<金曜は本の紹介>
「歌声は心をつなぐ(佐藤しのぶ)」の購入はコチラ
この「歌声は心をつなぐ(佐藤しのぶ)」という本は、声楽家でソプラノ歌手として有名な佐藤しのぶさんが人との出逢いと音楽の素晴らしさについて書いた本です。
具体的にはチェルノブイリ原発事故で被曝した子どもたちとのコンサート、バングラデシュの子どもたちへの子守唄、15人の有名人との対談集で構成されていて、人生を勇気づけ感動させる音楽、寄付やボランティア、その他よりよい人生のためのヒント等について書かれていて、とてもオススメです!
以下はこの本のポイント等です。
・ベラルーシのサナトリウムでのコンサートでは、「スパシーバ」ありがとうの言葉を何度も聞き、そしてまた私も何度口にしただろうか。記念の写真を撮ったり、握手をしたり、抱きしめあったりしたわずかな時間のあと、私たちはミンスクに戻るワゴン車に乗り込んだ。「このコンサートのことは、けっして忘れません」一人の女の子が駆け寄ってくる。「私も忘れない」返した言葉は声にならず、ただ手を振った。ワゴン車のドアが閉じ、車が動き出すと、数人の子が車を追いかけて走ってくる。本当は走ったりすることなど、困難なはずのその身体で。大きく手を振り、何かを叫んでいる。その声は聞き取れなかったが、その姿は十分過ぎるほど、心に焼き付いた。もともと私は、彼らに勇気を与えるためにここに来たはずだった。なのにその命の輝きに、逆に私が励まされていた。まるでとてもつもなく大きな花束を受け取ったようだった。そしてその花束は、当時の私には大き過ぎた。その花の美しさに応えられるだけの強さを、まだ持ち合わせていなかったのだ。子どもたちの姿が見えなくなると、こらえていた涙が一気にあふれてきた。自分の無力さとふがいなさにただ涙が止まらなかった。ショックだった。私は完全に打ち負かされてしまったのだ。涙は、子どもたちに対するものではなく、何か理不尽なものに対する怒りや悔しさのようなものだった。そして何より理不尽なことは、自分が無力だということだった。もう一度ここに来なければ。強く強くそう思った。でも、その一方で、いまここで見送ってくれた子どもたちのうち、どれだけの子が生きているのか分からないという恐怖もまた、ふとよぎった。改めて、アベマリアが頭の中でリフレインする。子どもたちが真剣な表情で聴き入っていた曲。私はアベマリアの奇跡を信じようと思った。
・1998年、Mさんの奥さんは不幸なことに事故に遭い、トラックに挟まれ、脊椎を複雑骨折。神経伝道路を断たれ、回復しても半身不随になるだろうと通告されたのだという。夫妻を襲った突然の不幸。Mさんは絶望に追い込まれ、しばらく茫然自失の日々が続いた。そしてある日、NHKの「課外授業 ようこそ先輩」をたまたま目にし、その番組内で私がアベマリアを歌うのを耳にしたそうだ。ところがこのアベマリアを聴いた瞬間、Mさんは体中が震え、突き上げるようなものが湧き出し、これ以上、医師任せ、スタッフ任せにはできないと思い立ったのだそうだ。その日からMさんは、ベッドに固定されている奥さんの手足、全身のマッサージを自ら始めたのだという。無理な振動を与えないよう、血行をうながし、日々マッサージを繰り返す。そしてそれから35日目のこと、奥様はなんと地に足をつき、自立できるようになったという。楽屋にいらした奥様も元気に歩いておられ、あなたのおかげですと、頭を下げてくださる。「そんな、お顔を上げてください。頭を下げたいのは、こちらのほうです」アベマリアを歌う機会に恵まれ、それが放送され、たまたまそれを聴いてくださった方が力を持ち、人生を良い方向に転換できたなどというのは、私こそお礼を言いたい話だった。私は自分の歌がそんな風に人に伝わり、影響力を持つとは思ってもみなかった。私は歌をとおして生きてきた。歌は自分を高めてくれるもの、成長させてくれるものだとは思っていたが、このように思いもかけない出会いもまた、もたらしてくれるのだ。音楽には、人を結びつける大きな力、奇跡を起こす大きな力があるのだとそのあと改めて感じたのだ。
・時に援助と言うと、豊かなものが恵まれないものに何かを与える、という姿勢になりがちだが、それでは根本の部分は何も解決されない。すべての子供たちが自分で考え、自立できるようサポートすることこそ、本当に大切なことなのだろう。
・「大きくなったらいつか皆も、お父さん、お母さんになるでしょう。そのとき、どうやったら赤ちゃんを上手に寝かしつけられるかな?じゃあこれから私が子守唄を歌うから、皆、順番に私のお膝に来てください」すると、まさに争奪戦。我先にと私に抱きつき、ここは自分の場所だと言わんばかりに膝に頭をのせては目を閉じる。これでは足が幾つあっても足りないほどだ。私は、たくさんの子どもを懐に抱く猫や犬の親のように、右の太もも、左の太もも、右腕、左腕とできる限りの場所で子どもたちを抱いていた。シーンと静まり返る部屋の中。カーテンが揺れ、風が入ってくる。目を閉じるだけでなく、本当に眠ってしまった子もいた。
・やがて、肩に、左ひざに、右胸に子どもたちのぬくもりが伝わり、涙が伝わってきた。ぬるい速度で肌に染み渡る涙の温度。気づけば、二人一組になって子守唄を歌う子たちも泣いている。自分の膝に友人を抱き、その肩や背中をさすって寝かしつける子も、また、友人の膝枕で眠る子も。同行してくれていたピアニストの森島英子さんにも、子どもたちはしがみついて涙していた。皆がいつしか全員泣いていた。皆の心が泣いていた・・・・・。やはり両親のことを思い出しているのだろうか。やはり、お父さんやお母さんのことが恋しくて仕方ないのだろう。貧しくて家を飛び出してきた子どもたちは、いつか自分が働いて一緒に暮らしたいと思っているのだろう。父母を守りたいと思っているのだろう。ある子は母親とうまく行かなかったかもしれない、ある子は父親に絶望したかもしれない。もしかしたら殴られたり虐待されたりしたかもしれない。それでも子どもたちは皆、両親を愛しているのだ。心からいまもなお、愛しているのだ。一方私は彼らに、あなたたちもまた愛されているんだよということを伝えなければと思っていた。もしかしたらお父さんやお母さんはあなたたちを叩いたかもしれない。様々な事情があってひどいことをしたかもしれない。でも私が娘を抱いて本当に幸福だと思ったように、あなたたちの両親もあなたが生まれたときにきっとそう思ったはず。事情がどうであれ、そもそもあなたたちは”望まれて”生まれてきたのだから。そのことを私は絶対に伝えなければと思っていた。
・世のお母さんたちも是非、自分の子どもには自分の声で歌を歌ってあげてほしいと思う。しっかりと抱かれ、母親の生の声で聴こえる歌ほど、子どもに安らぎを与えるものはないと思うからだ。実際に肌を通して伝わる声の振動。それは生身の人間にしかできないことだから。たとえばどれほど音痴でも、胎教でモーツァルトを聴かせるのが良いとどれだけ言われても、母親の生の声ほど子どもを癒すものはないはずだ。
・ここで子どもたちに知ってもらいたかったのは、オーケストラというのは、いろいろな楽器のハーモニーで創っていくものだということだった。言ってみればそれは、いま私たちが生きている社会とよく似ている。この世の中、一人として同じ人はいない。オーケストラも同じ。もちろん同じ楽器を担当する人は何人かいるけれど、それぞれがしっかりと自分の音を出し、それぞれが大切な役割を果たしている。この人は「ド」、この人は「ミ」、この人は「ソ」というように。そしてそれらが皆一緒になると、一人で演奏しているより壮大な音になっていく。重なり合う音は相乗効果で美しいハーモニーを奏で、一つの世界を創り出しているのだ。子どもたちを囲む世界も、ぜひそうであって欲しいと思った。皆、それぞれが大切な存在で、手と手をとって重なり合う音は、不協音ではなく、笑顔を結ぶハーモニーとなって欲しい。
・寄付などということは、ひっそりと静かに黙って行い、家族だけが分かってくれているぐらいが美しいと思っていた。しかし私たち大人にはやはり、”伝えていく”という義務がある。多くの人に”知ってもらう”ことも大切なことだと思うのだ。「子どもたちへの支援」などというと、「売名行為」などと悲しい声も聞こえてくる。でも大切な自分の人生。そんな嘘や虚飾にまみれて終わりたい人はいないはずだ。
・時に生きていくのは厳しいけれど、誰にも愛されずに死んでいく人はいないだろう。でも、確かに愛されていると感じたいときがある。その感触が人を強くするはずだ。私はいつもそう考える。なぜなら私もそうだから。厳しい境遇にいる子どもたちもちゃんと愛されている。目に見えなくても、幸せになることを応援してくれる人がいるのだということを知らせたい。それがこの本を出す意味であり、私が求めているものなのだ。
・最も大事なボランティアは何かということです。誰かのためとか人のためとか世の中のためとか、貧しい国の恵まれない子どもたちを助けるとか、そういう問題じゃないと思うんです。一番大事なボランティアというのは、自分自身が一生懸命生きることだと思っています。一生懸命に生きるからこそ人の命も尊いと思うんです。そして、真剣に生きるからこそ人の痛みや悲しみも胸に伝わってくると私は思っている。一番大事なボランティアはまず自分自身が一生懸命生きることです。
・子どもから学ぶことも多いし、本当に命って不思議だなと思います。いろんな国に行くと、母親が我が子のことを毎日心配している。生きるか死ぬか、食べ物があるかないか、追っかけられて殺されないかって。だから自分の子が、毎日息をして生きてくれているだけで感謝なんですよ。子どもを授かって、これは本当に奇跡だな、感謝しなきゃいけないなと謙虚になりました。世の中は、特に子育てというのは思い通りにはならなくて、またそこに責任も感じるんですけど、と同時にやはり謙虚に生きていかなきゃいけない、感謝の気持ちを込めて生きていかなきゃいけないな、と思うようになりました。
・掃除は何をやってもよろしいですけれども、特にトイレ掃除というのは人が一番嫌うことでございますし、また、身をこごめて一番低い姿勢でないとできない掃除でございますね。ですから、ここに一番大きな意味があると私は思ったわけでございます。人間は誰でも心地よい世界を作りたいわけですけども、私が両親から、「自分の心地よい世界を作っていくと、人間が卑しくなる」ということを絶えず言われました。絶えず自分で困難な世界に挑戦していったときに初めて人間は成長できるけども、居心地のよさを求めていくとかならず卑しくなる、と。私は少なくとも、卑しい人間にだけはなりたくないと思いました。これが掃除に取り組んで、しかも長く続けてきた最も大きな理由でございます。
・実は若いころは、人一倍、人に対する憤りを持っておりました。しかし、たとえば人に騙されますね。そのときに、その人間を恨んでいますと、夜寝ようとしても頭が眠らせてくれないですね。なかなか眠れない。体は疲れて目は眠いのに頭が眠らせてくれないという目にさんざん遭ったわけです。そのときに、人を恨んだり憎んだりするということは自分自身にマイナスなことばかりで一つもプラスにならない。じゃあ、どうしたらいいか。考えてみれば、そういうことが起きるたびに、そういう念が心の中に起きる。そのために何とつまらないことをやっているかということを、私は自身に言い聞かせて言い聞かせているうちに、そういうものがすうっと消せるようになったというだけでございますかね。今でも私はむっとします。だけどそれを引きずらないですね。普通の人は全部それにひもを付けて、ずるずる引きずって歩いて、それでエネルギーのほとんどを費やしてしまわれるんです。私は起きたところにそれを置いていっちゃうんですよ。ですから、時々思い出すことはあっても、それを綱を付けて引きずらないことが私の健康法でございます。
・先生は指導される時に、5つの言葉があるんですって?自分ではよく覚えていないんですけどあるようです。まずは「はい」と言う素直な心。それから「ありがとう」が2つ目。3つ目は「すみません。」それから4つ目が「私がやります。」お手伝いといいますか、積極的に人の役に立つ気持ちを持って欲しいと思っています。5つ目が「おかげさま」という感謝の気持ちですね。
・大切なことは彼女一人を教室から追い出すのではなく、共にいること。そしてまず相手をほめること、「あなたは賢い」という言葉なんです。
・「人は、かならず死ぬ」「人生は、一度しかない」「人は、いつ死ぬか分からない」。その真実だけを伝えてみたかったのです。その真実を正面から受け止めるとき、若い方々は、その瑞々しい心で、かならず何かを掴まれる。人間の心には不思議な生命力があると思うのですね。その3つの真実を見つめるとき、若い方々は、真摯に何かを考え始める。
・富は分かち合ってこそ増えるってことです。やっぱり資金的に苦しいところには、ある程度投資してあげるとか、そうやって助け合っていくということも、日本人同士として非常に大事なことだと思うんですね。お互いに相手の立場を尊重して、「あそこはもう小さいから、値段は安くやりゃええ」というやり方ではなくて、価値を認めてあげることが大事ではないですかね。そこから人を育てていくということがものすごく大事だと思います。すべてはやっぱり、どこまで追求しても企業というのは人ですよ。
<目次>
はじめに
歌声は心をつなぐ
第1章 ベラルーシの透明な夏
第2章 ドロップインセンター・バングラデシュ
第3章 67億人の中の一人
人のこころ 佐藤しのぶ対談
池間哲郎 一番大事なボランティアというのは、自分自身が一生懸命生きることだと思っています
臼井律郎 難民キャンプにいると、自分でこれが限界だと思っていたよりも、ずっと力が出るんです
アグネス・チャン アフリカに行って歌ったとき、倒れそうな子もみんな立ち上がって踊ってくれました。絶対忘れない
鍵山秀三郎 当たり前のことを普通にやる、私にはそれしか方法はなかった
佐治薫子 子どもたちをそっと後ろから押してください。押しすぎたら倒れます。引きすぎても倒れます。
マリア・コスタ 信仰心というのは愛、そして信頼の問題なんですよ
田坂広志 我々はいずれ死ぬ存在。そして、人生は1回しかない。その事実だけを伝えたかった。
日高義博 人との出会いって決定的ですね。その後の人生を決定すると思います。
萩野みちる 13、14年間で、2000頭、シロナガスクジラを識別できるようになりました
仲道郁代 クラシックの素晴らしさを、より多くの方に知っていただきたい
錦織 健 とりあえずでも、オペラに足を運んでくれる人が増えるといいですね
中村桂子 音楽のように、科学をみんなと一緒に楽しみたいというのが、私の気持ちです
三浦雄一郎 日本一にはなれなかったけど、世界一になっていいんじゃないか。
はな 仏像にドキドキするんです。本当にかっこよくて
関口房朗 ものづくり 人づくり 夢づくり やっぱり原点は人ですよ
あとがき
面白かった本まとめ(2010年下半期)
<今日の独り言>
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この「歌声は心をつなぐ(佐藤しのぶ)」という本は、声楽家でソプラノ歌手として有名な佐藤しのぶさんが人との出逢いと音楽の素晴らしさについて書いた本です。
具体的にはチェルノブイリ原発事故で被曝した子どもたちとのコンサート、バングラデシュの子どもたちへの子守唄、15人の有名人との対談集で構成されていて、人生を勇気づけ感動させる音楽、寄付やボランティア、その他よりよい人生のためのヒント等について書かれていて、とてもオススメです!
以下はこの本のポイント等です。
・ベラルーシのサナトリウムでのコンサートでは、「スパシーバ」ありがとうの言葉を何度も聞き、そしてまた私も何度口にしただろうか。記念の写真を撮ったり、握手をしたり、抱きしめあったりしたわずかな時間のあと、私たちはミンスクに戻るワゴン車に乗り込んだ。「このコンサートのことは、けっして忘れません」一人の女の子が駆け寄ってくる。「私も忘れない」返した言葉は声にならず、ただ手を振った。ワゴン車のドアが閉じ、車が動き出すと、数人の子が車を追いかけて走ってくる。本当は走ったりすることなど、困難なはずのその身体で。大きく手を振り、何かを叫んでいる。その声は聞き取れなかったが、その姿は十分過ぎるほど、心に焼き付いた。もともと私は、彼らに勇気を与えるためにここに来たはずだった。なのにその命の輝きに、逆に私が励まされていた。まるでとてもつもなく大きな花束を受け取ったようだった。そしてその花束は、当時の私には大き過ぎた。その花の美しさに応えられるだけの強さを、まだ持ち合わせていなかったのだ。子どもたちの姿が見えなくなると、こらえていた涙が一気にあふれてきた。自分の無力さとふがいなさにただ涙が止まらなかった。ショックだった。私は完全に打ち負かされてしまったのだ。涙は、子どもたちに対するものではなく、何か理不尽なものに対する怒りや悔しさのようなものだった。そして何より理不尽なことは、自分が無力だということだった。もう一度ここに来なければ。強く強くそう思った。でも、その一方で、いまここで見送ってくれた子どもたちのうち、どれだけの子が生きているのか分からないという恐怖もまた、ふとよぎった。改めて、アベマリアが頭の中でリフレインする。子どもたちが真剣な表情で聴き入っていた曲。私はアベマリアの奇跡を信じようと思った。
・1998年、Mさんの奥さんは不幸なことに事故に遭い、トラックに挟まれ、脊椎を複雑骨折。神経伝道路を断たれ、回復しても半身不随になるだろうと通告されたのだという。夫妻を襲った突然の不幸。Mさんは絶望に追い込まれ、しばらく茫然自失の日々が続いた。そしてある日、NHKの「課外授業 ようこそ先輩」をたまたま目にし、その番組内で私がアベマリアを歌うのを耳にしたそうだ。ところがこのアベマリアを聴いた瞬間、Mさんは体中が震え、突き上げるようなものが湧き出し、これ以上、医師任せ、スタッフ任せにはできないと思い立ったのだそうだ。その日からMさんは、ベッドに固定されている奥さんの手足、全身のマッサージを自ら始めたのだという。無理な振動を与えないよう、血行をうながし、日々マッサージを繰り返す。そしてそれから35日目のこと、奥様はなんと地に足をつき、自立できるようになったという。楽屋にいらした奥様も元気に歩いておられ、あなたのおかげですと、頭を下げてくださる。「そんな、お顔を上げてください。頭を下げたいのは、こちらのほうです」アベマリアを歌う機会に恵まれ、それが放送され、たまたまそれを聴いてくださった方が力を持ち、人生を良い方向に転換できたなどというのは、私こそお礼を言いたい話だった。私は自分の歌がそんな風に人に伝わり、影響力を持つとは思ってもみなかった。私は歌をとおして生きてきた。歌は自分を高めてくれるもの、成長させてくれるものだとは思っていたが、このように思いもかけない出会いもまた、もたらしてくれるのだ。音楽には、人を結びつける大きな力、奇跡を起こす大きな力があるのだとそのあと改めて感じたのだ。
・時に援助と言うと、豊かなものが恵まれないものに何かを与える、という姿勢になりがちだが、それでは根本の部分は何も解決されない。すべての子供たちが自分で考え、自立できるようサポートすることこそ、本当に大切なことなのだろう。
・「大きくなったらいつか皆も、お父さん、お母さんになるでしょう。そのとき、どうやったら赤ちゃんを上手に寝かしつけられるかな?じゃあこれから私が子守唄を歌うから、皆、順番に私のお膝に来てください」すると、まさに争奪戦。我先にと私に抱きつき、ここは自分の場所だと言わんばかりに膝に頭をのせては目を閉じる。これでは足が幾つあっても足りないほどだ。私は、たくさんの子どもを懐に抱く猫や犬の親のように、右の太もも、左の太もも、右腕、左腕とできる限りの場所で子どもたちを抱いていた。シーンと静まり返る部屋の中。カーテンが揺れ、風が入ってくる。目を閉じるだけでなく、本当に眠ってしまった子もいた。
・やがて、肩に、左ひざに、右胸に子どもたちのぬくもりが伝わり、涙が伝わってきた。ぬるい速度で肌に染み渡る涙の温度。気づけば、二人一組になって子守唄を歌う子たちも泣いている。自分の膝に友人を抱き、その肩や背中をさすって寝かしつける子も、また、友人の膝枕で眠る子も。同行してくれていたピアニストの森島英子さんにも、子どもたちはしがみついて涙していた。皆がいつしか全員泣いていた。皆の心が泣いていた・・・・・。やはり両親のことを思い出しているのだろうか。やはり、お父さんやお母さんのことが恋しくて仕方ないのだろう。貧しくて家を飛び出してきた子どもたちは、いつか自分が働いて一緒に暮らしたいと思っているのだろう。父母を守りたいと思っているのだろう。ある子は母親とうまく行かなかったかもしれない、ある子は父親に絶望したかもしれない。もしかしたら殴られたり虐待されたりしたかもしれない。それでも子どもたちは皆、両親を愛しているのだ。心からいまもなお、愛しているのだ。一方私は彼らに、あなたたちもまた愛されているんだよということを伝えなければと思っていた。もしかしたらお父さんやお母さんはあなたたちを叩いたかもしれない。様々な事情があってひどいことをしたかもしれない。でも私が娘を抱いて本当に幸福だと思ったように、あなたたちの両親もあなたが生まれたときにきっとそう思ったはず。事情がどうであれ、そもそもあなたたちは”望まれて”生まれてきたのだから。そのことを私は絶対に伝えなければと思っていた。
・世のお母さんたちも是非、自分の子どもには自分の声で歌を歌ってあげてほしいと思う。しっかりと抱かれ、母親の生の声で聴こえる歌ほど、子どもに安らぎを与えるものはないと思うからだ。実際に肌を通して伝わる声の振動。それは生身の人間にしかできないことだから。たとえばどれほど音痴でも、胎教でモーツァルトを聴かせるのが良いとどれだけ言われても、母親の生の声ほど子どもを癒すものはないはずだ。
・ここで子どもたちに知ってもらいたかったのは、オーケストラというのは、いろいろな楽器のハーモニーで創っていくものだということだった。言ってみればそれは、いま私たちが生きている社会とよく似ている。この世の中、一人として同じ人はいない。オーケストラも同じ。もちろん同じ楽器を担当する人は何人かいるけれど、それぞれがしっかりと自分の音を出し、それぞれが大切な役割を果たしている。この人は「ド」、この人は「ミ」、この人は「ソ」というように。そしてそれらが皆一緒になると、一人で演奏しているより壮大な音になっていく。重なり合う音は相乗効果で美しいハーモニーを奏で、一つの世界を創り出しているのだ。子どもたちを囲む世界も、ぜひそうであって欲しいと思った。皆、それぞれが大切な存在で、手と手をとって重なり合う音は、不協音ではなく、笑顔を結ぶハーモニーとなって欲しい。
・寄付などということは、ひっそりと静かに黙って行い、家族だけが分かってくれているぐらいが美しいと思っていた。しかし私たち大人にはやはり、”伝えていく”という義務がある。多くの人に”知ってもらう”ことも大切なことだと思うのだ。「子どもたちへの支援」などというと、「売名行為」などと悲しい声も聞こえてくる。でも大切な自分の人生。そんな嘘や虚飾にまみれて終わりたい人はいないはずだ。
・時に生きていくのは厳しいけれど、誰にも愛されずに死んでいく人はいないだろう。でも、確かに愛されていると感じたいときがある。その感触が人を強くするはずだ。私はいつもそう考える。なぜなら私もそうだから。厳しい境遇にいる子どもたちもちゃんと愛されている。目に見えなくても、幸せになることを応援してくれる人がいるのだということを知らせたい。それがこの本を出す意味であり、私が求めているものなのだ。
・最も大事なボランティアは何かということです。誰かのためとか人のためとか世の中のためとか、貧しい国の恵まれない子どもたちを助けるとか、そういう問題じゃないと思うんです。一番大事なボランティアというのは、自分自身が一生懸命生きることだと思っています。一生懸命に生きるからこそ人の命も尊いと思うんです。そして、真剣に生きるからこそ人の痛みや悲しみも胸に伝わってくると私は思っている。一番大事なボランティアはまず自分自身が一生懸命生きることです。
・子どもから学ぶことも多いし、本当に命って不思議だなと思います。いろんな国に行くと、母親が我が子のことを毎日心配している。生きるか死ぬか、食べ物があるかないか、追っかけられて殺されないかって。だから自分の子が、毎日息をして生きてくれているだけで感謝なんですよ。子どもを授かって、これは本当に奇跡だな、感謝しなきゃいけないなと謙虚になりました。世の中は、特に子育てというのは思い通りにはならなくて、またそこに責任も感じるんですけど、と同時にやはり謙虚に生きていかなきゃいけない、感謝の気持ちを込めて生きていかなきゃいけないな、と思うようになりました。
・掃除は何をやってもよろしいですけれども、特にトイレ掃除というのは人が一番嫌うことでございますし、また、身をこごめて一番低い姿勢でないとできない掃除でございますね。ですから、ここに一番大きな意味があると私は思ったわけでございます。人間は誰でも心地よい世界を作りたいわけですけども、私が両親から、「自分の心地よい世界を作っていくと、人間が卑しくなる」ということを絶えず言われました。絶えず自分で困難な世界に挑戦していったときに初めて人間は成長できるけども、居心地のよさを求めていくとかならず卑しくなる、と。私は少なくとも、卑しい人間にだけはなりたくないと思いました。これが掃除に取り組んで、しかも長く続けてきた最も大きな理由でございます。
・実は若いころは、人一倍、人に対する憤りを持っておりました。しかし、たとえば人に騙されますね。そのときに、その人間を恨んでいますと、夜寝ようとしても頭が眠らせてくれないですね。なかなか眠れない。体は疲れて目は眠いのに頭が眠らせてくれないという目にさんざん遭ったわけです。そのときに、人を恨んだり憎んだりするということは自分自身にマイナスなことばかりで一つもプラスにならない。じゃあ、どうしたらいいか。考えてみれば、そういうことが起きるたびに、そういう念が心の中に起きる。そのために何とつまらないことをやっているかということを、私は自身に言い聞かせて言い聞かせているうちに、そういうものがすうっと消せるようになったというだけでございますかね。今でも私はむっとします。だけどそれを引きずらないですね。普通の人は全部それにひもを付けて、ずるずる引きずって歩いて、それでエネルギーのほとんどを費やしてしまわれるんです。私は起きたところにそれを置いていっちゃうんですよ。ですから、時々思い出すことはあっても、それを綱を付けて引きずらないことが私の健康法でございます。
・先生は指導される時に、5つの言葉があるんですって?自分ではよく覚えていないんですけどあるようです。まずは「はい」と言う素直な心。それから「ありがとう」が2つ目。3つ目は「すみません。」それから4つ目が「私がやります。」お手伝いといいますか、積極的に人の役に立つ気持ちを持って欲しいと思っています。5つ目が「おかげさま」という感謝の気持ちですね。
・大切なことは彼女一人を教室から追い出すのではなく、共にいること。そしてまず相手をほめること、「あなたは賢い」という言葉なんです。
・「人は、かならず死ぬ」「人生は、一度しかない」「人は、いつ死ぬか分からない」。その真実だけを伝えてみたかったのです。その真実を正面から受け止めるとき、若い方々は、その瑞々しい心で、かならず何かを掴まれる。人間の心には不思議な生命力があると思うのですね。その3つの真実を見つめるとき、若い方々は、真摯に何かを考え始める。
・富は分かち合ってこそ増えるってことです。やっぱり資金的に苦しいところには、ある程度投資してあげるとか、そうやって助け合っていくということも、日本人同士として非常に大事なことだと思うんですね。お互いに相手の立場を尊重して、「あそこはもう小さいから、値段は安くやりゃええ」というやり方ではなくて、価値を認めてあげることが大事ではないですかね。そこから人を育てていくということがものすごく大事だと思います。すべてはやっぱり、どこまで追求しても企業というのは人ですよ。
<目次>
はじめに
歌声は心をつなぐ
第1章 ベラルーシの透明な夏
第2章 ドロップインセンター・バングラデシュ
第3章 67億人の中の一人
人のこころ 佐藤しのぶ対談
池間哲郎 一番大事なボランティアというのは、自分自身が一生懸命生きることだと思っています
臼井律郎 難民キャンプにいると、自分でこれが限界だと思っていたよりも、ずっと力が出るんです
アグネス・チャン アフリカに行って歌ったとき、倒れそうな子もみんな立ち上がって踊ってくれました。絶対忘れない
鍵山秀三郎 当たり前のことを普通にやる、私にはそれしか方法はなかった
佐治薫子 子どもたちをそっと後ろから押してください。押しすぎたら倒れます。引きすぎても倒れます。
マリア・コスタ 信仰心というのは愛、そして信頼の問題なんですよ
田坂広志 我々はいずれ死ぬ存在。そして、人生は1回しかない。その事実だけを伝えたかった。
日高義博 人との出会いって決定的ですね。その後の人生を決定すると思います。
萩野みちる 13、14年間で、2000頭、シロナガスクジラを識別できるようになりました
仲道郁代 クラシックの素晴らしさを、より多くの方に知っていただきたい
錦織 健 とりあえずでも、オペラに足を運んでくれる人が増えるといいですね
中村桂子 音楽のように、科学をみんなと一緒に楽しみたいというのが、私の気持ちです
三浦雄一郎 日本一にはなれなかったけど、世界一になっていいんじゃないか。
はな 仏像にドキドキするんです。本当にかっこよくて
関口房朗 ものづくり 人づくり 夢づくり やっぱり原点は人ですよ
あとがき
面白かった本まとめ(2010年下半期)
<今日の独り言>
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