<金曜は本の紹介>
「星はまたたき物語りは始まる(小山慶太)」の購入はコチラ
「星はまたたき物語りは始まる」という本は、物語の面白さ、醍醐味、語りの妙を、文科と理科の両面から捉え直し、両者の一体化を試みた一冊です。
具体的には以下の構成となっていて、とても興味深く面白い内容となっています。
特に、1章の地球や木星に小天体が衝突した話は興味深く、また5章のファインマンの恋愛についてはほろりとされます。
1章:地球に小天体が衝突するという災厄
2章:ファンタジー映画と生態学のかかわり
3章:純文学と素粒子論の共演
4章:心の謎の不思議
5章:ノーベル賞物理学者のラブレター
6章:人間の一生と宇宙の進化の対比
7章:芸術と科学を美という共通の概念で括る
理科が得意ではない方にも分かりやすく説明があり、楽しめる内容となっています。
とてもオススメです!
以下はこの本のポイント等です。
・現在、NASAの計算によると、アポフィスという小惑星が2036年に地球からわずか3万キロメートルの至近距離を通過すると予測されている。この距離は地球から月までの距離の1/10以下、地球の直径の2.5倍に過ぎない。宇宙のスケールで考えれば、危険なニアミスといえる。ニアミスでもそのままおとなしく通り過ぎてくれるならよいが、今後、アポフィスの軌道に微妙な変化が生じれば、「終末のフール」の物語は現実の話となる。
・発見から1年4ヵ月後の1994年7月、SL9は秒速60キロメートルの速度で次々と木星へ突入していったのである。1キロメートル以上の大きさの小天体がこれだけの速度で衝突すると、その破壊力は広島に投下された原爆の約10億倍に達する。それが20個余りもつづいたわけである。こうした貴重な天文ショーを見る機会は滅多にないので、どのような現象が起きるのか、天文学者や惑星科学者たちは固唾を飲んで見守った。「ハッブル望遠鏡が見た宇宙」という本には、SL9の衝撃を受けた直後の木星を捉えた写真が数多く載せられている。そこには、木星表面にきのこ雲が発生し、成長していく過程や、SL9の破片が残した衝突跡(それは地球がすっぽりと入るほどのサイズにも達していた)、衝突によって木星の極に現れた巨大なオーロラなど、衝撃の凄まじさを物語る数々の現象が報告されている。なお、衝突点の温度は2万度を超えたという。人類にとって、これは決して対岸の火事ではない。木星はガスの惑星であるのに対し、地球は岩石から成っている。したがって、小天体が落下した場合、地球が被るダメージは木星の比ではないのである。
・6500万年前、ユカタン半島は浅海域であったので、この隕石はおそらく水深100m以内の地域に着水したであろう。モデリングの結果によれば、このとき起きた地震が海底地すべりを引き起こして、莫大な量の海水を移動させ、人類の歴史で経験したことのない大規模な破壊的津波を発生させた。この太古の大津波は、巨人が石を投げて起きた波のように、100mの高さに立ち上がり、秒速およそ500mの速さで海洋を情容赦なく広がっていった。この津波は海岸に達してもほとんど速度を落とさず、陸地内部に20km侵入し、地球の半球分にある海岸平野を氾濫させた。隕石が地下深くへ貫入すると巨大な衝撃波が発生し、それによって深さ15~20km、直径は少なく見積もっても170kmのクレーターが掘り出された。また、衝突はマグニチュード12~13の地震を起こしたが、これは人類が経験した最大規模の地震の千倍に相当する。隕石の着地点から千km離れたところでも、地表は高さ数100mに波打ったという。着地点の温度は数万度に上昇し、半径数百km内のあらゆるものは炎上したのである。さらに、生じた煙と煤は上昇し、爆発によって成層圏に運び込まれた莫大な微粒子と混じり合い、地球を暗幕で覆ったように暗くし、平均気温を氷点にまで低下させた。暗黒の昼が何ヶ月も続き、光合成は停止、食物連鎖は切断されたのである。こうして、恐竜は姿を消していった。
・一般に、ある生物群が持っていたエネルギーは食物連鎖を経るにつれ、呼吸、死、糞として失われてしまい、より上位の捕食者群が餌として利用できるエネルギー量は減っていくことになる。そこで、ネッシーが棲息できるか否かは、要するに食物連鎖の出発点である植物プランクトンの量が決め手となるわけである。こうして、生態系のさまざまなデータを用いて分析、計算した結果はこうである。ネッシーを変温動物と仮定した場合、ネス湖で魚を餌として生きていけるネッシーの個体数は、1頭の体重を100kgとすると12.5個体、300kgだと5.1個体、1tでは1.9個体ということになる。一方、恒温動物だともっと厳しく、体重100kgのネッシーでもわずか1.6個体、300kgでは0.7個体にしかならないという。この計算結果が正しいとすると、恒温動物のネッシーは生存し得ない。変温動物でもせいぜい100kg程度しかない。しかし、これではとてもモンスターとはいえそうもない。もう少し補足すると、ネス湖の主な主要なもののうち、サケ、ブラウントラウト、ウナギは魚食魚である。これらの魚はネッシーにとって、同じ餌を食べる競争者になる。その分、ネッシーの食料は減少し、条件はさらに悪くなる。
・ニュートリノはその存在をつかむのが難しい幽霊のような粒子であるが、きわめて低い確率ではあるものの、ごくごくまれに原子核に衝突することがある。地球に降り注いでくるニュートリノの数は、1平方センチメートル当たり、毎秒600億個にもなる。一方、5万トンの水の中には膨大な数(10の34乗個くらい)の原子核がある。両者の数がこれほどそろうと、確率は低くとも、水の中でニュートリノと原子核の衝突が起こり得る。衝突が起こると、それによって発生した荷電粒子が水中を超高速で走るが、このとき、面白い現象が見られる。真空中で一番速く走るのは光で、その速度はおよそ秒速30万kmであることはよく知られている。ただし、これはあくまでも真空中での話に限られる。水やガラスなどの媒質に突入すると、光の速度はそうした物質の屈折率で割り算した値に減速される。したがって、水中では光は真空中に比べると約3割ほど遅くなってしまう。そうなると、ニュートリノと原子核の衝突で発生した荷電粒子の方が光よりも速く水中を走るのである。こうした速度の逆転現象が起きると、荷電粒子の進行方向に青白い光が円錐状に放射される。これをチェレンコフ光という。スーパーカミオカンデの内壁に取り付けられた1万個余りの”眼”こと光電子増倍管は、闇の中で一瞬きらめく、このチェレンコフ光を感受することにより、ニュートリノを検出するのである。この装置を地上に建設すると、タンクの水の中にはニュートリノ以外にもさまざまな宇宙線が飛び込んでくる。それらが水を構成する原子核と衝突すると、やはりチェレンコフ光が放射される。つまりこうしたノイズにより、ニュートリノの検出がかき消されてしまう。しかし、地下1000mまで潜れば、他の宇宙線は岩盤を通り抜けることはできないので、雑音は遮断できるというわけである。1987年には、1世代前の装置が約16万光年の距離にある大マゼラン星雲で爆発した超新星から放出されたニュートリノの飛来を記録している。
・地球に太古の原始生命(バクテリア)が発生したのは、およそ36億年前といわれている。以降、これだけの長い時間をかけ、ともかく人間まで進化がなされてきたわけである。バクテリアから人間まで進化が連続している以上、心はその途上のどこかで生命に宿ったことは間違いない。ここまでは間違いないとすれば、少なくとも問題のありかははっきりしている。ところが、引用文にあるように、「それならば、どこで?」と問われると、途端に答えに窮する。個人的な思いを述べると、この「どこで?」という問いは生物進化の段階を指すだけでなく、脳の機能、構造についても言えるような気がする。心の源泉を脳とすれば、他の器官と同様、それを機械論の立場で研究することはとりあえずは可能であろう。実際、それによって脳の部位と感覚器官との対応などが、かなり明らかにされている。
・1945年6月16日、アメリカのニューメキシコ州の病院で独りの美しい女性が結核で亡くなった。彼女の名前はアーリーン・ファインマン、まだ25歳の若さであった。夫は2歳年上のリチャード・ファインマン、後年(1965年)、「量子電磁力学の基礎的研究」によりノーベル賞を受けることになる若手の物理学者である。当時、結核は不治の病であった。ストレプトマイシンは1943年に発見されてはいたものの、まだ臨床実験の段階であり、アーリーンの治療には間に合わなかったのである。それでもファインマンはすべてを承知で、周囲の猛反対を押し切り、アーリーンと結婚した。しかも、わずか3年の結婚生活の間、妻は一度も病院から出られぬという不自由な生活の中で、ファインマンは愛を全うしたのである。ノーベル賞物理学者の若き日の哀しくも美しいラブストーリーは、「インフィニティ/無限の愛(1996年)」と題して映画化までされたほどである。ファインマンとアーリーンの交際が始まったのは、二人が十代の半ばのときであった。ファインマンの妹ジョーンは兄が大学に入学したころにはもう、二人が結婚するのがわかっていたと回想している。それくらい仲睦まじかったのである。また、ジョーンは男の子たちが見とれるほどアーリーンは美しかったと語っているが、クリストファー・サイクスの本に載っているアーリーンの写真を見ると確かに、ハリウッドの女優かと見紛うほどの美貌の持ち主であることがわかる。ファインマンが熱を上げたのもうなずける。しかし、間もなくアーリーンは不治の病にり患する。さきほど触れたように、そのころはまだ結核の治療法はなかった。つまり、アーリーンに先立たれることを覚悟でファインマンは1942年、彼女に結婚を申し込んだのである。ファインマンの両親は、この結婚に強く反対をする。とりわけ、母親ルシールは強硬であった。まあ、無理もないと思う。母親は息子への感染も恐れたのである。不幸なことに、これが原因で母と息子の関係はこじれてしまう。それでも、ファインマンの決心は揺るがなかった。
・ファインマンの母ルシールは結婚に反対し、息子との間に深い溝をつくってしまっていたが、アーリーンの訃報を耳にしたとき、息子にこう書き送っている。
いまも私もお前が彼女と結婚し、できる限りその短い生涯を幸せにしてあげたことを誇りに思い、心から喜んでいます。彼女はお前をあれほどまで慕っていたんですもの。お前の立場から物事を見なかった私を許しておくれ。私はただお前の身を思い、お前が負わなくてはならない重荷を恐れていただけなのです。でもお前はそれをよく耐えました。いまはどうか彼女なしの生活に直面する一時に努めておくれ。
・気候について考えると、地球が受け取る太陽エネルギーが現在よりも10%以上減少すると、地球の表面は全面凍結してしまう。反対に太陽エネルギーが現在より30%以上多く降り注ぐと、今度は温室効果によって暖かくなりすぎ、気候は大きく変動してしまう。したがって、地球が生命のゆりかごとなり得るためには、太陽から受け取るエネルギー量が現在の値の0.9倍から1.3倍の間に収まっている必要がある。これを太陽と地球の距離に換算すると、現在の値の0.85倍から1.05倍という非常に狭い領域となる。わずか3000万km弱-これは広い太陽系のスケールで捉えると、ほとんど幅のない線といえる-の帯にすぎない。この上に地球がのっかったのは、偶然以外の何ものでもない。ところで、地球上にバクテリアが発生し、そこから人間にたどりつくまで、およそ36億年もの時間を要している。その間、母なる太陽はずっと輝きつづけ、地球にエネルギーを供給してくれていたわけである。つまり、生命が芽生え、進化するためには、太陽は少なくとも数十億年の寿命を持っていなくてはならないことになる。
・一般には星は質量が大きいほど、短命である。たとえば、質量が太陽の5倍の星は1億年の寿命しかない。10倍になると3千万年、100倍ではわずか100万年で一生を終える。反対に質量が小さいと寿命は伸び、たとえば太陽の半分の質量の星は2000億年という長寿になる。ただし、長寿なのはめでたいのだが、小さい星は輝きが弱く暗くなる。そうなると、放出するエネルギーが小さくなり、惑星を充分あたためることができない。そうなると、生命を育むのは難しくなる。というわけで、星はそれこそ星の数ほどたくさんあるものの、その周囲をまわる惑星が存在として、惑星に生命が誕生、進化できるのは、要するに、その質量がほぼ太陽程度のものに限定されることになる。我々の太陽がその限定された星のひとつであったのは、これまた、偶然以外の何ものでもない。
・重力についての理解、知識は格段に深まったが、現在の物理学をもってしても、重力の究極の原因はニュートンと同様にやはり、わからないと答えるしかない。そして、さきほど述べたように、重力はどうして距離の二乗に反比例なのか、重力定数はどうしてこの値なのかという疑問にも答えることはできない。
・生命が出現するのは、早くても宇宙が生まれてから100億年くらい経ってからのことになる。なぜなら、まず第一世代の星が形成され、その中で炭素をはじめとして酸素や窒素など生命を構成する元素がつくられなければならないからである。そして、太陽のような構成の平均寿命はほぼ100億年になる。したがって、それ以前では、生命をつくる部品がまだ用意されていないわけである。
・星は死んで再び蘇るという輪廻転生を繰り返すが、とはいっても、この輪廻転生が永遠につづくわけではない。世代を重ねるごとに、核融合を起す軽い元素が順次消費され、やがては燃料切れとなってしまうからである。そうなると、宇宙はどこを眺めても、輝く星がまったくない暗黒の空間となる。エネルギー源である星がなくなれば当然、生命も存在し得ない死の世界となる。およそ100兆年もすると、宇宙はこうした状況を迎えると予測されている。気の遠くなるような想像を絶する時間の先ではあるが、すべての星が燃え尽きた暗闇に包まれる宇宙を思い描くと、ぞっとする。でも、その日は必ずやってくるのである。
・アインシュタインはそれまで何の相関もないと思われていた2つの保存則が統一でき、質量とエネルギーが互いに変換可能であることを、こんな簡単な式ひとつで表したのである。念を押すまでもなく、質量保存則もエネルギー保存則も自然界のきわめて基本的な法則である。その2つを合体し、両者の等価性というより深遠でより根源的な宇宙の真理を、中学生でも十分理解できる、この短い式に籠めて提示したのであるから驚きである。そう思ってあらためて眺めてみると、E=mc2は格好よすぎるほど美しい。この式を導き出した1905年の夏、アインシュタインは親友のハビヒトに充て、こう書いている。
「その考えはおもしろく、興味深いものであるが、そんな話をしたら神に笑われるかもしれないし、ひょっとしたら神は私をたぶらかしているのかもしれない。」
冗談めかしてはあるが、神を持ち出しているところに、凄い真理を発見したという興奮と昂揚感が見て取れる。このとき、アインシュタインはまだ弱冠26歳の無名の若者であった。
<目次>
まえがき
1章 天と地 衝突のクライシス
小惑星の接近 産むべきか、産まざるべきか 永遠の冬眠に入る前に シューメーカー・レビー彗星の衝突 神の鉄槌とディープ・インパクト 地上の地獄絵 衝突の回避は可能か 破局の前の救い
2章 ドラゴン伝説と龍の伝説
ウォーター・ホース 生物種の世代継承 ネッシー浮上す 生態系から見たネッシー 上海の上空を飛んだ龍 河童の目撃談 猿沢の池の龍 伝説が生まれる土壌
3章 星の船とウサギの罠
雪の温泉宿の一夜 地下千メートルの天文台 星からの船 ハイゼンベルクの矛盾 地底に潜る孫悟空 科学への違和感 ゲーテの自然と象徴 ウサギの罠 プリニウスが見たもの
4章 ライオンの心 ロボットの心
ヤギと仲良しになったオオカミ オリックスを育てたライオン 人の心と動物の心 アメーバに心はあるか 心を持った機械 天啓を受けた機械 瞳に映し出される心 人工知能とハイイロガンの刷り込み ピノキオと青い妖精
5章 ラブレター 亡き人との架橋
妖精との結婚 夢枕に立つ妻 亡き恋人への手紙 謎と謎解きの連鎖 天国へ持ち去られた秘密 図書室の”愛のカード” 「失われた時を求めて」のカード 死んでしまった夫からのラブレター ノーベル賞物理学者の恋 アーリーンの短い生涯 天国の住所
6章 人の仕合はせ 宇宙の幸運
父が遺した句 バランスの大切 太陽と地球の絶妙なバランス 宇宙と知性を持った創造者 ゴルディロックスと三びきのくま ドルティロックス因子の謎 クレオパトラの鼻と重力定数 星の輪廻転生 究極のゴルディロックス因子
7章 芸術の美 科学の美
運慶の仁王 漱石の芸術観と科学観 神の符丁 アインシュタインの興奮 山口百恵の「E=MC2」 1万ボルトの瞳 花鳥風月と科学理論 プラハの国際数学コンテスト
紹介作品一覧
面白かった本まとめ(2010年下半期)
<今日の独り言>
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具体的には以下の構成となっていて、とても興味深く面白い内容となっています。
特に、1章の地球や木星に小天体が衝突した話は興味深く、また5章のファインマンの恋愛についてはほろりとされます。
1章:地球に小天体が衝突するという災厄
2章:ファンタジー映画と生態学のかかわり
3章:純文学と素粒子論の共演
4章:心の謎の不思議
5章:ノーベル賞物理学者のラブレター
6章:人間の一生と宇宙の進化の対比
7章:芸術と科学を美という共通の概念で括る
理科が得意ではない方にも分かりやすく説明があり、楽しめる内容となっています。
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以下はこの本のポイント等です。
・現在、NASAの計算によると、アポフィスという小惑星が2036年に地球からわずか3万キロメートルの至近距離を通過すると予測されている。この距離は地球から月までの距離の1/10以下、地球の直径の2.5倍に過ぎない。宇宙のスケールで考えれば、危険なニアミスといえる。ニアミスでもそのままおとなしく通り過ぎてくれるならよいが、今後、アポフィスの軌道に微妙な変化が生じれば、「終末のフール」の物語は現実の話となる。
・発見から1年4ヵ月後の1994年7月、SL9は秒速60キロメートルの速度で次々と木星へ突入していったのである。1キロメートル以上の大きさの小天体がこれだけの速度で衝突すると、その破壊力は広島に投下された原爆の約10億倍に達する。それが20個余りもつづいたわけである。こうした貴重な天文ショーを見る機会は滅多にないので、どのような現象が起きるのか、天文学者や惑星科学者たちは固唾を飲んで見守った。「ハッブル望遠鏡が見た宇宙」という本には、SL9の衝撃を受けた直後の木星を捉えた写真が数多く載せられている。そこには、木星表面にきのこ雲が発生し、成長していく過程や、SL9の破片が残した衝突跡(それは地球がすっぽりと入るほどのサイズにも達していた)、衝突によって木星の極に現れた巨大なオーロラなど、衝撃の凄まじさを物語る数々の現象が報告されている。なお、衝突点の温度は2万度を超えたという。人類にとって、これは決して対岸の火事ではない。木星はガスの惑星であるのに対し、地球は岩石から成っている。したがって、小天体が落下した場合、地球が被るダメージは木星の比ではないのである。
・6500万年前、ユカタン半島は浅海域であったので、この隕石はおそらく水深100m以内の地域に着水したであろう。モデリングの結果によれば、このとき起きた地震が海底地すべりを引き起こして、莫大な量の海水を移動させ、人類の歴史で経験したことのない大規模な破壊的津波を発生させた。この太古の大津波は、巨人が石を投げて起きた波のように、100mの高さに立ち上がり、秒速およそ500mの速さで海洋を情容赦なく広がっていった。この津波は海岸に達してもほとんど速度を落とさず、陸地内部に20km侵入し、地球の半球分にある海岸平野を氾濫させた。隕石が地下深くへ貫入すると巨大な衝撃波が発生し、それによって深さ15~20km、直径は少なく見積もっても170kmのクレーターが掘り出された。また、衝突はマグニチュード12~13の地震を起こしたが、これは人類が経験した最大規模の地震の千倍に相当する。隕石の着地点から千km離れたところでも、地表は高さ数100mに波打ったという。着地点の温度は数万度に上昇し、半径数百km内のあらゆるものは炎上したのである。さらに、生じた煙と煤は上昇し、爆発によって成層圏に運び込まれた莫大な微粒子と混じり合い、地球を暗幕で覆ったように暗くし、平均気温を氷点にまで低下させた。暗黒の昼が何ヶ月も続き、光合成は停止、食物連鎖は切断されたのである。こうして、恐竜は姿を消していった。
・一般に、ある生物群が持っていたエネルギーは食物連鎖を経るにつれ、呼吸、死、糞として失われてしまい、より上位の捕食者群が餌として利用できるエネルギー量は減っていくことになる。そこで、ネッシーが棲息できるか否かは、要するに食物連鎖の出発点である植物プランクトンの量が決め手となるわけである。こうして、生態系のさまざまなデータを用いて分析、計算した結果はこうである。ネッシーを変温動物と仮定した場合、ネス湖で魚を餌として生きていけるネッシーの個体数は、1頭の体重を100kgとすると12.5個体、300kgだと5.1個体、1tでは1.9個体ということになる。一方、恒温動物だともっと厳しく、体重100kgのネッシーでもわずか1.6個体、300kgでは0.7個体にしかならないという。この計算結果が正しいとすると、恒温動物のネッシーは生存し得ない。変温動物でもせいぜい100kg程度しかない。しかし、これではとてもモンスターとはいえそうもない。もう少し補足すると、ネス湖の主な主要なもののうち、サケ、ブラウントラウト、ウナギは魚食魚である。これらの魚はネッシーにとって、同じ餌を食べる競争者になる。その分、ネッシーの食料は減少し、条件はさらに悪くなる。
・ニュートリノはその存在をつかむのが難しい幽霊のような粒子であるが、きわめて低い確率ではあるものの、ごくごくまれに原子核に衝突することがある。地球に降り注いでくるニュートリノの数は、1平方センチメートル当たり、毎秒600億個にもなる。一方、5万トンの水の中には膨大な数(10の34乗個くらい)の原子核がある。両者の数がこれほどそろうと、確率は低くとも、水の中でニュートリノと原子核の衝突が起こり得る。衝突が起こると、それによって発生した荷電粒子が水中を超高速で走るが、このとき、面白い現象が見られる。真空中で一番速く走るのは光で、その速度はおよそ秒速30万kmであることはよく知られている。ただし、これはあくまでも真空中での話に限られる。水やガラスなどの媒質に突入すると、光の速度はそうした物質の屈折率で割り算した値に減速される。したがって、水中では光は真空中に比べると約3割ほど遅くなってしまう。そうなると、ニュートリノと原子核の衝突で発生した荷電粒子の方が光よりも速く水中を走るのである。こうした速度の逆転現象が起きると、荷電粒子の進行方向に青白い光が円錐状に放射される。これをチェレンコフ光という。スーパーカミオカンデの内壁に取り付けられた1万個余りの”眼”こと光電子増倍管は、闇の中で一瞬きらめく、このチェレンコフ光を感受することにより、ニュートリノを検出するのである。この装置を地上に建設すると、タンクの水の中にはニュートリノ以外にもさまざまな宇宙線が飛び込んでくる。それらが水を構成する原子核と衝突すると、やはりチェレンコフ光が放射される。つまりこうしたノイズにより、ニュートリノの検出がかき消されてしまう。しかし、地下1000mまで潜れば、他の宇宙線は岩盤を通り抜けることはできないので、雑音は遮断できるというわけである。1987年には、1世代前の装置が約16万光年の距離にある大マゼラン星雲で爆発した超新星から放出されたニュートリノの飛来を記録している。
・地球に太古の原始生命(バクテリア)が発生したのは、およそ36億年前といわれている。以降、これだけの長い時間をかけ、ともかく人間まで進化がなされてきたわけである。バクテリアから人間まで進化が連続している以上、心はその途上のどこかで生命に宿ったことは間違いない。ここまでは間違いないとすれば、少なくとも問題のありかははっきりしている。ところが、引用文にあるように、「それならば、どこで?」と問われると、途端に答えに窮する。個人的な思いを述べると、この「どこで?」という問いは生物進化の段階を指すだけでなく、脳の機能、構造についても言えるような気がする。心の源泉を脳とすれば、他の器官と同様、それを機械論の立場で研究することはとりあえずは可能であろう。実際、それによって脳の部位と感覚器官との対応などが、かなり明らかにされている。
・1945年6月16日、アメリカのニューメキシコ州の病院で独りの美しい女性が結核で亡くなった。彼女の名前はアーリーン・ファインマン、まだ25歳の若さであった。夫は2歳年上のリチャード・ファインマン、後年(1965年)、「量子電磁力学の基礎的研究」によりノーベル賞を受けることになる若手の物理学者である。当時、結核は不治の病であった。ストレプトマイシンは1943年に発見されてはいたものの、まだ臨床実験の段階であり、アーリーンの治療には間に合わなかったのである。それでもファインマンはすべてを承知で、周囲の猛反対を押し切り、アーリーンと結婚した。しかも、わずか3年の結婚生活の間、妻は一度も病院から出られぬという不自由な生活の中で、ファインマンは愛を全うしたのである。ノーベル賞物理学者の若き日の哀しくも美しいラブストーリーは、「インフィニティ/無限の愛(1996年)」と題して映画化までされたほどである。ファインマンとアーリーンの交際が始まったのは、二人が十代の半ばのときであった。ファインマンの妹ジョーンは兄が大学に入学したころにはもう、二人が結婚するのがわかっていたと回想している。それくらい仲睦まじかったのである。また、ジョーンは男の子たちが見とれるほどアーリーンは美しかったと語っているが、クリストファー・サイクスの本に載っているアーリーンの写真を見ると確かに、ハリウッドの女優かと見紛うほどの美貌の持ち主であることがわかる。ファインマンが熱を上げたのもうなずける。しかし、間もなくアーリーンは不治の病にり患する。さきほど触れたように、そのころはまだ結核の治療法はなかった。つまり、アーリーンに先立たれることを覚悟でファインマンは1942年、彼女に結婚を申し込んだのである。ファインマンの両親は、この結婚に強く反対をする。とりわけ、母親ルシールは強硬であった。まあ、無理もないと思う。母親は息子への感染も恐れたのである。不幸なことに、これが原因で母と息子の関係はこじれてしまう。それでも、ファインマンの決心は揺るがなかった。
・ファインマンの母ルシールは結婚に反対し、息子との間に深い溝をつくってしまっていたが、アーリーンの訃報を耳にしたとき、息子にこう書き送っている。
いまも私もお前が彼女と結婚し、できる限りその短い生涯を幸せにしてあげたことを誇りに思い、心から喜んでいます。彼女はお前をあれほどまで慕っていたんですもの。お前の立場から物事を見なかった私を許しておくれ。私はただお前の身を思い、お前が負わなくてはならない重荷を恐れていただけなのです。でもお前はそれをよく耐えました。いまはどうか彼女なしの生活に直面する一時に努めておくれ。
・気候について考えると、地球が受け取る太陽エネルギーが現在よりも10%以上減少すると、地球の表面は全面凍結してしまう。反対に太陽エネルギーが現在より30%以上多く降り注ぐと、今度は温室効果によって暖かくなりすぎ、気候は大きく変動してしまう。したがって、地球が生命のゆりかごとなり得るためには、太陽から受け取るエネルギー量が現在の値の0.9倍から1.3倍の間に収まっている必要がある。これを太陽と地球の距離に換算すると、現在の値の0.85倍から1.05倍という非常に狭い領域となる。わずか3000万km弱-これは広い太陽系のスケールで捉えると、ほとんど幅のない線といえる-の帯にすぎない。この上に地球がのっかったのは、偶然以外の何ものでもない。ところで、地球上にバクテリアが発生し、そこから人間にたどりつくまで、およそ36億年もの時間を要している。その間、母なる太陽はずっと輝きつづけ、地球にエネルギーを供給してくれていたわけである。つまり、生命が芽生え、進化するためには、太陽は少なくとも数十億年の寿命を持っていなくてはならないことになる。
・一般には星は質量が大きいほど、短命である。たとえば、質量が太陽の5倍の星は1億年の寿命しかない。10倍になると3千万年、100倍ではわずか100万年で一生を終える。反対に質量が小さいと寿命は伸び、たとえば太陽の半分の質量の星は2000億年という長寿になる。ただし、長寿なのはめでたいのだが、小さい星は輝きが弱く暗くなる。そうなると、放出するエネルギーが小さくなり、惑星を充分あたためることができない。そうなると、生命を育むのは難しくなる。というわけで、星はそれこそ星の数ほどたくさんあるものの、その周囲をまわる惑星が存在として、惑星に生命が誕生、進化できるのは、要するに、その質量がほぼ太陽程度のものに限定されることになる。我々の太陽がその限定された星のひとつであったのは、これまた、偶然以外の何ものでもない。
・重力についての理解、知識は格段に深まったが、現在の物理学をもってしても、重力の究極の原因はニュートンと同様にやはり、わからないと答えるしかない。そして、さきほど述べたように、重力はどうして距離の二乗に反比例なのか、重力定数はどうしてこの値なのかという疑問にも答えることはできない。
・生命が出現するのは、早くても宇宙が生まれてから100億年くらい経ってからのことになる。なぜなら、まず第一世代の星が形成され、その中で炭素をはじめとして酸素や窒素など生命を構成する元素がつくられなければならないからである。そして、太陽のような構成の平均寿命はほぼ100億年になる。したがって、それ以前では、生命をつくる部品がまだ用意されていないわけである。
・星は死んで再び蘇るという輪廻転生を繰り返すが、とはいっても、この輪廻転生が永遠につづくわけではない。世代を重ねるごとに、核融合を起す軽い元素が順次消費され、やがては燃料切れとなってしまうからである。そうなると、宇宙はどこを眺めても、輝く星がまったくない暗黒の空間となる。エネルギー源である星がなくなれば当然、生命も存在し得ない死の世界となる。およそ100兆年もすると、宇宙はこうした状況を迎えると予測されている。気の遠くなるような想像を絶する時間の先ではあるが、すべての星が燃え尽きた暗闇に包まれる宇宙を思い描くと、ぞっとする。でも、その日は必ずやってくるのである。
・アインシュタインはそれまで何の相関もないと思われていた2つの保存則が統一でき、質量とエネルギーが互いに変換可能であることを、こんな簡単な式ひとつで表したのである。念を押すまでもなく、質量保存則もエネルギー保存則も自然界のきわめて基本的な法則である。その2つを合体し、両者の等価性というより深遠でより根源的な宇宙の真理を、中学生でも十分理解できる、この短い式に籠めて提示したのであるから驚きである。そう思ってあらためて眺めてみると、E=mc2は格好よすぎるほど美しい。この式を導き出した1905年の夏、アインシュタインは親友のハビヒトに充て、こう書いている。
「その考えはおもしろく、興味深いものであるが、そんな話をしたら神に笑われるかもしれないし、ひょっとしたら神は私をたぶらかしているのかもしれない。」
冗談めかしてはあるが、神を持ち出しているところに、凄い真理を発見したという興奮と昂揚感が見て取れる。このとき、アインシュタインはまだ弱冠26歳の無名の若者であった。
<目次>
まえがき
1章 天と地 衝突のクライシス
小惑星の接近 産むべきか、産まざるべきか 永遠の冬眠に入る前に シューメーカー・レビー彗星の衝突 神の鉄槌とディープ・インパクト 地上の地獄絵 衝突の回避は可能か 破局の前の救い
2章 ドラゴン伝説と龍の伝説
ウォーター・ホース 生物種の世代継承 ネッシー浮上す 生態系から見たネッシー 上海の上空を飛んだ龍 河童の目撃談 猿沢の池の龍 伝説が生まれる土壌
3章 星の船とウサギの罠
雪の温泉宿の一夜 地下千メートルの天文台 星からの船 ハイゼンベルクの矛盾 地底に潜る孫悟空 科学への違和感 ゲーテの自然と象徴 ウサギの罠 プリニウスが見たもの
4章 ライオンの心 ロボットの心
ヤギと仲良しになったオオカミ オリックスを育てたライオン 人の心と動物の心 アメーバに心はあるか 心を持った機械 天啓を受けた機械 瞳に映し出される心 人工知能とハイイロガンの刷り込み ピノキオと青い妖精
5章 ラブレター 亡き人との架橋
妖精との結婚 夢枕に立つ妻 亡き恋人への手紙 謎と謎解きの連鎖 天国へ持ち去られた秘密 図書室の”愛のカード” 「失われた時を求めて」のカード 死んでしまった夫からのラブレター ノーベル賞物理学者の恋 アーリーンの短い生涯 天国の住所
6章 人の仕合はせ 宇宙の幸運
父が遺した句 バランスの大切 太陽と地球の絶妙なバランス 宇宙と知性を持った創造者 ゴルディロックスと三びきのくま ドルティロックス因子の謎 クレオパトラの鼻と重力定数 星の輪廻転生 究極のゴルディロックス因子
7章 芸術の美 科学の美
運慶の仁王 漱石の芸術観と科学観 神の符丁 アインシュタインの興奮 山口百恵の「E=MC2」 1万ボルトの瞳 花鳥風月と科学理論 プラハの国際数学コンテスト
紹介作品一覧
面白かった本まとめ(2010年下半期)
<今日の独り言>
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