デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジョン・ルイスとサッシャ・ディステル、パリの邂逅

2009-07-12 07:59:14 | Weblog
 先日、8年ぶりの新譜「Walkin' in the Clouds」の発売を記念した椎名豊さんのライブを聴いた。満を持して自身で立ち上げたレーベルからのアルバムは、その充実した演奏活動8年間に培ったパワーの集大成ともいえる作品で、そのパワーはトリオ一丸となったライブに反映され、一段とピアノの鳴りもいい。ライブではアンコールが楽しみのひとつで、この日はジョン・ルイス作の「アフタヌーン・イン・パリ」で熱いステージを終了した。

 普段、知ったかぶりをしてジャズのあれこれ書いている身から出た錆で、ときに難しいことを訊かれる。ライブ終了後にジャズ仲間から、「アフタヌーン・イン・パリ」は、MJQのどのアルバムに入っているのかと。ロリンズ、スティット、ケニー・ドリュー、そしてミルト・ジャクソンとルイスは直ぐに浮かんだものの、MJQとなると聴いた覚えがないし、さりとて「ない」とも断言できない。こよなくパリを愛したルイスは、「ヴァンドーム」、「コンコルド」、「ヴェルサイユ」等、パリにちなんだロマンティックな曲を書いているが、この曲も美しいメロディを持ち、世界遺産に登録されているセーヌ河岸の佇まいをみるようだ。

 ルイスの作品にパリで録音されたものがあり、フランス・ジャズ界を代表するギタリスト、サッシャ・ディステルと、当時弱冠19才のバルネ・ウィランが共演している。ジミー・レイニーに師事したディステルが聴きもので、ルイスの物静かなピアノに呼応するかのように端正で美しいメロディを紡ぎ、そのギターの音色はジャケットのバックにそびえ立つエッフェル塔の天辺にまで響き渡るように澄んでいた。作曲家としても才があり、トニー・ベネットが大ヒットさせた「グッド・ライフ」」や、ソフトコア・ポルノ映画として騒がれた「エマニエル夫人」の主題歌を書き、ギターも端正なら顔立ちも端正で、恋多き女優ブリジット・バルドーと浮名を流したほどである。

 さて、件のMJQだが一度もMJQ名義でこの曲を録音していない。おそらくルイスは、パリでのディステルや、ウィラン、ベーシストのピエーロ・ミシュロとの午後の邂逅が生んだ「アフタヌーン・イン・パリ」を、他の誰とも演奏したくないほど大切にし、また、パリの地でなければ演奏できない曲だったのだろう。MJQという「公」よりもジョン・ルイスという「私」がパリにあったのかもしれない。
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22 コメント

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今夜決定!アフタヌーン・イン・パリ・ベスト3 (duke)
2009-07-18 18:21:56
今週もたくさんのコメントをお寄せいただきありがとうございました。

Afternoon In Paris Best 3

John Lewis&Sacha Distel / Afternoon In Paris (Atlantic)
Sonny Stitt/Bud Powell/J.J. Johnson (Prestige)
Milt Jackson / Bags' Opus (UA)

あまり録音数が多い曲ではありませんので、挙がったバージョンでほとんどだと思われますが、やはりルイスとディステルのギターのからみが素晴らしいですね。

スティットの流麗なフレーズ、ジャクソンの転がるようなマレット、ロリンズの豪華のなかにある繊細さ、どれも忘れえぬ名演ばかりです。

今宵はお好みのバージョンで、パリに思いを馳せてみてはいかがでしょう。
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ゲイル・ロビンズ (duke)
2009-07-18 18:01:21
25-25 さん、ゲイル・ロビンズ(発音はロビンスではなくロビンズのようです)唯一のアルバムですね。四畳半小唄で私も好きですよ。歌よりも顔かなぁ。(笑)
ドヌーヴがフランス的美女なら、ロビンズはアメリカ的美貌でしょうか。話題にしたい歌手ですし、曲です。
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THEM THERE EYES (25-25)
2009-07-17 23:47:43
>この曲はペギー・リーやローズマリー・クルーニーも

ペギーのは、Basin Street East ですね。
ロージーのバージョンは持ってなかったので、
ホリディへのトリビュート盤を発注しました。

あと、ゲイル・ロビンスのVIK 盤にも、ありますね。
割とあっさり気味ですが、悪くないです。

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魔性の女 (duke)
2009-07-17 23:01:27
KAMI さん、こんばんは。

ドヌーヴはシェルブールの雨傘の可憐さと、昼顔の妖艶さを併せ持つ魔性の女です。ロジェ・ヴァディムもマルチェロ・マストロヤンニも泣かされたようですが、こんな女なら泣いてみたいものですね。

ゼム・ゼア・アイズはホリデイの十八番ですが、アニタの絶妙な節回しには唸ります。この曲はペギー・リーやローズマリー・クルーニーも取り上げておりますので、この機会に白人ヴォーカルに触れてはいかがでしょう。エラ、サラ、カーメンとはまた違う魅力が発見できるかもしれません。
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場外乱闘は・・・ (KAMI)
2009-07-16 21:38:10
duke様、皆様、こんばんは。

・・・・ドヌーヴですか。
昔、新宿のアートシアターで見た「昼顔」・・・完璧な美人が娼○になる・・・衝撃的でした。
それにしてもいいオナゴやな・・・。(笑)

今日は休みなので、鑑賞会に使う「アニタ・シングズ・ザ・モスト」を聴いておりました。
ゼム・ゼア・アイズのアニタ、これは凄いと思わず唸ってしまいました。

それにしても20代の頃は、黒人のコンボが最高だと信じて疑わず、そればかりを聴いていました。
ヴォーカルは、エラ、サラ、カーメンだけ・・・。

白人はダメだと思っていた自分が馬鹿だったと後悔しております。

感性が鈍っている今の自分を感動させるアニタは素晴らしい!!!!
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ルイスのヨーロッパ志向 (duke)
2009-07-16 19:47:35
bob さん、こんばんは。

おっしゃるようにこのアルバムは、パウエルは話題になりますが、ルイスのセッションは影が薄いですね。どうしてもパウエルに目が向くのは仕方ありませんが、ルイスもバップのエッセンスたっぷりでMJQとは一味違うプレイを聴けます。

ルイスのヨーロッパ志向は私も好きです。それがあのMJQのサウンドを形作っていると思います。

『CLIFFORD BROWN MEMORIAL ALBUM(BN)』にも参加しておりましたね。このアルバムでもルイスはなぜか話題になりませんが、物静かないいピアノです。

紹介したATLANTIC盤は、スタンダード中心の選曲ですのでお薦めです。
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こんにちは (bob)
2009-07-16 16:11:22
Sonny Stitt/Bud Powell/J.J. Johnson (Prestige)

このアルバム、パウエルのセッションについてはよく取り上げられますが、反面ジョン・ルイス参加のセッションについてはあまり話題にならないような気がします。
喧噪で熱気に満ちたバップ・セッションの中、ここでの課題曲はホッとするようなくつろぎ感が大好きです。ルイスのヨーロッパ指向を好まない向きもありそうですが、僕は好感しています。
少し辿々しい印象の彼のピアノもわりと好きで、『CLIFFORD BROWN MEMORIAL ALBUM(BN)』では彼のピアノがいい味を出しているように思えます。

紹介のATLANTIC盤もその他の収録盤も未聴という情けなさに屈せず、またまた一点投稿、情けないなぁ(笑)。
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・・・・カトリーヌとはハリケーンか (duke)
2009-07-15 19:53:37
ポランスキーの「反撥」は、ドヌーヴの妖艶さにドッキリしたものです。そして「昼顔」でダウン。昼は淑女、夜は娼婦、理想の女性です。
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ううううううっ・・・・ (4438miles)
2009-07-15 09:36:47
・・・ドヌーブが・・・出てしまった!

昼顔のドヌーブに魅せられて幾星霜・・・永遠の憧れがこんなところで出てくるとは・・。
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・・・な午後 (duke)
2009-07-14 22:16:17
4438miles さん、蒸し暑い中、妄想ですか。

アンニュイといえばケッセルの「昼顔」ですね。セブリーヌ役のドヌーヴは美しかった・・・ムムム・・・マゾヒスティックな空想に取り付かれてしまいそうです。
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アンニュイ・・・ (4438miles)
2009-07-14 09:39:18
・・・良い響きですねぇ・・・アズナブールかムスタキか、静けさと柔らかな光、揺れるカーテン・・・ワケアリの女性とお昼ねタイム・・・

あああああ、しかし東京は蒸し暑い!
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グッド・ライフ (duke)
2009-07-13 20:13:38
4438miles さん、こんばんは。

1949年は私がまだ生まれる前ですが、ルイスがこのメロディに託したようにパリは美しかったのでしょう。当時の様子はフランス映画で垣間見れますが、一時流行った言葉の「アンニュイ」という雰囲気でした。

録音数が少ない曲ですので、5枚で十分この曲を堪能できると思います。それしてもルイスを外して、スティットがトップとはベストワンの独走を許さない意図的なものでしょうか。(笑)

「グッド・ライフ」も実に美しい曲でしてディステルの知的さが窺えますね。近々話題にしますよ。
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ロリンズ登場 (duke)
2009-07-13 19:58:33
KAMI さん、こんばんは。

お祭りでお疲れのようですね。基本的に仕事もリズムがありますので、残業をすると肉体的にも疲れますし、私の場合、ジャズを聴く時間がなくなる等とつまらぬことを考えますので精神衛生上よくありません。

そろそろこの曲が来る頃だと予想しておられたとは手の内を読まれているようですね。(笑)

ルイス、スティットときたところでロリンズが挙がりましたか。ジャクソンを入れて4人の争いになりました。ロリンズはワンホーンでいつもの独壇場ですが、ハンコックが意外に歌いますね。サド・ジョーンズがコルネットで参加した「52丁目のテーマ」は、アップテンプでいい内容ですし、ボブ・クランショウが走ります。
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Skating In Central Park (duke)
2009-07-13 19:46:17
25-25 さん、Skating In Central Park は私も好きですよ。タイトルだけで情景が浮かびますね。

MJQ以外ではエヴァンスとジム・ホールでしょうか。最近ではジャケで売るレーベルのローランド・ハナがあります。ジョン・ルイスに捧げたアルバムですので、こちらにも課題曲が入っております。いい内容ですが、ジャケで損をしておりますね。

リーダー作ではパッとしませんが、サイドにまわるとやたらといい演奏をするプレイヤーがいるものです。ビショップもそんな感じですかねぇ。
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1949年なんですね・・・ (4438miles)
2009-07-13 17:41:07
・・・この曲が創られたのは・・・私が2歳の頃のパリとはどんなところだったのか興味深いです。

LPとCDで合わせて5枚しか持ってませんのであまりアレダコレだといえませんが・・・

1、スティット・パウエル・JJ
2、ジョン・ルイス (Atlantic)
3、ミルト・ジャクソン/バッグス・オパス
次点:ロリンズ/ナウズ ザ タイム

因みに、ディステルの「GOODLIFE」は私のテーマ曲の一つです。
こっちの話題のほうが・・・

しかし、最近のアフターヌーン 東京は暑い・・蒸し暑い・・です。

ジョン・ルイスという人はかなり欧州志向の強い人ですね。そういえば、MJQでこれやっているVTRがあった様な気がします、今夜調査に入ります。
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疲れた・・・・ (KAMI)
2009-07-13 00:32:22
duke様、皆様、こんばんは。
昨日はお祭りがあったので、夜10時まで営業しました。普段は7時閉店なので疲れました。
まあ、基本的に働くようにはできていないので疲れるのでしょうね。(笑)

アフタヌーン・イン・パリ、そろそろこの曲が来る頃だと思いアルバムを3枚選んでおいたのです。
そしてブログを見ると何とduke様の3枚と同じだったのです。(唖然)
これでは赤い糸がますます太くなってロープになってしまう。大変だ!(笑)

と言う訳で、お気に入りは
「アフターヌーン・イン・パリ」ジョン・ルイス&サッシャ・ディステル

「スティット、パウエル&J,J,」

「ナウズ・ザ・タイム」ロリンズ

しかしミルト・ジャクソンも良いな。
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ルイス・ナンバー (25-25)
2009-07-13 00:21:59
>おっしゃるように有名な曲のわりには意外と録音は少ないですね。

ジョン・ルイスと言えば、ジャンゴが有名ですけど、
私が最も好きなルイスの曲は、
Skating In Central Park。
これも、録音少ないんですよねぇ。

>バックはウォルター・ビショップですが、けっこういいでしょう。

「誰だ、このピアノ、悪くないぞ」と思って、クレジット確認したら、
ビショップでしたね。
「スピーク・ロウ」のビショップと同じ人物とは思えません(笑)。

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Return Visit! (duke)
2009-07-12 22:57:00
25-25 さん、こんばんは。

おっしゃるように有名な曲のわりには意外と録音は少ないですね。私も記事で挙げただけしか思いつきませんでした。

「Jazz Men Detroit」がありましたね。ジャケが洒落た1枚ですが、企画物としては演奏内容もなかなかのものです。ミルトもデトロイト出身ですし、サヴォイにも縁がありますので参加しているともっと上質な作品が出来上がったのかもしれません。

「Return Visit!/ Tubby Hayes」とは渋いですね。このアルバム、バックはウォルター・ビショップですが、けっこういいでしょう。これを聴いたあと「スピーク・ロウ」を聴くと評価が変るかもしれませんよ。(笑)
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MJQ名義 (duke)
2009-07-12 22:38:29
いしいさん、一番のコメントありがとうございます。

私も丹念にディスコグラフィーを調べましたが、MJQ名義の録音はありませんでした。MJQ来日公演で演奏されたのは知りませんでした。それにしても23年前のことをよく内容まで覚えておられますね。歳を取ると昔のことは覚えていても、最近のことは忘れるといいますが、私なんざぁ、23年前となると何を演奏したのか、誰を聴いたのかも忘れておりますし、先日の椎名豊トリオの曲もかろうじてアンコール曲を覚えていただけです。(笑)
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有名なわりには・・・・ (25-25)
2009-07-12 20:21:02
録音は多くないですね、この曲。

管理人さんの3枚に異論なし、と言いたいところですが、
デトロイター好きの小生としては、
「Jazz Men Detroit」(Savoy)を、スティット、パウエル、JJの
代わりに推したいですね。
この企画、ミルトも呼んでくれれば尚よかったのに、と
残念ですけど。
バレル、フラナガンのセンシティヴなソロが、素敵です。

次点に、「Return Visit!/ Tubby Hayes」(英Fontana)
ヘイズはヴァイブでテーマを演奏し、カークと
ジェームズ・ムーディの二人がテナーでアドリブ。
なかなか、刺激的でいいです。

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Unknown (いしい)
2009-07-12 18:20:24
MJQ名義での録音は無いと思います。但しMJQ来日公演では同曲が演奏されました。各人フィーチュア企画でルイスの完全ソロ。へんな表現てすがルイス・フィーチュアのMilano,ジャクソン・フィーチュアのNature boyともに、前後に合奏がはいります。3人がいったん引っ込むのですがこのときはルイスの独奏終わるまで3人引っ込みばなし。曲が違うのと併せて意外でした。1986五反田簡易保険。よく憶えとるなぁ、自分。
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アフタヌーン・イン・パリ・ベスト3 (duke)
2009-07-12 08:05:55
皆さん、今週もご覧いただきありがとうございます。

パリにちなんだ曲は数多くありますが、「アフタヌーン・イン・パリ」はジョン・ルイスらしいヨーロッパの香りを持つ気品ある曲です。今週はこの曲のお気に入りをお寄せください。

管理人 Afternoon In Paris Best 3

John Lewis&Sacha Distel / Afternoon In Paris (Atlantic)
Sonny Stitt/Bud Powell/J.J. Johnson (Prestige)
Milt Jackson / Bags' Opus (UA)

Afternoon In Paris のオリジナルはフランスのレーベル Versailles です。アトランティック盤よりはるかに音がいいといわれておりますが、残念ながら一度も聴いたことがありません。お持ちの方はいらっしゃいませんか。

今週もたくさんのコメントをお待ちしております。
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