今年のノーベル賞受賞から期待されていた村上春樹や山中伸弥が残念なが
ら外れた。しかしながら、改めてカーネギーやノーベルの個人の人徳が脈
々と生かされていることに驚くとともに、北欧文化の背景に思いを馳せる
とともに、ノーベル賞というシンクタンク組織?を持つスウェーデンの強
さとはなんなのか知りたくなった。
スウェーデンは大阪府(884万人)より人口は多いが 一人当たりGDPは
日本の1.11倍。北欧3カ国はいずれも、日本より一人当たりGDPが高い。
世界経済フォーラム(WEF)による国際競争力ランキング2010年度では、ス
ウェーデンは6位、日本は27位。「なぜ、競争力が強いのか」これが一番
の疑問だ。長い間、福祉型社会主義政権が続いてきた高負担・高福祉国家
で、私企業には米国以上に市場原理主義をとっている。高生産性企業にシ
フトさせるためにリストラを容認している。現に、ボルボやサーブの企業
破綻にも政府は救済しなかった。主要産業は機械工業、化学工業、林業、
ITなどであり、世界的企業としては世界一のファッションチェーンH&
M、世界一の家具小売チェーンIKEAなどがあるが、なんといっても、
長年にわたる社会民主労働党政権の下で構築された社会保障制度が整い、
税金制度や高齢者福祉などの社会政策が特長だ。
1971年から1984年において実質経済成長率、国民一人当たり GDP成長率が
社会民主労働党政権の下においてのみ上昇、失業率、消費者物価上昇率は
減少している。 1982年から1986年の公的部門の貯蓄の対GDP比は、米国、
英国、フランス、日本、西ドイツに比較して高い。スウェーデンは「社会
科学の実験国家」だとも言われている。時代状況の変化に対応し、実に簡
単に制度(法律)が変更される。そのため、スウェーデンの研究は絶えず
この変化を追いかけ、変更された意図を正確に捉え、その目的と意義を探
る必要がある。低所得者層、高齢者、障害者、失業者等、社会的弱者もあ
るレベル以上の生活をすることが保障されているユニークな国家だ。
※上の図からは、日本の成長率がナンバーワンであることがわかる。
スウェーデンは北極圏に近いスウェーデンの気候・風土は厳しい。人々は
助けあい、協力しなければ生きていけない、国民性を生んだ。福祉型社会
主義政権が長いこともあり、スウェーデンの国全体が家族だという「国民
の家」思想が昔からあるが、子育ては国の責任、男女平等、人権・個性の
尊重、自立心の強い子どもに、権利と平等の意識の高い国といった考えが
定着している反面、家族という概念がなくなろうとしているというが、ス
ウェーデンの経済は、17世紀にヨーロッパで最初の紙幣が発行され、中央
銀行であるリクスバンクが設置されたことで知られていて、その最大の特
徴は公務員が多いこと。公的部門の人数は実に33%を超え全体の3分の1
にも達する(日本は9.5%)。労働参加率は高く特に女性の労働参加率が高
い(スウェーデン76%、日本48%)。そしてその女性の社会進出の場になっ
ているのが公務員の福祉部門である。つまりスウェーデンにとって福祉国
家と男女平等はそれ自体が国家と経済を支える重要な柱となっている。
また、農林水産業は国土の8割が冷帯に属し、コムギの栽培が可能な地域
は北緯60度以南に過ぎない。農地は国土の6.5%であるが、農業従事者は国
民の1.5%に過ぎない。高い生産性によって、穀類の自給率は121%(2002年)
に達している。果実類と野菜類、油脂類を除く各項目の自給率はいずれも
80%を上回る。穀類の生産量ではコムギ(241万トン、以下、2004年)、オ
オムギ(169万トン)のほか、えん麦(93万トン、世界シェア10位)が際立
つ。国土の65.9%は森林(針葉樹林)に覆われている。このため、針葉樹に
限定すれば世界第5位の生産量(610万立方メートル、世界シェア5%)を占
める。
また、物流および熟練労働力の内部と外部のとの優れたコミュニケーショ
ンを生かした輸出志向型の混合経済とっている。木材、水力発電と鉄鉱石
の資源を基盤とした電気通信、自動車産業と製薬産業などのエンジニアリ
ング部門は、生産と輸出の50%を占め、農業は GDPの2%を占める。2007
年の売上高でボルボ、エリクソン、バッテンフォール社、Skanska、ソニー
エリクソンモバイルコミュニケーションズ、エレクトロラックス、テリア
ソネラ、サンドビック、スカニア、ICA、ネスアンドマウリッツ、ノルデ
ィア、Preem、アトラスコプコ、SKなどがある。さらに、1990年代の初め、
スウェーデンもバブルが崩壊し、有力銀行が破綻し、財政危機に陥った。
このバブルで学んだことは、政府の思い切った「選択と集中」でわずか数
年で危機を乗り切ったことである。スウェーデン政府は、それが完全と部
分的に国有企業の数を民営化することを発表した。これらの売却による収
入が政府の債務を返済し、将来の世代のための債務の負担を軽減するため
に使用されるという。
スウェーデン | 日 本 | |
人 口 | 925万人(世界84位) | 12,729万人(世界10位) |
面 積 | 45万k㎡(54位) | 38万k㎡(60位) |
人口密度 | 20人/k㎡ | 337人/k㎡ |
GDP(2009年) | 3,444億ドル(19位) | 4兆3,761億ドル(2位) |
一人当たりGDP | 43,986ドル(13位) | 39,731ドル(17位) |
スウェーデンの社会政策の特長は(1)高負担・高福祉の国→福祉を国是
とした国で、所得税(国税+地方税)最大55%うち消費税25%。社会保険料
7%で 最大87%にも及ぶ医療費は20才以下無料、20歳以上は年間支払い
上限12,000円、教育費→大学・大学院まで無料、児童手当→月額13,000円、
託児所→無料、育児休暇時の給与保障、(2)情報公開世界一(3)政治に
信頼のある国世界一(4)オンブズマン発祥の国(5)CSR(企業の社会
的責任)世界一(6)環境(CO2削減)世界一(7)社会の持続可能性世
界一(8)社会科学の実験国家世界一など。
このうち、年金制度を現実的な制度に改定している。旧制度は日本と同じ
く、基礎年金部分と所得比例の2本立てであり、年金を現役世代の保険料
で賄う賦課方式。これを基礎年金の部分をなくし、所得比例方式のみにし
現役世代が支払う年院保険料の上限を設定し、現役世代の不満を軽減。さ
らに、年金保険料総額と年金給付総額が1対1になるように自動的収支均
衡メカニズムを導入し、年によって年金支給額が変動する。これにより国
民の年金は減るものの、年金生活者は「将来の生活の安心できる」ことを
優先し容認している。
近未来を考えたとき、教育費無料、子供手当大幅充当、社会保障の安定は
国家・共同体社会の基礎であり申し分ない政策だが、(1)規路労働主体
の公務員が1/3 を占めるとなれば社会的停滞は避けられない。民間労働者
の平均的賃金の最高 2/3程度まで引き下げる必要がある。余り過激な引き
下げだと総需要の抑制となる(2)インフレターゲットの設定の実績は即
日本に導入すべきもの(3)社会保養税として消費税は10~15%程度の充
当は、税の完全捕捉制度の導入を大前提として妥当だろう。その場合、社
会保障+その他の総計上限は20%上限として残りは、75%上限とした所得
税で充当する(4)行き過ぎた投機行動を抑制する規制強化(国債連帯税
や空売り防止など)(5)移民促進制度と市民権の付与促進など-これは
従来から言ってきたことだから屋上屋になるが、地球温暖化により惹起さ
れる動乱状態に備えるための『堅牢な社会制度の早期構築』を目標におい
ているわたし(たち)にはいま展開している政治状況になんとも歯がゆい。
ノーベル賞の審査と賞の授与という世界的なイベントが毎年話題になるが
ことしはまた違った側面からこのように考えてみた。