◇プライベート・ライアン(Saving Private Ryan)
封切り当時、予告編で感動した。アメリカ人ってのは、なんて素敵なことを考えるんだろうとおもった。ノルマンディー上陸作戦の際、行方知れずになっているライアン二等兵を探し出し、故郷で待っている両親に返してやれっていう命令のことだ。ライアンは4人兄弟で3人がすでに亡くなっているから親をそれ以上悲しませてはならないっていう大義名分だった。なるほど~と、ぼくは予告編でお腹いっぱいだった。
で、こんなことを知った。アメリカには戦後3年経ってからひとつの法律ができて、多人数の兄弟が出征した場合、その兄弟がつぎつぎに戦死したら末子を任務から外して帰還させるということにしたと。ほおっとおもった。ところが、映画を観たとき、おもったよりも感動してないなっていう自分に気がついた。トム・ハンクスがジョン・ウェインに見えてきちゃったせいじゃなくて、水中に打ち込まれた砲弾は弾道を描かずに浮力に負けちゃうはずなのに水の中でもそのままの威力で死傷させるんか!?っていう細かいいちゃもんのせいじゃなくて、ライアンひとりを救うためにどんだけ人間殺せば気が済むんだっていう単純な疑問からだった。
死んでいく兵士はもちろんマット・ディモン演じるライアンだけじゃなく、ほかの死んでいった兵士にも兄弟がいてみんな死んじゃってるかもしれないし、もしかしたらひとりっ子の兵士だっているかもしれない。乳飲み子を祖国に残してきた兵士だっているかもしれない。兵士の命はどのような境遇であれ平等のはずで、ライアンだけが贔屓されるのはおかしいし、そもそもそんな命令を出すというのは、なんだか政治家の人気取りのような矛盾した見せかけの善意に過ぎないんじゃないかっていう気持ちが、まあ、映画の中でも語られてたことではあるけれど、むくむくと湧き上がってきちゃったからだ。
まあそんなこともあって、ずっとこの作品は、明確に説明できない疑問を抱えてるんだよね。