◎タクシードライバー(1976年 アメリカ 114分)
原題 Taxi Driver
staff 監督/マーティン・スコセッシ
脚本/ポール・シュレイダー 台詞/ケイ・チャピン
撮影/マイケル・チャップマン 美術/チャールズ・ローゼン
衣裳/ルース・モーリー 編集/トム・ロルフ
編集監修/マーシア・ルーカス スティーヴン・スピルバーグ
特殊効果/トニー・パーミリー 特殊メイク/ディック・スミス
音楽/バーナード・ハーマン サックス演奏/トム・スコット
cast ロバート・デ・ニーロ シビル・シェパード ジョディ・フォスター ハーヴェイ・カイテル
◎You talkin' to me?
この名作について、いまさら、なにを書こうっていうんだ?
てなカッコつけはしても仕方ないんだけど、とにかく簡単なメモを。
大学1年の夏、池袋の文芸坐で観たとき、あまり衝撃は受けなかった。
でも、その年の秋、ぼくはアーミージャケットを購入して、
それからというもの、卒業しても何着か買い替えて着続けたのは何だったんだろう。
社会の汚物という汚物が坩堝となって沈殿した、はきだめのニューヨークで、
デ・ニーロは、タクシードライバーになっている。
たぶん、ベトナムから帰還して心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苛まれている。
かれにとってアメリカを構成しているものは汚辱に塗れた悪ばかりで、
かといって自分は、守銭奴のように金だけを頼りにするしか能がなくなってる。
どうしようもない閉塞感と孤独と絶望の向かう先は、悪を極端に憎悪する激情だ。
それは自分をふった女であり、女の務める選挙事務所の立候補者であり、
家出してきた13歳の少女に売春をさせるポン引き連中であったりする。
デ・ニーロにとって、それらは憎むべき対象であり、一掃する汚物でもある。
かれにとっての悲劇と幸運は、戦争で銃の腕前が培われたことで、
結果、ポン引きどもとの銃撃戦に勝利するんだけど、
だからといって、自己を解放することなんかできず、自己抹殺の願望も消えない。
ベトナムの密林のような都会の中でまた生きていかなくちゃいけない。
自分だけじゃなくアメリカそのものが癒されるまで、ハンドルを握り続けるしかない。
ってなことを当時も今も漠然とおもってきたけど、
こうしたデ・ニーロの抱えている閉塞感も孤独感も絶望感も、ぼくにはよくわかる。
ただ、ぼくには、ベトナム戦争の体験もなければ、
暴発するほどの憎悪と正義感もなければ、行動力もない。
ってことは、デ・ニーロほど打ちのめされてはいないってことになるのかな~。
映画の感想は十人十色で、
ことに、名作と呼ばれて語り継がれていく作品ほど、
受け止める人間のそのときの環境と精神構造によってかなり異なってくる。
大学時代からほとんど変化のないぼくは、いつまでも同じところにいるんだけど、
普通はそうじゃない。
まあ、ときどき、おもいだしたように観て、別な感想を抱けば、
自分に変化が訪れたってことになるのかもしれないね。