『鴨川ホルモー』で京都、『鹿男あおによし』は奈良、この『プリンセス・トヨトミ』は大阪。万城目学の「三都物語」の掉尾を飾るにふさわしい傑作である。いつかJR東海のキャンペーン「三都物語」の場合は、京都大阪神戸だったから、もしかしたら、神戸を舞台にした4作目が書かれるかもしれない。いや、ぜひ書いてほしい。俺にとって、これほど次回作が楽しみな作家はいない。
だってね、『鴨川~』は傑作だと唸った。続けて、『鹿男~』を読んでみたら、『鴨川~』以上だと感心した。そして、『プリンセス~』を読んだ。なんと、『鹿男~』をさらに超えていた。一作一作、スケールアップしながら、奇想に磨きがかかり、魅力的な登場人物を増やし、透明に冴えわたった関西風味だしが効いている。しかも、まだ3作しか書いていないのだから、大変な作家というべきだ。
あのアゴタ・クリストフだって、『悪童日記』に続く3部作の『ふたりの証拠』『第三の嘘』 は明らかに落ちた。
「次回作が代表作」とは、「そうありたい」という作家の願望をあらわすものだが、万城目学の場合は、読者にとって、これはほとんど事実に近い。つまり、万城目学はどんどん成長し、進化しているのだ。会計検査院という三権分立から独立した組織と、国家内独立国を対峙させた『プリンセス~』には、前2作からは窺えなかった「全体小説」へ向かう兆しが顕れている。
大阪弁に、「きれいなナァ」という話し言葉がある。読後、東京人のくせに、「きれいなナァ」と呟きたくなった『プリンセス・トヨトミ』。どこからどう眺めても、美しいとは言い難い大阪の街なみ。その中心である大阪城を燃え上がらせ、大阪人の頬を朱色に染めて見せた。ならば、その先があるだろう。やはり、次回作の舞台は神戸だ。
『鹿男~』は奈良公園の鹿、『プリンセス~』は大阪城が主人公といえたから、神戸といえば、当然、神戸大震災しかないだろう。911以降、多くのポスト911小説が書かれたように、万城目学は神戸大震災を避けて通ることはできないはずだ。また、前3作を超えるにはこのテーマに向かうしかないだろう。語られることの少ない神戸大震災を万城目学が小説にできたら、これまでの傑作も助走に過ぎなかったといわれることだろう。
「万城目学の最高傑作」(金原瑞人)ではなく、万城目小説という小ジャンルをはるかに凌駕した現代小説中の最高傑作を期待しているのだ。
(敬称略)
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