コタツ評論

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3連休はこれ!

2011-02-09 14:17:00 | レンタルDVD映画


一週間のうちに2度も、「一家団欒にこの1本」映画をお勧めできるのは、まことに欣快に堪えない。

「フェアウェル さらば、哀しみのスパイ L'Affaire Farewell」 (2009)

邦題は例によって何だが、観終わった家族から、頼みもしないのに、お父さんにお茶の一杯も出てくればやはり欣快に堪えないし、あるいは息子が侮蔑の視線を投げながら舌打ちして席を立ったならば同情に堪えない、ソ連のお父さんの映画です。

いずれにしろ、日本のお父さんも「まあまあだったね」とコホンと咳払いのひとつもして茶の間を辞し、仕事をはじめる振りをして会社のノートPCを開き、戦後最大のソ連スパイ事件である「フェアウェル事件」(映画の原題)を検索してみるがよいだろう。実話の映画化なのだ(リンク先の「フェアウェルファイル」を参照のこと。かなり下です)。

東西冷戦時代の1981年、ソ連の書記長はブレジネフ、後年ペレストロイカをはじめるゴルバチョフがその側近、アメリカ大統領はレーガン、CIA長官はフィニー、フランス大統領はミッテラン。前回の「一家団欒にこの1本」映画である「オーケストラ!」のボリショイ交響楽団の天才指揮者アンドレイ・フィリポフが、ブレジネフ政権のユダヤ人楽団員の排斥に抗議して、清掃夫に格下げされたのと同時期です。

KGBの幹部グリゴリエフ大佐(エミール・クストリッツァ)は、フランスの家電メーカーの技師ピエール(ギョーム・カネ)に、ソ連の機密情報を渡す。「世界を変えるためだ」と。しかし、ピエールはフランス国家保安局に頼まれただけの素人。大佐は代わりのプロを寄こせと怒り、ピエールも厄介事はまっぴらと上司に抗議するが、KGBと警察の厳重な監視下のモスクワでは、ノーマークなのはあいにくピエールだけ。

不本意ながら、KGB大佐と素人スパイは相棒となり、ソ連がつかんでいるアメリカの軍事機密や西側諸国にめぐらしたスパイ網など、大量の極秘情報がフランスを通じて、アメリカをはじめとする西側諸国に渡っていく。やがて、年齢も育ちも仕事も異なる二人に、少しずつ友情が芽生えて……。なるほど、片方が素人だから、プロであるKGB大佐は信頼しはじめ、お膝元のモスクワでソ連防諜網の眼も逃れたわけか。

ストーリーやその背景はさておき、なんといっても、この映画最大の魅力は、KGB大佐を演じたエミール・クストリッツァに尽きる。かなり歳を食っているが、大変な新人俳優が現れたものだ。若き日のジャラール・ドパルデューにも似て、セクシーで愛嬌があって知的な眼をしている。「第三の男」のオーソン・ウェルズから怪物性を除いてフランス人にしたような、容貌魁偉なのに柔和な表情とシックな動きがある。その分、KGB大佐がまとう超大国ソ連の尊大さの雰囲気に欠け、フランスの国際地位くらいに少し軽いのが惜しまれる。

エミール・クストリッツァが出たなら、すでに老年のドパルデューは席を譲らなくてはならないだろうし、ジャン・レノへの配役はまずは彼に振られることになるだろう。しかし、幸か不幸か、その怖れはたぶんない。エミール・クストリッツァは、旧ユーゴスラビアのサラエヴォ(現ボスニア・ヘルツェゴビナ領)出身の映画監督だからだ。それも、「アンダーグラウンド Underground 」(1995)を撮った世界映画界屈指の巨匠だからだ。

レーガン大統領にフレッド・ウォード、フィニーCIA長官にウイレム・デフォー。ほかに、ミッテラン仏大統領やゴルバチョフなど、1980年代の重要人物が登場する。カナダのオタワサミットに列席したレーガンとミッテランが側近や通訳を交えて、深夜の庭園で密会する場面があった。

当時、ミッテラン社会党政権の大臣に共産主義者が任命されたことに、レーガン政権が強く反発していたのに対し、ミッテランが暗号名「フェアウウェル」から入手したソ連の機密情報を直接手渡して取り引きする場面など、実話だからこそのエピソードだろう。エリゼ宮のミッテラン大統領の前で、フィニーCIA長官とフランス国家保安省の幹部が辛辣な議論を交わす場面もあった。

ほかに、「フェアウウェル」KGB大佐の上司チョーホフ(アレクセイ・ゴルブノフ)の、ダーク・ボガードのような黒い瞳が印象に残った。チョーホフこそ、「哀しみのスパイ」に似合っていた。監督・脚本: クリスチャン・カリオン。いまさらだが、ロシア、東欧、中欧は映画人材の宝庫だ。そうそう、「ミレニアム」の北欧も。

(敬称略)

永田洋子の死

2011-02-09 00:29:00 | 音楽
「アンヌ・マリー・ジャケ」からバイオリンづいていて、どちらもイツァーク・パールマン。なぜ、この曲かといえば、永田洋子の死から、あのときの死者のリストが甦ってきたからだ。そんな人は数少ないだろうが、永田洋子をも含め、俺は哀悼したがわるいかね。ちょうど、雪も降ってきた。私の住む町では、この冬はじめての雪らしい雪だ。

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(敬称略)