「フィリップス・コレクション展」 森アーツセンターギャラリー 8/10

森アーツセンターギャラリー(港区六本木)
「フィリップス・コレクション展 -アートの教科書- 」
6/17~9/4

アメリカの実業家の家庭に育ったダンカン・フィリップスが、個人的なコレクションとして集めた名画の数々。そのコレクションの中核であるルノワールの「舟遊びの昼食」など、新古典主義からキュビズムまでの絵画、約60点近くが公開された展覧会です。「アートの教科書」のサブタイトルの通り、作品を鑑賞しながら絵画史を概観できます。美術ファンにはたまらない名画揃いの展覧会でした。

まずはルノワールの大作、「舟遊びの昼食」(1880~81年)です。陽光が燦々と差し込む中で行われている賑やかな宴の様子は、少し卑猥さも見せるような人物の表情や仕草にも表されていますが、(犬と戯れる女性は、何と可愛らしい表情をしているのでしょう…。)手前に大きく描かれたテーブルの上の品々の描写には、特に目を奪われました。光を美しく纏うガラスのボトルやグラス、白い器に盛られた瑞々しい葡萄、そしてそれらを包み込むように敷かれた、柔らかな純白のテーブルクロス。全てが光と共鳴しながら調和し、そして輝いています。個人的にルノワールはかなり苦手な画家なのですが、これらの描写を見るだけでも、この作品がいかに「名画」なのかが良く分かりました。

私が最も惹かれた作品は、シスレーの「ルーヴシェンヌの雪」(1874年)です。しっとりとした雪が降り積もる街角には、傘を斜めに差した女性が一人こちらへ向かって来ます。とぼとぼと、足元の雪を一歩一歩踏みしめるように進むその姿。散歩と言うよりも、何か一仕事を終えて帰路に着いているようにも見えます。作品の構図感は極めて厳格ですが、タッチは幾分軽めになされています。まるで、雪の降る様も街の姿も全てが、成るがままに、静かに佇みながら時を刻んでいるような印象を与えます。心和らぐ日常の一コマを美しく切り取った作品でした。

一見すると幾何学的な模様の中に、線で丁寧に描かれた聖堂の姿を浮き彫りにしていたのは、クレーの「大聖堂」(1924年)です。四角形に配されたオレンジや黄色がかった茶色を背景に、白い線で細かく描かれた大聖堂。もちろん構図は幾分抽象的で、線と面に区切られた画面からは、聖堂が仄かに浮き上がっていきます。良く見ると建物の装飾なども表現されていて、ずっと見ていても飽きない作品です。クレーの奥深い表現力の一端を、また改めて見るように思いました。

マティスの「エジプトのカーテンがある室内」(1948年)も大変に見応えのある作品です。「黒」と「赤」を大胆に使った配色の妙、大きく描かれた窓辺越しに見える草木の圧倒的な表現、そして手前に配された果物とエジプト風(?)のカーテン。何から何まで全く隙のない、まさに「完璧」な作品です。マティスもその偉業には感服させられるもの、なかなか好きになれない画家だったのですが、この作品には心から感銘させられました。「黒」が生み出す艶やかさというのを、初めて見せられた気がします。実に鮮烈な表現です。

展示の構成は実にシンプルで、その数も決して多くないものの、「質」には目を見張らされるものがある、大変に充実した展覧会です。9/4まで、連日無休で開催しています。
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