イランで2000年初頭、実際に起きた娼婦連続殺人事件を基にした作品。
冒頭に出てくる娼婦。顔には殴られた跡があるのをヘジャブで隠して、幼い子供を残して夜の街に立つ。
サイードがバイクに乗ってやって来て彼女を乗せ、廃アパートのような所に誘い込み、簡単に殺してしまう。
昼間は建設工として働き、妻や子供もおり、普通の市民の顔を持つサイード。
死体を黒い布に包んで郊外に捨て、警察に「腐敗を浄化した」と電話する。
主人公の女性ジャーナリスト・ラヒミはこの事件を追って、テヘランからやって来る。
予約していたホテルに泊まろうとすると、独り者の女性は、と断られる。
自分はジャーナリストだとIDを見せて、ようやく宿泊が許される。
この辺りから、この国での女性の生きづらさが分かる。
ラヒミは、なんと警察署長からも迫られるのです。
娼婦が何人殺されても、警察は本気で捜査しようとしない。
焦ったラヒミは自らが囮になって、殺される寸前で辛くも逃げ出し、警察に通報する。
サイードは逮捕されるが、怖いのはここからだったのです。
街の人々も彼の妻も息子も、サイードを英雄視し、彼の行いは腐敗を浄化した聖戦だから罪ではない、とするのです。サイードも、世論が後押しをしてくれる、俺は無罪だと、裁判でもケロリとしている。
16人もの娼婦を殺してそれはないだろうと思って観て行くと、結果的にサィードは死刑になるのですが…
ラスト、12歳の彼の息子アリが、周りからお父さんの後を継げと言われている、こんな風に不浄の女を殺したんだよと幼い顔でやって見せるシーンには、心底ゾッとしました。
大体、売春というものは、買春する男がいてこそ成立することなのに、娼婦を買う男たちは何の罪にも問われない。これも、その気にさせた女が悪いということになるのか。
舞台となったマシュハド市は、首都テヘランに次ぐイラン第2の大都市で、イスラム教シーア派の聖廟に多数の信徒が訪れる巡礼地ということです。
2022年のデンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス合作映画。
カンヌ国際映画祭で上映され、劇中の暴力シーンの影響で複数の途中退場者を出したものの、7分間に渡るスタンディング・オベーションを受けたのだそうです。
英題は「Holy Spider」。
公式HP
12歳の彼の息子アリが
周りからお父さんの後を継げと言われている
これだけでも怖いのに…
こんな風に不浄の女を殺したんだよと
幼い顔でやって見せるシーン…
ちょっと見られないな。
これもある種の洗脳ですかね。
小さい時からこれが正しい事って親から
周りから言われ続けると…何の疑問を持たなく
なるって事ですよね。
観ている間も怖かったが、なんとも後味の悪い映画でした。
ラストシーン、幼いアリが得意気な顔で
妹を相手に、こんな風に殺したんだと再現するのです。
それをたきつける大人が、周りに沢山いるのです。
母親もそれを止めようとしない。
心底ゾッとしました。