<金曜は本の紹介>
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以前このブログで「マネーの正体」という本を紹介しましたが、その後の著書がこの「マネーと経済 これからの5年」という本となります。
本書では、まず日本国債の発行や金利・価格などの仕組みについて説明があり、そしてその国債の増加原因、ファイナンスの移り変わりについて説明があります。
90年代までは経済対策としての公共投資、00年代からは高齢化で増えた社会保障費が国債の増加原因となっているんですね。
社会保障費の増加は、団塊の世代の人々が生涯を終える2035年ころまで必然的に続くようで、この人口構成ではこれから結構問題だと思います。
そして1998年までは5000万世帯の家計の資金余剰(年間平均40兆円)が銀行預金・生命保険・年金基金の増加につながり、この平均40兆円で国債発行等がファイナンスされていたようです。
しかし1998年以降は世帯の所得が減ったことと高齢化により世帯貯蓄の増加は半分以下に減ったため国債発行等にファイナンスされなくなり、その代わりに法人部門が設備投資を減らして資金余剰に変わったため、その法人の資金余剰が国債をファイナンスしているようです。
ところが、2010年代は国民(世帯+企業)の貯蓄増だけでは、40兆~50兆円規模の新規国債が引き受けきれなくなり、対外的な経常収支の黒字も10兆円減ったため、1年に20兆円規模で日銀がマネーを増発する手段で引き受けざるを得なくなったようです。
これがいわゆるアベノミクスの日銀による異次元緩和ですね。
また、ドル債を買うことによる円安政策は、輸出企業には大きな利益を生み出しますが、実は企業数で約80%を占める内需企業にとっては、輸入代金の増加により利益が減るため、日本全体としては問題のようです。
そもそも我々一般庶民にとっては、円安による物価高は堪りませんね。
このような状況で、日本経済を良くするにはGDPを成長させることが重要で、そのためには技術革新による生産性向上と新鋭の設備投資による成長戦略による生産性向上が必要となりますが、それを促すために異次元の投資減税を実施するというのは良い提言と思いましたね。
また、土地も減価償却できるようにし、個人には更なる住宅ローン減税をすると更にGDPが上がると思いました。
とにかく、働く人6000万人の生産性を高くし、その結果企業収益が増えて賃金が上がり、賃金が上がった結果、消費や貯蓄が増えるという正のスパイラルにすべきだと思いましたね。
「マネーと経済 これからの5年(吉田繁治)」という本は、国債の現状や日本を良くするための提言など日本経済のことがよく分かりとてもオススメです!
今後の投資の参考にもなると思います。
以下はこの本のポイント等です。
・2009年度以降、政府の一般会計から支出する社会保障関係費が17兆円付近へと、その前より6兆円から8兆円も増えています。原因は、2008年から団塊の世代が次々に60歳を超えてきたことです。定年の60歳を超えると、ほぼ30%の人が退職します。70%は再雇用されますが、平均賃金は60歳以前の半分に下がります。65歳になると、会社役員や自営業を除くおよそ全員が退職し、夫婦二人の世帯年収が250万円付近の年金生活に入ります。退職金を受け取ったあとの65歳以上の世帯では、金融資産の70%を占める預貯金は夫婦で2200万円平均で、年間60万円を取り崩して生活費に充てます。世帯主が65歳になって、完全退職し年金を受け取り始める世帯は2013年以降の5年間、毎年100万世帯も増えます。このため国全体の預貯金(現金性の金融資産)は増えなくなります。以上のことから、今後は世帯の預貯金の増加が、毎年40兆円は増える国債のファイナンスの原資になることはないのです。世帯の預貯金の増加が、増発国債のファイナンスの原資になっていたのは、15年前の90年代までです。00年代は設備投資を抑えた企業の預金増加(平均20兆円)が世帯の貯蓄だけでは不足する国債をファイナンスしていきました。10年代の、特に2012年からは預貯金や生命保険の増加をあまり期待できません。このため、増加国債のファイナンスの主力は日銀の引き受けに向かいます。金額ではほぼ20兆円が国民の貯蓄増では不足するため、日銀がマネーを増発して、印刷マネーでファイナンスすることにならざるを得ないのです。一方で、社会保障費でもっとも大きな年金の支給が増えていきます。また60歳以上になると、医療費が、病院にかからない人も含めた平均で一人当たり60万円/年に増えます。このため2030年ころまで1年に3兆円の社会保障費が増え続けます。
・90年からの資産バブル崩壊(土地で1500兆円、株で200兆円)から来た不況対策として、政府が毎年平均40兆円の公共事業を行った。国債残は、400兆円増えた。00年代は、社会保障費が増加した。小泉改革で公共事業を減らした代わりに、地方交付税が増えた。このため一般会計の国債発行は、毎年30兆~40兆円くらいの平均で増えてきた。2008年に60歳を超え、2013年には65歳を超えた団塊の世代に対する社会保障費給付と、70歳胃序の世代の介護費が増える。2010年代は財政赤字の主因が社会保障費になる。00年代の小泉改革で10~15兆円減らし、政府支出を一段下げた公共投資のようには、社会保障は減らせない。むしろ高齢化要因で、109兆円(13年3月期)の支出が毎年3兆円は増える。保険料収入は60兆円に過ぎず、12年度でも49兆円は政府負担になっている。この政府負担は①年金、医療、介護費への給付を減らすか、②増税するかを行わず現在の傾向のままなら、財政赤字が毎年3兆円は増える要因になる。政府が増税と社会保障費の削減を行おうとしても不人気な政策なので、政党がそれを政策化することは難しい。これも対策不実行と同じになる。
・企業の営業キャッシュフローが銀行への預金の増加になった額(20~30兆円)に相当する分も、政府は国債を銀行や生命保険に売って使ってきました。00年代に設備投資を抑えてきた結果、企業の現預金の残高は225兆円に増えています。借入金は326兆円です。なお企業の海外直接投資は89兆円です。海外への設備投資は増やしても、国内投資は抑えてきたのです。企業が設備投資を設備の劣化分(減価償却費)以内に抑え続けてきたことが、我が国がこの20年余の経済成長(GDPの増加率)が低い最大の原因です。GDPは民間企業の設備投資が減価償却費を上回るようでないと成長しないからです。今後、GDPの成長戦略をとるとき、もっとも肝心なことがこれです。経産省が実施した生産用の機械・設備の調査では工場が使う機械のうち、導入後20年以上が29%、15年以上が41%、10年以上が57%と過半になっていると知り、驚愕します。わが国の工場や企業では新しい設備がなく、機械が古ぼけています。これはかつての英国や米国のような感じです。企業が設備投資を抑えた1998年からの15年間で、新しい生産性の高い設備・機械があるのは中国や韓国になってしまったのです。設備を最新のものに更新し増やさないと、日本の生産力は落ちていきます。輸出での中国、韓国、台湾との競争負けも起こってしまいます。これこそが日本経済の将来のために、もっとも憂うべきことです。どうすればいいのか?企業が濃くないに設備投資を大きく増やすことを誘導する①投資減税、②法人税減税、③官の規制の撤廃を行うことです。企業は国内投資が海外に比べ、総合的に考えて有利になれば、国内に投資します。
・数千億円や数兆円単位という巨大な利益を狙う米国系の大手ヘッジファンドの中に、日本国債先物の大量売りや空売り、プット・オプションを仕掛けることをもくろんでいるところが出てきたことは知っています。ヘッジファンドに国債の先物売り、売りオプション、あるいは空売りによる巨大利益の材料を与えることは本書の目的ではない。国民の過半の人に悲惨な生活を強いて、世帯の金融資産を半分に減らす政府財政の破産を防ぐことが本書の目的です。国債や株の相場が下がったときに利益が出る先物売りは3月、6月、9月、12月という3ヶ月後の限月(契約日)までに相場が下がれば、その下げの分が利益になります。売りオプションや空売りも同じです。もし英米系ヘッジファンドが日本国債の先物売り・売りオプション・空売りを仕掛けて、実際に相場が下がり、100兆円の利益が出たと仮定すると、100兆円の利益に見合う損失は売りの相手になった日本の金融機関が被ります。1990年からの日本の株価のバブル崩壊のとき、米国系投資銀行とヘッジファンドが仕掛け、巨大利益をあげたことと同じです。株の下落で損をしたのは日本人でした。
・財務省は野田内閣のとき、2011年10月31日に7兆円の大きなドル買い・円売り介入を実行しています。2011年10月中旬の1ドル75円という史上もっとも高い円高のため、輸出する企業は悲鳴をあげていたからです。7兆円の大規模介入で5時間後に円は4円下落し、1ドルが79円になりました。その後1ドル75円は2度となかった。高くても1ドル78円でした。平均は1ドル80円です。以上の経験から、「1円の円安には1.5兆円のドル買い・円売り介入」と財務省は知っているはずです。われわれもこれを記憶しておくと、円・ドル相場の動きから資金の動きを推量できます。
・企業や世帯への貸し出しには審査や書類作成の経費が1%はかかります。銀行の営業経費は資金額の約1%です。長期貸し付けなら、回収のリスクを融資額の1%は見なければなりません。合わせた業務経費は2%になるでしょう。このため預金を預かって、あるいは保険金を預かって融資するという金融機関の本来の活動は、融資金利が1.3%では「利益採算」にのらないのです。信用度の高い上場企業は1.3%以下の金利を要求し、融資競争になります。一方、高い金利の融資を受け入れる企業は危ない。このため00年代の金融機関は、赤字になる貸し出しの増加は図らなかったのです。1%台の貸し付け金利では企業融資の拡大ができないという問題を、今後も日本は抱え続けます。金利が2%台後半から3%台でなければ融資採算が赤字になり、金融機関側から見た貸し出しの推進が進まないからです。
・1%台になっている低金利にはディレンマがあります。金利は低い。つまり資金のコストは低い。しかし貸して1%の回収リスクを見込めば、貸す側が赤字になるということです。金利が低すぎて銀行の業務費用(1%)と回収リスク(1%)をはるかに下回ってしまうのです。このため金融機関は、融資するより金利はゼロ%台や1%台と低くても確実な利回りがある国債を買って運用しました。これも仕方のないことです。銀行は合理的に行動しています。ただし銀行が融資を増やし、それを企業が借りて、設備投資を増やすようにならないと、GDPは絶対に成長はしません。
・長期国債の金利が1.5%や0.8%と低いとはいえ、調達コストである預金金利はほぼゼロなので利ざやの利益は大きい。このため金融機関は業務経費がほとんどかからず、自己資本を減らす貸倒引当金の積み立てもいらない安全資産である国債の買いと保有に奔走しました。リスクのある株を売り続けて、利益が出ず回収リスクも高い企業融資は総額で減らし続けたのです。政府が大量に国債を発行し続けても日銀が金利を下げる誘導したので、金融機関は国債を競って買っていたのです。政府が大きな額の国債を発行できたのは、一般に言われるように世帯貯蓄が多いからではありません。その証拠に世帯は買おうと思えばいくらでも買える国債を買っていず、預金しています。国債を買ったのは金融機関です。買った理由は国債がもっとも利益があがると判断したからです。財務省が国債買いを促したことは事実です。しかし金融機関はいつでも自己判断で売ることができます。5大都銀グループはすでに2010年から国債を売越し、その保有高は13年4月だけでも11.7兆円減って96兆円になっています。そして2012年4月、5月には金融機関は国債を売越しています。そこで20兆円買い越したのが日銀です。
・地銀の最大手横浜銀行は、保有する5年以上の中長期債を「すべて」売ったと寺澤頭取が言っています。金利上昇で下落リスクが大きいのは、中長期債の満期5年以上のものだからです。寺澤頭取は財務省で理財局の局長だった人です。金融も財務省の護送船団ではなくなっています。これには心底、驚きました。国債の発行責任者だった元財務省官僚が先駆けて国債を売ったからです。これを裏書きするように理財局の現役担当は「国債発行は綱渡り」と述べます。10年前だったら考えられないことが、国債市場で起こっています。三菱UFJ、みずほ、三井住友の三大メガバングは13年の4月と5月に20兆円もの国債を売って、保有残を90兆円に減らしています。2013年は銀行が大量に国債を売る初年度になるでしょう。
・金融機関が日銀の当座預金にお金を預けておくと、08年からの特例の「補完当座預金制度」として金利が0.1%つきます。この特例金利の制度は経済マスコミの多くには知られていません。日銀の当座預金が83兆円(13年6月)と異常に大きく「ぶた積み」されている理由は当座預金の0.1%の金利があるからです。なぜ日銀はこれをやめないのか。この特別制度は、日銀が国債を買って金融機関に流動性を与えながらも、当座預金に残せば金利をつけるということでした。リーマンショック後の緊急対策だった制度をその後5年も続けているのは、金融機関から国債を低い金利でスムーズに買うためです。短期債を売った金融機関はあたかも3ヶ月国債を持っているのと同じ金利が得られるからです。この制度は実体経済にマネー供給を行うためには廃止すべきものです。日銀当座の準備預金は83兆円もある必要はなく、本来は5兆円規模でいいはずです。事実、1990年代の日銀当座預金が約5兆円だったのです。0.1%付利の制度を続ければ、日銀の国債買いによって増発されたマネーのうち78兆円が日銀に準備預金として留まるという金融引き締めになってしまいます。日銀が預金準備率を銀行預金の10%に引き上げたのと同じ残高だからです。78兆円は政府の一般会計の80%にも当たる巨額なマネーです。
・まず日銀が異次元緩和を推進し、長期債を大量に買い続けたときに、国債市場で起こる変化です。日銀が長期債を大量に買うことによって価格が上がり、その利回りが1%を割るようになると、長期安定保有者(生命保険184兆円、公的年金68兆円、農林系と共済保険68兆円、地銀・第二地銀・信金36兆円:合計356兆円)にとって、長期保有が採算上、赤字になるという変化が起こります。赤字の資金運用はできない。となると、株式市場から株を売って退出を続けたように、国債市場から退出するか、あるいは少数が国債先物やオプションの売買で価格差から生じるキャピタル・ゲインを狙う短期所有者に転じるかです。金利が低くなった長期債の長期保有者が大きく減ってしまい、長期保有者が持つ長期債356兆円が売られて流動化することに向かいます。これは国債の金利高騰につながっていきます。以上はどうやっても避けねばなりません。このためには異次元緩和は妥当な金額、言い換えれば70兆円ではなく、年間20兆円の買いに戻し、長期金利を1~2%で維持せねばならないということです。
・中国のGDPの成長率の一段の低下は、1年や2年の短期ではすみません。どの国でもGDPは生産性の面でいえば、「一人当たり全要素生産性×労働人口」です。全要素生産性は最大でも1年に2~3%しか上昇しません。中国の生産年齢人口(15歳以上65歳未満)は、2015年の10億人が頂点です。1980年から2015年までは合計4億人(毎年1150万人)も増え、多くは内陸部から出稼ぎ工員の増加となってGDPの急増を支えてきました。これが10億人を頂点に2020年は9億9000万人、30年9億7000万人、40年9億人と減っていき、急速な高齢化が生じます。中国がGDPで2桁付近の高い成長をする時代は、ほぼ2013年で終わりました。これは断言です。25歳以下の年齢が大きく減って、65歳以上が増えるからです。また中国の特殊事情を言えば、完全退職年齢の平均が53歳(02年~07年平均)と極めて低いことです。比較すれば、インドネシア55歳、インド59歳、欧州61歳、米国64歳、日本68歳ですう。これも中国の高齢化を他国より10年くらい早める要素です。
・日本の輸出額は、08年の93兆円から13年3月時点で73兆円に減っています。逆に増えたのが輸入です。主因は資源・エネルギー価格の高騰です。このため、ついに日本は2011年から貿易赤字になっています(11年7兆円:12年11兆円)。対外純投資(296兆円:12年末)から生じる所得、配当、金利の黒字が15兆円(2013年3月:総平均利回りは5%)あるので、経常収支としては4兆円の黒字です。しかし貿易では11兆円の赤字です。20%の円安なら、金額が増えてきた輸入(名目79兆円:2012年暦年)が95兆円にふくらみます。円安では、わが国の貿易が黒字にはらないという構造変化が起こっています。日本は貿易黒字大国という通説は変更せねばならないでしょう。
・経済学でいう全要素生産性は企業でいえば一人当たりの生産性です。企業の人的生産性を上げるには、5000万人を雇用する260万社の、新しい設備投資額が減価償却費を上回ることが必要です。ビンテージ化し陳腐化した設備・機械での生産性は低いままだからです。老朽化した設備のままなら家電で起こったように、韓国や中国のもっとも新しい機械を使う新鋭工場の高い生産性に負けてしまいます。以上から政府はわが国経済の成長のために、2000年代に70兆円台、60兆円台へと減っている企業の国内設備投資(13年3月は61兆円)を80兆円以上に向かい大きく増やすことを、他の何より優先して支援する政策をとらねばなりません。
・国内からの売買が少ないため、日本の株式市場は海外投資家が価格を支配できるマーケットです。外国人の売買が1回転する平均期間を計算すると、四半期の決算に符号する13週です。8週から10週の期間は買い越して株価を上げ(PERを18倍付近まで)、次の2週から4週は売って、利益を確定するのが共通の行動です。今後も繰り返すお定まりのこのパターンは株式投資をしている人にとっては記憶に値するでしょう。
・20%円が下がることは、国富の観点では、日本の富の20%の減少です。円預金で考えれば分かるでしょう。円そのものは名目金額は同じです。しかし国際的な基準通貨では円の価値が20%下がり、購買力が20%減っています。ドル預金なら、20%も円換算の預金が増えたことになります。米国はわが国と対照的に、恒常的な経常収支の赤字国です。このためドル安は米国経済に対し、物価を上げるという悪い影響を及ぼします。米国では総体的に言ってドル安を好みません。日本では、為替差益で利益が増える輸出大手企業をマスコミが大きく取り上げるため「円安=国益」という錯覚があります。しかし国全体で言えば、本当は「円高が国益」です。自国通貨がとめどもなく安くなったときを想定すれば、通貨の弱さがもたらす負担が痛みとなって分かります。日本国全体の金融資産と所得にとって、自国通貨は高いほうがいいからです。
・円安が原因になる物価上昇では、海外への支払いも増加するコスト・プッシュ型です。このため企業数で約80%(200万社)の、内需企業の収益の増加にはなりません。物価上昇分の支払い増は、世帯が負担するしかない。そしてそれは輸入代金の増加として、海外に13兆円が流出します。内需企業も利益は増えません。230万社ある内需企業の利益が減るため、80%にあたる4000万世帯の将来の賃金上昇もないのです。
・政府・日銀は異次元緩和を大きく実行すればするほど、やめる時期が極めて難しくなります。実際に金利上昇という副作用が生じる前に縮小せねばならない。1ヶ月に10兆円枠としている国債買い切りを8兆円、6兆円、4兆円、3兆円、2兆円と減らし、かつての年間20兆円枠に戻すことです。同時に異次元の投資減税と住宅ローン減税を打ち出し、減ってきた民間投資と住宅購入を増やすための強力な支援策を打ち出すべきです。現在のような円安策で外需増をあてにした輸出振興は、けっしてGDP成長ではない。本来あるべきなのは、内需型での長期成長です。省庁は、従来から自分たちが関与できる公共投資には熱心でした。200兆円の国土強靱化政策を自民党は持っています。しかしすでに公共投資という方法では、今後のGDPの波及的な成長はありません。この政策は10年で10兆円、合計100兆円の最低限必要な規模に縮小せねばならない。代わりに政府は、企業と世帯が豊かになるための支援策にマネーを使うべきです。260万社の民間企業が設備投資を増やして、5000万世帯が住宅ローン減税によって住宅を買い、資産で豊かになる経済を目指さねばならない。世帯を豊かにするための、政府支援政策でなければならない。GDPの成長とは働く人6000万人の生産性が高くなり、その結果、企業収益が増えて賃金が上がり、賃金が上がった結果、消費や貯蓄が増えることでなければならない。生産性を上げるには、企業による新鋭の設備投資と技術革新が必要です。ところが日本はほぼ20年、設備投資を減らし続けています。民間の設備投資を増やすしか生産性を上げる方法はない。そしてこの内需型の実質GDPの成長こそが、政府の財政破産も防ぐ方法になります。
<目次>
はじめに
第1章 GDPの2.4倍、1121兆円の政府負債、そして国債の発行と需要
(1)国債の発行、および金利と価格
にもかかわらず、平穏に見える債券市場
(2)国債市場での金利の調整は価格で行われる
期待金利と国債価格
(3)超低金利の国債は、下落リスクが大きくなった
国債の残高の大きさと、期待金利の上昇の問題
異次元緩和は、2013年の秋か冬までに、大幅な修正が必要
(4)2000年代以降の国債の増加原因は社会保障費
政府債務の増加の主因は90年代までは公共投資だったが、00年代から社会保障費になった
政府支出増加の主因は団塊世代1000万人(5年間)の社会保障費の増加
(5)大量の国債のファイナンスの構造
00年以降、非金融法人の資金余剰が国債の50%以上をファイナンスしている
企業の新しい設備投資がないと、実質GDPは(絶対に)成長には向かわない
第2章 わが国の資金循環、つまりお金の流れの全容
(1)2013年3月までのわが国資金循環
純資産と純負債のまとめ
(2)2012年11月からの政府のドル買い・円売り
推計30兆円の米国財政支援のドル債買いと、円安のための円売り
1円の円安に必要な「ドル買い・円売り」は1.5兆円
円安がアベノミクスの第1弾だった
将来予想純益の倍率で決まる株価
第3章 国債は、誰が、どう買ってきたのか?
(1)国債の保有グループ別主体の国債保有の傾向とファイナンスの資金源
長期債の鍵は生命保険の運用
(2)実証 2012年後半から日本国債の買い受けと保有の構造に急に生じてきた変化
2010年代からの国債のファイナンスにおける重要な変化
2010年代 まだ潜在的であるが重大な変化が起こる10年
(3)2010年代 社会保障費の保険料での不足49兆円が増える
必要な社会保障財源と言われるものがこれ
ここまでの短いレビュー
(4)2010年代 日銀の国債買い切りがないと、国債がファイナンスできないという問題
第4章 政府の国債と、中央銀行の通貨の本質
(1)改めて言いますが、国債は将来世代が負担するべき負債
国債の残高を増やせる政府の財政信用
国の財政信用における、経常収支の黒字という要素
(2)不換紙幣も国債と同じように政府の国民に対する負債
政府紙幣とは
第5章 インフレ・ターゲット2%の政策
(1)なぜ「日銀による異次元緩和」になったのか
デフレ論争でのマネタリズム
(2)科学ではないのが、経済学の法則
(3)昨年比20%の円安が原因の悪い物価上昇になる
(4)阿倍政権はマネー・サプライの6%増を日銀に迫った
(5)日本経済は2つの実験を2013年と14年に行うことになった
実験1はマネー・サプライの70兆円増加があるかどうか
実験2は増えたマネー・サプライが商品購入の増加に向かい、物価を2%上げるかどうか
具体数字でマネー・サプライの1年6%増を見れば、非現実な感じがする
第6章 異次元緩和の実行がもたらした国債市場の不安定と、混乱の意味を解く
(1)異次元緩和の実行による国債市場の混乱
最初は2013年4月5日だった
知られていない国債市場 国債の価格と日本の金利を決める市場
(2)金融機関を8類型に分けた国債保有とその特性
(3)国債はかつて金融機関に大きな利益をもたらしてきた
150兆円(30%)も減った企業融資
企業融資を減らし、増えた預金で国債買いをするのが金融機関にとって合理的な行動だった
結論(1)有利だった国債買い
結論(2)2013年からの問題
(4)4月、5月の国債市場の一見、異常に思えた動きとその意味
ファンド・マネジャーの13年5月の心理
もっとも肝心なことは、ここ
インフレとは
第7章 これから2年、異次元緩和のなかで国債市場はどう向かうか
(1)異次元緩和実行後の、国債市場の展開予想
日銀が長期債を買い、長期金利が下がるのが異次元緩和
日銀の買いより金融機関の売りが超過し、日銀の狙いと逆に上がった国債金利が意味する重大なこと
異次元緩和の中での長期の安定保有者の変化の可能性(本当は必然)
(2)国債の利回りと保有者の立証
期限別国債の残高とイールドカーブのフラット化の危険
(3)異次元緩和で変化してしまう国債市場
インフレを起こすか、あるいは緊縮策をとって財政の再建
(4)いずれは必ず行わねばならない出口政策の問題
出口政策の前提
必ず実行せねばならなくなる出口政策
(5)財政信用とは何か
第8章 財政破産を避けるために必要な日銀の政策修正
(1)GDPとは何か
必要な260万社の新規設備投資
(2)異次元緩和によるインフレ目標2%がもたらす問題
(3)政府による円安という政策の利益と損失
中国の貿易収支の黒字減少とドル国債の売り
通貨の増発の本質と日本の米国債買い30兆円
(4)物価の期待上昇と期待長期金利の上昇は、危険な水域に向かう
(5)2つのシナリオ
(6)長期国債の短期化と短期国債の金利高騰 イールドカーブのフラット化
(7)2016年までの国の一般会計の赤字の計算
第9章 異次元緩和の修正と、本筋の成長政策
(1)異次元緩和に必要な修正
(2)成長戦略の本筋は、民間設備投資と住宅の増加を果たす異次元の投資減税
おわりに
面白かった本まとめ(2013年下半期)
<今日の独り言>
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以前このブログで「マネーの正体」という本を紹介しましたが、その後の著書がこの「マネーと経済 これからの5年」という本となります。
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90年代までは経済対策としての公共投資、00年代からは高齢化で増えた社会保障費が国債の増加原因となっているんですね。
社会保障費の増加は、団塊の世代の人々が生涯を終える2035年ころまで必然的に続くようで、この人口構成ではこれから結構問題だと思います。
そして1998年までは5000万世帯の家計の資金余剰(年間平均40兆円)が銀行預金・生命保険・年金基金の増加につながり、この平均40兆円で国債発行等がファイナンスされていたようです。
しかし1998年以降は世帯の所得が減ったことと高齢化により世帯貯蓄の増加は半分以下に減ったため国債発行等にファイナンスされなくなり、その代わりに法人部門が設備投資を減らして資金余剰に変わったため、その法人の資金余剰が国債をファイナンスしているようです。
ところが、2010年代は国民(世帯+企業)の貯蓄増だけでは、40兆~50兆円規模の新規国債が引き受けきれなくなり、対外的な経常収支の黒字も10兆円減ったため、1年に20兆円規模で日銀がマネーを増発する手段で引き受けざるを得なくなったようです。
これがいわゆるアベノミクスの日銀による異次元緩和ですね。
また、ドル債を買うことによる円安政策は、輸出企業には大きな利益を生み出しますが、実は企業数で約80%を占める内需企業にとっては、輸入代金の増加により利益が減るため、日本全体としては問題のようです。
そもそも我々一般庶民にとっては、円安による物価高は堪りませんね。
このような状況で、日本経済を良くするにはGDPを成長させることが重要で、そのためには技術革新による生産性向上と新鋭の設備投資による成長戦略による生産性向上が必要となりますが、それを促すために異次元の投資減税を実施するというのは良い提言と思いましたね。
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今後の投資の参考にもなると思います。
以下はこの本のポイント等です。
・2009年度以降、政府の一般会計から支出する社会保障関係費が17兆円付近へと、その前より6兆円から8兆円も増えています。原因は、2008年から団塊の世代が次々に60歳を超えてきたことです。定年の60歳を超えると、ほぼ30%の人が退職します。70%は再雇用されますが、平均賃金は60歳以前の半分に下がります。65歳になると、会社役員や自営業を除くおよそ全員が退職し、夫婦二人の世帯年収が250万円付近の年金生活に入ります。退職金を受け取ったあとの65歳以上の世帯では、金融資産の70%を占める預貯金は夫婦で2200万円平均で、年間60万円を取り崩して生活費に充てます。世帯主が65歳になって、完全退職し年金を受け取り始める世帯は2013年以降の5年間、毎年100万世帯も増えます。このため国全体の預貯金(現金性の金融資産)は増えなくなります。以上のことから、今後は世帯の預貯金の増加が、毎年40兆円は増える国債のファイナンスの原資になることはないのです。世帯の預貯金の増加が、増発国債のファイナンスの原資になっていたのは、15年前の90年代までです。00年代は設備投資を抑えた企業の預金増加(平均20兆円)が世帯の貯蓄だけでは不足する国債をファイナンスしていきました。10年代の、特に2012年からは預貯金や生命保険の増加をあまり期待できません。このため、増加国債のファイナンスの主力は日銀の引き受けに向かいます。金額ではほぼ20兆円が国民の貯蓄増では不足するため、日銀がマネーを増発して、印刷マネーでファイナンスすることにならざるを得ないのです。一方で、社会保障費でもっとも大きな年金の支給が増えていきます。また60歳以上になると、医療費が、病院にかからない人も含めた平均で一人当たり60万円/年に増えます。このため2030年ころまで1年に3兆円の社会保障費が増え続けます。
・90年からの資産バブル崩壊(土地で1500兆円、株で200兆円)から来た不況対策として、政府が毎年平均40兆円の公共事業を行った。国債残は、400兆円増えた。00年代は、社会保障費が増加した。小泉改革で公共事業を減らした代わりに、地方交付税が増えた。このため一般会計の国債発行は、毎年30兆~40兆円くらいの平均で増えてきた。2008年に60歳を超え、2013年には65歳を超えた団塊の世代に対する社会保障費給付と、70歳胃序の世代の介護費が増える。2010年代は財政赤字の主因が社会保障費になる。00年代の小泉改革で10~15兆円減らし、政府支出を一段下げた公共投資のようには、社会保障は減らせない。むしろ高齢化要因で、109兆円(13年3月期)の支出が毎年3兆円は増える。保険料収入は60兆円に過ぎず、12年度でも49兆円は政府負担になっている。この政府負担は①年金、医療、介護費への給付を減らすか、②増税するかを行わず現在の傾向のままなら、財政赤字が毎年3兆円は増える要因になる。政府が増税と社会保障費の削減を行おうとしても不人気な政策なので、政党がそれを政策化することは難しい。これも対策不実行と同じになる。
・企業の営業キャッシュフローが銀行への預金の増加になった額(20~30兆円)に相当する分も、政府は国債を銀行や生命保険に売って使ってきました。00年代に設備投資を抑えてきた結果、企業の現預金の残高は225兆円に増えています。借入金は326兆円です。なお企業の海外直接投資は89兆円です。海外への設備投資は増やしても、国内投資は抑えてきたのです。企業が設備投資を設備の劣化分(減価償却費)以内に抑え続けてきたことが、我が国がこの20年余の経済成長(GDPの増加率)が低い最大の原因です。GDPは民間企業の設備投資が減価償却費を上回るようでないと成長しないからです。今後、GDPの成長戦略をとるとき、もっとも肝心なことがこれです。経産省が実施した生産用の機械・設備の調査では工場が使う機械のうち、導入後20年以上が29%、15年以上が41%、10年以上が57%と過半になっていると知り、驚愕します。わが国の工場や企業では新しい設備がなく、機械が古ぼけています。これはかつての英国や米国のような感じです。企業が設備投資を抑えた1998年からの15年間で、新しい生産性の高い設備・機械があるのは中国や韓国になってしまったのです。設備を最新のものに更新し増やさないと、日本の生産力は落ちていきます。輸出での中国、韓国、台湾との競争負けも起こってしまいます。これこそが日本経済の将来のために、もっとも憂うべきことです。どうすればいいのか?企業が濃くないに設備投資を大きく増やすことを誘導する①投資減税、②法人税減税、③官の規制の撤廃を行うことです。企業は国内投資が海外に比べ、総合的に考えて有利になれば、国内に投資します。
・数千億円や数兆円単位という巨大な利益を狙う米国系の大手ヘッジファンドの中に、日本国債先物の大量売りや空売り、プット・オプションを仕掛けることをもくろんでいるところが出てきたことは知っています。ヘッジファンドに国債の先物売り、売りオプション、あるいは空売りによる巨大利益の材料を与えることは本書の目的ではない。国民の過半の人に悲惨な生活を強いて、世帯の金融資産を半分に減らす政府財政の破産を防ぐことが本書の目的です。国債や株の相場が下がったときに利益が出る先物売りは3月、6月、9月、12月という3ヶ月後の限月(契約日)までに相場が下がれば、その下げの分が利益になります。売りオプションや空売りも同じです。もし英米系ヘッジファンドが日本国債の先物売り・売りオプション・空売りを仕掛けて、実際に相場が下がり、100兆円の利益が出たと仮定すると、100兆円の利益に見合う損失は売りの相手になった日本の金融機関が被ります。1990年からの日本の株価のバブル崩壊のとき、米国系投資銀行とヘッジファンドが仕掛け、巨大利益をあげたことと同じです。株の下落で損をしたのは日本人でした。
・財務省は野田内閣のとき、2011年10月31日に7兆円の大きなドル買い・円売り介入を実行しています。2011年10月中旬の1ドル75円という史上もっとも高い円高のため、輸出する企業は悲鳴をあげていたからです。7兆円の大規模介入で5時間後に円は4円下落し、1ドルが79円になりました。その後1ドル75円は2度となかった。高くても1ドル78円でした。平均は1ドル80円です。以上の経験から、「1円の円安には1.5兆円のドル買い・円売り介入」と財務省は知っているはずです。われわれもこれを記憶しておくと、円・ドル相場の動きから資金の動きを推量できます。
・企業や世帯への貸し出しには審査や書類作成の経費が1%はかかります。銀行の営業経費は資金額の約1%です。長期貸し付けなら、回収のリスクを融資額の1%は見なければなりません。合わせた業務経費は2%になるでしょう。このため預金を預かって、あるいは保険金を預かって融資するという金融機関の本来の活動は、融資金利が1.3%では「利益採算」にのらないのです。信用度の高い上場企業は1.3%以下の金利を要求し、融資競争になります。一方、高い金利の融資を受け入れる企業は危ない。このため00年代の金融機関は、赤字になる貸し出しの増加は図らなかったのです。1%台の貸し付け金利では企業融資の拡大ができないという問題を、今後も日本は抱え続けます。金利が2%台後半から3%台でなければ融資採算が赤字になり、金融機関側から見た貸し出しの推進が進まないからです。
・1%台になっている低金利にはディレンマがあります。金利は低い。つまり資金のコストは低い。しかし貸して1%の回収リスクを見込めば、貸す側が赤字になるということです。金利が低すぎて銀行の業務費用(1%)と回収リスク(1%)をはるかに下回ってしまうのです。このため金融機関は、融資するより金利はゼロ%台や1%台と低くても確実な利回りがある国債を買って運用しました。これも仕方のないことです。銀行は合理的に行動しています。ただし銀行が融資を増やし、それを企業が借りて、設備投資を増やすようにならないと、GDPは絶対に成長はしません。
・長期国債の金利が1.5%や0.8%と低いとはいえ、調達コストである預金金利はほぼゼロなので利ざやの利益は大きい。このため金融機関は業務経費がほとんどかからず、自己資本を減らす貸倒引当金の積み立てもいらない安全資産である国債の買いと保有に奔走しました。リスクのある株を売り続けて、利益が出ず回収リスクも高い企業融資は総額で減らし続けたのです。政府が大量に国債を発行し続けても日銀が金利を下げる誘導したので、金融機関は国債を競って買っていたのです。政府が大きな額の国債を発行できたのは、一般に言われるように世帯貯蓄が多いからではありません。その証拠に世帯は買おうと思えばいくらでも買える国債を買っていず、預金しています。国債を買ったのは金融機関です。買った理由は国債がもっとも利益があがると判断したからです。財務省が国債買いを促したことは事実です。しかし金融機関はいつでも自己判断で売ることができます。5大都銀グループはすでに2010年から国債を売越し、その保有高は13年4月だけでも11.7兆円減って96兆円になっています。そして2012年4月、5月には金融機関は国債を売越しています。そこで20兆円買い越したのが日銀です。
・地銀の最大手横浜銀行は、保有する5年以上の中長期債を「すべて」売ったと寺澤頭取が言っています。金利上昇で下落リスクが大きいのは、中長期債の満期5年以上のものだからです。寺澤頭取は財務省で理財局の局長だった人です。金融も財務省の護送船団ではなくなっています。これには心底、驚きました。国債の発行責任者だった元財務省官僚が先駆けて国債を売ったからです。これを裏書きするように理財局の現役担当は「国債発行は綱渡り」と述べます。10年前だったら考えられないことが、国債市場で起こっています。三菱UFJ、みずほ、三井住友の三大メガバングは13年の4月と5月に20兆円もの国債を売って、保有残を90兆円に減らしています。2013年は銀行が大量に国債を売る初年度になるでしょう。
・金融機関が日銀の当座預金にお金を預けておくと、08年からの特例の「補完当座預金制度」として金利が0.1%つきます。この特例金利の制度は経済マスコミの多くには知られていません。日銀の当座預金が83兆円(13年6月)と異常に大きく「ぶた積み」されている理由は当座預金の0.1%の金利があるからです。なぜ日銀はこれをやめないのか。この特別制度は、日銀が国債を買って金融機関に流動性を与えながらも、当座預金に残せば金利をつけるということでした。リーマンショック後の緊急対策だった制度をその後5年も続けているのは、金融機関から国債を低い金利でスムーズに買うためです。短期債を売った金融機関はあたかも3ヶ月国債を持っているのと同じ金利が得られるからです。この制度は実体経済にマネー供給を行うためには廃止すべきものです。日銀当座の準備預金は83兆円もある必要はなく、本来は5兆円規模でいいはずです。事実、1990年代の日銀当座預金が約5兆円だったのです。0.1%付利の制度を続ければ、日銀の国債買いによって増発されたマネーのうち78兆円が日銀に準備預金として留まるという金融引き締めになってしまいます。日銀が預金準備率を銀行預金の10%に引き上げたのと同じ残高だからです。78兆円は政府の一般会計の80%にも当たる巨額なマネーです。
・まず日銀が異次元緩和を推進し、長期債を大量に買い続けたときに、国債市場で起こる変化です。日銀が長期債を大量に買うことによって価格が上がり、その利回りが1%を割るようになると、長期安定保有者(生命保険184兆円、公的年金68兆円、農林系と共済保険68兆円、地銀・第二地銀・信金36兆円:合計356兆円)にとって、長期保有が採算上、赤字になるという変化が起こります。赤字の資金運用はできない。となると、株式市場から株を売って退出を続けたように、国債市場から退出するか、あるいは少数が国債先物やオプションの売買で価格差から生じるキャピタル・ゲインを狙う短期所有者に転じるかです。金利が低くなった長期債の長期保有者が大きく減ってしまい、長期保有者が持つ長期債356兆円が売られて流動化することに向かいます。これは国債の金利高騰につながっていきます。以上はどうやっても避けねばなりません。このためには異次元緩和は妥当な金額、言い換えれば70兆円ではなく、年間20兆円の買いに戻し、長期金利を1~2%で維持せねばならないということです。
・中国のGDPの成長率の一段の低下は、1年や2年の短期ではすみません。どの国でもGDPは生産性の面でいえば、「一人当たり全要素生産性×労働人口」です。全要素生産性は最大でも1年に2~3%しか上昇しません。中国の生産年齢人口(15歳以上65歳未満)は、2015年の10億人が頂点です。1980年から2015年までは合計4億人(毎年1150万人)も増え、多くは内陸部から出稼ぎ工員の増加となってGDPの急増を支えてきました。これが10億人を頂点に2020年は9億9000万人、30年9億7000万人、40年9億人と減っていき、急速な高齢化が生じます。中国がGDPで2桁付近の高い成長をする時代は、ほぼ2013年で終わりました。これは断言です。25歳以下の年齢が大きく減って、65歳以上が増えるからです。また中国の特殊事情を言えば、完全退職年齢の平均が53歳(02年~07年平均)と極めて低いことです。比較すれば、インドネシア55歳、インド59歳、欧州61歳、米国64歳、日本68歳ですう。これも中国の高齢化を他国より10年くらい早める要素です。
・日本の輸出額は、08年の93兆円から13年3月時点で73兆円に減っています。逆に増えたのが輸入です。主因は資源・エネルギー価格の高騰です。このため、ついに日本は2011年から貿易赤字になっています(11年7兆円:12年11兆円)。対外純投資(296兆円:12年末)から生じる所得、配当、金利の黒字が15兆円(2013年3月:総平均利回りは5%)あるので、経常収支としては4兆円の黒字です。しかし貿易では11兆円の赤字です。20%の円安なら、金額が増えてきた輸入(名目79兆円:2012年暦年)が95兆円にふくらみます。円安では、わが国の貿易が黒字にはらないという構造変化が起こっています。日本は貿易黒字大国という通説は変更せねばならないでしょう。
・経済学でいう全要素生産性は企業でいえば一人当たりの生産性です。企業の人的生産性を上げるには、5000万人を雇用する260万社の、新しい設備投資額が減価償却費を上回ることが必要です。ビンテージ化し陳腐化した設備・機械での生産性は低いままだからです。老朽化した設備のままなら家電で起こったように、韓国や中国のもっとも新しい機械を使う新鋭工場の高い生産性に負けてしまいます。以上から政府はわが国経済の成長のために、2000年代に70兆円台、60兆円台へと減っている企業の国内設備投資(13年3月は61兆円)を80兆円以上に向かい大きく増やすことを、他の何より優先して支援する政策をとらねばなりません。
・国内からの売買が少ないため、日本の株式市場は海外投資家が価格を支配できるマーケットです。外国人の売買が1回転する平均期間を計算すると、四半期の決算に符号する13週です。8週から10週の期間は買い越して株価を上げ(PERを18倍付近まで)、次の2週から4週は売って、利益を確定するのが共通の行動です。今後も繰り返すお定まりのこのパターンは株式投資をしている人にとっては記憶に値するでしょう。
・20%円が下がることは、国富の観点では、日本の富の20%の減少です。円預金で考えれば分かるでしょう。円そのものは名目金額は同じです。しかし国際的な基準通貨では円の価値が20%下がり、購買力が20%減っています。ドル預金なら、20%も円換算の預金が増えたことになります。米国はわが国と対照的に、恒常的な経常収支の赤字国です。このためドル安は米国経済に対し、物価を上げるという悪い影響を及ぼします。米国では総体的に言ってドル安を好みません。日本では、為替差益で利益が増える輸出大手企業をマスコミが大きく取り上げるため「円安=国益」という錯覚があります。しかし国全体で言えば、本当は「円高が国益」です。自国通貨がとめどもなく安くなったときを想定すれば、通貨の弱さがもたらす負担が痛みとなって分かります。日本国全体の金融資産と所得にとって、自国通貨は高いほうがいいからです。
・円安が原因になる物価上昇では、海外への支払いも増加するコスト・プッシュ型です。このため企業数で約80%(200万社)の、内需企業の収益の増加にはなりません。物価上昇分の支払い増は、世帯が負担するしかない。そしてそれは輸入代金の増加として、海外に13兆円が流出します。内需企業も利益は増えません。230万社ある内需企業の利益が減るため、80%にあたる4000万世帯の将来の賃金上昇もないのです。
・政府・日銀は異次元緩和を大きく実行すればするほど、やめる時期が極めて難しくなります。実際に金利上昇という副作用が生じる前に縮小せねばならない。1ヶ月に10兆円枠としている国債買い切りを8兆円、6兆円、4兆円、3兆円、2兆円と減らし、かつての年間20兆円枠に戻すことです。同時に異次元の投資減税と住宅ローン減税を打ち出し、減ってきた民間投資と住宅購入を増やすための強力な支援策を打ち出すべきです。現在のような円安策で外需増をあてにした輸出振興は、けっしてGDP成長ではない。本来あるべきなのは、内需型での長期成長です。省庁は、従来から自分たちが関与できる公共投資には熱心でした。200兆円の国土強靱化政策を自民党は持っています。しかしすでに公共投資という方法では、今後のGDPの波及的な成長はありません。この政策は10年で10兆円、合計100兆円の最低限必要な規模に縮小せねばならない。代わりに政府は、企業と世帯が豊かになるための支援策にマネーを使うべきです。260万社の民間企業が設備投資を増やして、5000万世帯が住宅ローン減税によって住宅を買い、資産で豊かになる経済を目指さねばならない。世帯を豊かにするための、政府支援政策でなければならない。GDPの成長とは働く人6000万人の生産性が高くなり、その結果、企業収益が増えて賃金が上がり、賃金が上がった結果、消費や貯蓄が増えることでなければならない。生産性を上げるには、企業による新鋭の設備投資と技術革新が必要です。ところが日本はほぼ20年、設備投資を減らし続けています。民間の設備投資を増やすしか生産性を上げる方法はない。そしてこの内需型の実質GDPの成長こそが、政府の財政破産も防ぐ方法になります。
<目次>
はじめに
第1章 GDPの2.4倍、1121兆円の政府負債、そして国債の発行と需要
(1)国債の発行、および金利と価格
にもかかわらず、平穏に見える債券市場
(2)国債市場での金利の調整は価格で行われる
期待金利と国債価格
(3)超低金利の国債は、下落リスクが大きくなった
国債の残高の大きさと、期待金利の上昇の問題
異次元緩和は、2013年の秋か冬までに、大幅な修正が必要
(4)2000年代以降の国債の増加原因は社会保障費
政府債務の増加の主因は90年代までは公共投資だったが、00年代から社会保障費になった
政府支出増加の主因は団塊世代1000万人(5年間)の社会保障費の増加
(5)大量の国債のファイナンスの構造
00年以降、非金融法人の資金余剰が国債の50%以上をファイナンスしている
企業の新しい設備投資がないと、実質GDPは(絶対に)成長には向かわない
第2章 わが国の資金循環、つまりお金の流れの全容
(1)2013年3月までのわが国資金循環
純資産と純負債のまとめ
(2)2012年11月からの政府のドル買い・円売り
推計30兆円の米国財政支援のドル債買いと、円安のための円売り
1円の円安に必要な「ドル買い・円売り」は1.5兆円
円安がアベノミクスの第1弾だった
将来予想純益の倍率で決まる株価
第3章 国債は、誰が、どう買ってきたのか?
(1)国債の保有グループ別主体の国債保有の傾向とファイナンスの資金源
長期債の鍵は生命保険の運用
(2)実証 2012年後半から日本国債の買い受けと保有の構造に急に生じてきた変化
2010年代からの国債のファイナンスにおける重要な変化
2010年代 まだ潜在的であるが重大な変化が起こる10年
(3)2010年代 社会保障費の保険料での不足49兆円が増える
必要な社会保障財源と言われるものがこれ
ここまでの短いレビュー
(4)2010年代 日銀の国債買い切りがないと、国債がファイナンスできないという問題
第4章 政府の国債と、中央銀行の通貨の本質
(1)改めて言いますが、国債は将来世代が負担するべき負債
国債の残高を増やせる政府の財政信用
国の財政信用における、経常収支の黒字という要素
(2)不換紙幣も国債と同じように政府の国民に対する負債
政府紙幣とは
第5章 インフレ・ターゲット2%の政策
(1)なぜ「日銀による異次元緩和」になったのか
デフレ論争でのマネタリズム
(2)科学ではないのが、経済学の法則
(3)昨年比20%の円安が原因の悪い物価上昇になる
(4)阿倍政権はマネー・サプライの6%増を日銀に迫った
(5)日本経済は2つの実験を2013年と14年に行うことになった
実験1はマネー・サプライの70兆円増加があるかどうか
実験2は増えたマネー・サプライが商品購入の増加に向かい、物価を2%上げるかどうか
具体数字でマネー・サプライの1年6%増を見れば、非現実な感じがする
第6章 異次元緩和の実行がもたらした国債市場の不安定と、混乱の意味を解く
(1)異次元緩和の実行による国債市場の混乱
最初は2013年4月5日だった
知られていない国債市場 国債の価格と日本の金利を決める市場
(2)金融機関を8類型に分けた国債保有とその特性
(3)国債はかつて金融機関に大きな利益をもたらしてきた
150兆円(30%)も減った企業融資
企業融資を減らし、増えた預金で国債買いをするのが金融機関にとって合理的な行動だった
結論(1)有利だった国債買い
結論(2)2013年からの問題
(4)4月、5月の国債市場の一見、異常に思えた動きとその意味
ファンド・マネジャーの13年5月の心理
もっとも肝心なことは、ここ
インフレとは
第7章 これから2年、異次元緩和のなかで国債市場はどう向かうか
(1)異次元緩和実行後の、国債市場の展開予想
日銀が長期債を買い、長期金利が下がるのが異次元緩和
日銀の買いより金融機関の売りが超過し、日銀の狙いと逆に上がった国債金利が意味する重大なこと
異次元緩和の中での長期の安定保有者の変化の可能性(本当は必然)
(2)国債の利回りと保有者の立証
期限別国債の残高とイールドカーブのフラット化の危険
(3)異次元緩和で変化してしまう国債市場
インフレを起こすか、あるいは緊縮策をとって財政の再建
(4)いずれは必ず行わねばならない出口政策の問題
出口政策の前提
必ず実行せねばならなくなる出口政策
(5)財政信用とは何か
第8章 財政破産を避けるために必要な日銀の政策修正
(1)GDPとは何か
必要な260万社の新規設備投資
(2)異次元緩和によるインフレ目標2%がもたらす問題
(3)政府による円安という政策の利益と損失
中国の貿易収支の黒字減少とドル国債の売り
通貨の増発の本質と日本の米国債買い30兆円
(4)物価の期待上昇と期待長期金利の上昇は、危険な水域に向かう
(5)2つのシナリオ
(6)長期国債の短期化と短期国債の金利高騰 イールドカーブのフラット化
(7)2016年までの国の一般会計の赤字の計算
第9章 異次元緩和の修正と、本筋の成長政策
(1)異次元緩和に必要な修正
(2)成長戦略の本筋は、民間設備投資と住宅の増加を果たす異次元の投資減税
おわりに
面白かった本まとめ(2013年下半期)
<今日の独り言>
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