2009年刊行。今年の私の研究テーマは、「近代日本国家の分岐点」である。明治維新を契機に成立した近代日本国家は、急速に帝国化し大日本帝国として確立した。しかし、その大日本帝国は、1945年に崩壊した。大日本帝国が崩壊へと向かう分岐点は、いつで、それはどのようなものであっただろうか、というのが、その趣旨である。
1920年代を崩壊への助走、30年代を崩壊が必然化した時代として、今は考えている。
なぜこうしたテーマを掲げたかというと、1945年に生みだされた戦後日本国家が、まさに今、崩壊へとひたすら歩もうとしているからだ。それに、日本の支配層は、崩壊へと向かい始めるとそれをさらに促進させるような政策を展開する。それは今も同様だと考えるからだ。
さて本書はそのテーマを考えるために読んだものだ。大日本帝国の崩壊の途を考えるには、崩壊そのものを広い視野からまず見てみようと思ったのだが、本書はその問題意識に沿ったものであった。まずは読んでよかった。
今までもこれに関しての本を読んできたが、新しい事実がたくさん書かれていた。勉強になった。崩壊前後の東京、京城、台北、重慶・新京、南洋群島・樺太を叙述するに際して、それぞれの都市に関係する国々(その指導者)の動向をしっかりとつかみ、それを織り込んで叙述している。
私は、大日本帝国崩壊時の樺太の状況についてはまったく無知であった。ソ連という国家が「社会主義の祖国」として祀りあげられた歴史は、しっかりと消されなければならない。「満洲」に侵攻したロシア軍の蛮行はすでに多く語られているが、樺太についてはあまり知られていない。ソ連は、共産党が支配する国家を最高のものと考え、正義や「社会主義」の原理を視野の外に置き、周辺の国々に対して帝国主義的に行動したことが、樺太でも証明されていた。
残念ながら、1945年の樺太について書かれたものはあまりないようだ。
著者は、大日本帝国の悪をきちんと認識しながら、さらに日本の指導層の無能さを指摘し、そのうえで広い視野で崩壊を捉えている。
大日本帝国の崩壊は、東アジアを含めた世界的な関連の中で考えなければならないことを教えられた。
良い本である。