コタツ評論

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瞳の奥の秘密 

2011-02-27 01:10:00 | レンタルDVD映画


これは一人で観る映画です。
「お父さん、ほら、お茶入ってるって、冷めるわよっ」「雅美、明日の学校の支度、だいじょうぶなの?」なんて環境に、ビデオの一時停止を押していたら、感興だいなしです。時間の映画だからです。上映時間が2時間9分と長い。映画の中の時間が25年間と長い。忙しいお母さんなら、いつになったら終わるの、こんな悠長な映画にはつきあってられないわ、と焦り出すでしょう。お母さんには、昼下がりの午後か、働いているなら、休日のみなが出払った後、夕食はピザハットあたりを手配することにして、ちょっと高めの煎茶でも用意してから、DVDを入れて下さい。

瞳の奥の秘密 El secreto de sus ojos(よくできた予告編です)

2009年のアルゼンチン映画です。男女2組が登場します。恋愛映画ではありません。愛についての映画です。それも生涯をかけた愛。人生は一度限り、命も一回限りですから、すなわち永遠の愛。そういう映画は、一家団欒で観るものではないですね。呆けた顔で見入る古女房の横顔と湯呑みの茶渋を見比べるような日常を忘れるにはうってつけですが、「タイタニック」のように浮世離れしているわけではありません。逆です。きわめてリアルに語られます。その上で、生涯をかけた愛はある、あり得るのだと説得してくれます。

主人公は定年退職した刑事裁判所の捜査官エスポジト。暇にまかせて柄にもなく小説を書いています。テーマは25年前の若妻暴行殺人事件。久しぶりに元上司、いまは検事に出世したイレーネのオフィスを訪ねます。エルポジトの小説を読むことで回想シーンに移り、若妻暴行殺人事件の捜査と犯人の追跡が進みます。同時に、エルポジトとイレーネが、たがいに惹かれ合いながら結ばれなかった過去も、徐々に明らかにされていきます。この中年の男女一組。もう一組は、殺された若妻と残された銀行員の夫モラレスです。

いずれも、ごく平凡な男女です。飛び抜けた容姿ではないし、際立った能力があるわけでもなく、特異な考え方をするのでもない。けれど、非凡な愛の姿を見せてくれます。そして、驚愕のラスト! これまで、「驚愕のラスト」に驚愕した覚えはありませんが、これには驚きました。「えっ」や「うわっ」ではなく、「う~む」と驚きました。そんな驚きかたの経験あります? 「う~む」と驚く。あるんですよ、これが。やっぱり、そこかあ、とよくある「驚愕のラスト」に納得させかけて、まったく違う「驚愕のラスト」を重ねる。よくある手です。なるほどね、ま、それでもいいか、うん? ちょっと待てよ、そうすると、この映画の25年間の時間の意味とは? 「う~む」「う~む」「う~む」。
(続く)