になるか
それ次第で このレースの行方が分かる
前方で伊織くんが一気に加速する
短いアタックを連発できるのが伊織くんの特技だから
コーナーの立ち上がりごとに爆上げして
ライバルの脚を削る作戦のようだ
もちろん私の脚も削られるわけで(笑)
メーターを見ると 700Wほど
それを10秒ほど頑張ると 巡航速度に達して
集団が安定する
うむ これならもう少しついて行けそうだ
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写真:ワタナベさん
2周回ほどは何事もなく
コーナーごとのアタックに対応すればついて行けた
ふと なんとなくレースの空気をつかんだ自分の心が
「今日は行けるかも」と 少し緩んだ気がした
私の気が緩んだということは
他の選手たちも同じかもしれない
空気の緩んだ集団の後ろに居てはいけない気がして
集団前方に上がった
その直後
後ろで「ガキーン」という金属音がして
「落車!」という声が聞こえた
しばらくして後ろを確認すると
私の後ろは1人だけになり
集団は13人に絞られていた
ここは自分の勘の良さを褒めてあげたいところだが
決して自分の勘が良かったわけではない
集団の前方が安全なだけで
結果として私は生き残ったというだけのことだ
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写真:ワタナベさん
半分の5周回が過ぎた
伊織くんは 集団の前方で
果敢にアタックを仕掛ける
そのたびに集団のスピードが上がり
私の脚も削られてゆく
6周目に入ったあたりで 脚がキューンとしだす
回復が追いつかなくなって来ている
ここで面白いことがわかった
10秒700Wがキツくなって来たので
7秒ぐらいでパワーを500Wに下げると
前に追いつかない時間が増えて もっと辛くなり
しまいに500Wも出なくなって
延々と前の選手に追いつかない地獄になってしまった(笑)
しっかり追いつくまでスパッと700Wで漕ぐことが
一番体力を使わないのだ
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写真:ヤッシー
バケモノ達の尻を追いかけ
何分が経過しただろうか
回復がまったく追いつかなくなって来た
サイコンを見たら
平均パワーは319Wだった
そりゃあ疲れるわけだ
体幹部が痛い
脚が重い
伊織くんがアタックして飛び出して行った
ああ 伊織くんは作戦通り ロングスパートをかけたのだ
ふと見ると 審判の手に「1」という数字が掲げられていた
残り1周?
なんと! リタイヤせずに済みそうだ!
そう思ったら 離れていく伊織くんを見ながら
集団から千切れた
千切れた私に 地元の観客の皆さんが
ずっと拍手をしてくれた
心にしみた
その拍手を聞きながら
遠くのゴールスプリントの様子を見ていた
先頭でゴールしたのは 黄色いジャージではなかった
よく見ると ずいぶん後ろをうつむいて走る黄色いジャージがいた
最後 2人ともタレてしまったんだね(笑)
伊織くん 8位
私 13位
(完走16人)
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会場内にある企業ブースを見て回りながら
こうしたイベントが本当に久しぶりだったことに気づいた
まだまだ規制はかかっているが
人がこうして集まるって いいもんだ
私は人付き合いが得意な方ではないが
それでもこうして 人にまみれていると
言葉にはできないエネルギーをもらった気がする
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渋滞が嫌なので さっさと帰ろうと思っていたが
ついプロのレースを最後まで見てしまった
手に汗にぎる熱戦で ものすごく面白かった
願わくば 宇都宮のジャパンカップのように
経済効果何億円という人気イベントに成長するまで
続いてほしいものだ
大渋滞の中 4時間かけて帰宅すると
大変な仕事の依頼メールが届いていた
超ブルー(笑)
すみません 今日は
仕事をサボって寝ます★