コタツ評論

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ALL YOU NEED IS GAG

2013-01-30 00:11:00 | 新刊本
まだ読んでいないのに貸してしまった本が戻ってきた。珍しいことがあるものだ。『文藝別冊 総特集 いしいひさいち デビュー40周年・「バイトくん」から「ののちゃん」まで 仁義なきお笑い ALL YOU NEED IS GAG』(河出書房新社)



のっけから、「でっちあげインタビュー いしひいさひちに聞く」(誤字ではありません)にブリリアントな至言がのっけ盛り。その一部をご紹介。

若き女性インタビュアー(以下女イ)の質問に、「いしひいさひち」(以下)が答える構成だが、4コマ漫画のセリフがそうであるように、すべて手書き字で描かれている。つまり、ひとまとまりの画像です。その原画を原文にしたため、4コマのセリフをゴチック体にしたように、はなはだ感興をそこなっていることをはじめにお断りしておきます。

また、同じ理由から、改行は無視、句読点も一部入れたが、マンガ・漫画やわたし・私など用語・用字の不統一はそのままにしました。テキストに起こしてみて、手書き字は画文では足りず、すでに漫を持した画であることが、あらためてわかりました。字として画として、その両方が合まったものとして、苦もなく読んでいるわけです。オレたちってすごくね?

女イ いしひさんが登場するまで、4コマ漫画は『起承転結』が基本と言われていました。ところが、起承転転、起承承結、あげくにオチのないオチとか斬新かつ衝撃的でした。4コマの既成概念を破壊したと言われていますが、その点いかがですか?

い: それは誤解です。そもそも4コマ漫画に起承転結というセオリーは存在しません。

女イ: は?

い: まず起承転結に則って4コマを描く作家はプロにはおりません。4コマを楽しむにしても、リズムは多様であって要件ではありません。笑ってもらってナンボの現場には『秀作』と『凡作』の別以外なにもありゃしません。

あるとすれば観念的な読者の認識のフレーム、『あと知恵』としてあるにすぎず、4コマ漫画に起承転結がないのはけしからんといった論議はどこか幼い気がします。


おそらくコマ4個と4文字熟語の符号による錯誤もあります。仮にそれが東西南北だとすれば北がないとか言い出すんじゃないスか。ともかくないものは壊せませんから、わたしは起承転結を破壊したおぼえなどありません。

女イ: えー、いまの見解マジですか?

い: でっちあげです。

(中略)

女イ: いしひさんのあと多くのギャグ漫画家が登場しましたがどのように見ていますか?

い: 直線的な進化論は評判がわるいですが、ギャグにおいては『その時の今』が常によりすぐれていると思います。いがらしみきおさん、業田良家さん、しりあがり寿さん、とり・みきさんなどなどなどはより洗練されていて、私のお笑いはすでに古くさく感じています。あまり数を読んでいないのにスマンのですが、新人作家のおもしろい作品には新奇なだけではない進化を感じます。

女イ: そういえば言いまわしも古くさいですね。

い: うるせぇよ。

(中略)

女イ: 新しいスタイルというと『萌えまんが』についてはいかがですか。オチがないではないかという意見もあります。

い: トートロジーって言うのか同義語反復も評判がよくありませんが、萌え漫画作品が仮につまらんとしたらそれはオチがないからつまらんのではなく『つまらんからつまらん』のです。手段を選んではならない4コマの制作においては、オチのあるなしすら意味をもちません。なかにはセリフのないいわゆる『絵オチ』を4コマの理想とぬかす大バカ者がいます。絵オチだからおもしろいのではなく、最善の構成を求めた結果としてそれがたまたま絵オチである場合があるにすぎないくらいあったりめーだろーがバカヤロォビュンビュン

(中略)

女イ: 現役の4コマまんが家の中で意識している、あるいは注目しているひとはいますか?

い: 朝日新聞の連載を始める際、全集をもらってはじめて『サザエさん』を読んだのですが、国民漫画ができるだけ多くの人に愛されねばならない代償でしょう。4コマ作品としては平凡、作家としては凡庸というのが正直な感想でした。

(中略)

女イ: デビュー以来のファンには朝日新聞への連載にガッカリしたとの声もありましたが。

い: 堕落とか毒がどうのと耳にしましたが理解できませんでした。作品は読者のものですが『いしひいさひち』は私のものです。作者の変遷を否定する読者を客とは思っていませんですす。

女イ: 強気なわりに口ごもっていますが。

い: 言いすぎましたすんません。

(中略)

女イ: 映画はよく観ますか?

い: よく観る方だと思います。

女イ: お好きな監督、俳優、作品をおねがいします。

い: 監督は『運命の訪問者』あたりの黒沢清監督です。えげつなかったです。俳優は洋画の脇役さんたちです。『シンプル・プラン』の情けない兄ちゃんのビリー・ボブ・ソーントンが04年版の『アラモ』のデイビー・クロケットでもなんか情けなかったのでウケました。『ペリカン文書』『プラダを着た悪魔』のスタンリー・トゥッチはキマっていました。『ジェイソン・ボーン』シリーズはまぬけなCIA局員のジュリア・スタイルズが良かったので観ていました。

「プラダを着た悪魔」のスタンリー・トゥッチ。みごとな禿げ頭で画面をさらいます。



女イ: それでベスト作品は?

い: いくら史上に残る名画でもモノクロというだけで観る気がしないのはなぜなんでしょうか。お笑いのところでも申し上げましたが、古いものから順に劣化して常に新作がよりおもしろいと思います。評論家だか文化人のみなさんは永遠に色あせないとかこれを超える映画はないとか正気でおっしゃってるんでしょうかね。思い入れの押しつけはやめてもらいたいもんです。

女イ: さっきから聞いていると漫画といい映画といいただの新しもん好きってだけじゃありませんかセンセ。

い: わるいかよ。

女イ: で、ベスト作品は?

い: 40年前の『仁義なき戦い』シリーズ全5作です。どうもすみませんでした。

女イ: ちゃんとあやまって下さい。

い: スンマセン、スンマセン、スンマセン。いやぁ~映画ってホントいいもんですね。

In Times Square, It's Terry Jones vs. the Beatles

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