「ベルナール・ビュフェ展」 損保ジャパン東郷青児美術館 8/20

損保ジャパン東郷青児美術館(新宿区西新宿)
「ベルナール・ビュフェ展」
7/23~8/28

ビュフェのコレクションとしては世界一の規模を誇るという、静岡県の「ビュフェ美術館」。その所蔵品によるビュフェの回顧展が、28日まで損保ジャパン東郷青児美術館で開催中です。

展示されていたのはビュフェの油彩画、全70点でした。作品は「人物画」と「風景画」、それに「静物画」と、ジャンル別に分けて並べられていましたが、ビュフェ自身の作風の変化は、「対象の異なり」より「制作時期の異なり」によるものが顕著だったと思います。活動初期の第二次大戦直後には、白や黒など、モノトーン的な配色によって構成された作品が目立ちましたが、その時期を抜けると、今度は鮮やかな色彩を大胆に取り入れた作品が描かれるようになります。その辺の特徴は、時系列に並べた展示の方がより分かりやすく提示できたかもしれません。

それにしても、彼の作品はどれも殆ど「隙」がありません。直線を多用して、どこか幾何学的にも見える事物の描写は、構図に厳格さをもたらします。そしてその直線の特徴は、人物画に強く独創性を与えたようです。ぎこちない顔の表情や動きは、その人物の背景から沸き立つ「人となり」を、半ば打ち消すかのように存在しています。まるで、人物が、人生やその物語を超えた場所に「ただある」ものとして存在しているかのようです。人の気配や生活の匂いをこれほどまでに消した上で、さらに人物の存在を「あるもの」として際立たせることが出来る。会場では、人物の「寂しさ」などを強調する説明がなされていましたが、私はその点よりも、先ほども書いた、人物の「在るものだけとしての強さ」の方が印象に残りました。決して剛胆さこそありませんが、クッキリとした線でハッキリと描き塗る。これが事物に強い存在感を与えるのです。

このような対象の強い存在感は、風景画でもよく表されていたと思います。ニューヨークの摩天楼を描いた「マンハッタン」(1958年)では、直線を交差させて、積み木のように組み上げて生み出されたビルの描写も面白いのですが、街にはどこにも人の気配がないこと、そして、賑わいとは無縁の生気を抜き取ったような白をベースにした乾いた画面、さらには、若干の焦燥感を呼び起こすような縦長の構図が、このビルと街に「あることへの重み」のようなものを与えます。丁寧に対象を描いたバロック絵画にも通ずるような繊細な描写と、直線と面による画面構成の抽象的な要素も持ち得る。これは希有な作品だと思いました。

「赤い花」(1964年)と「あじさい」(1971年)。花を描いたこの二つの作品も印象に残りました。「赤い花」では、黒い花瓶に白い背景、そして強い線による描写がこれまでの「ビュフェ風」とも言えそうですが、デコレーションケーキのクリームのように、カンヴァスを飾るようにして塗り上げた赤い絵具による花は、それまでになかった表現で驚かされます。また、「あじさい」も、青い絵具をパテで塗って仕上げたような一つ一つの花びらの表現が個性的です。その深い青みには惹き込まれました。

本格的にビュフェを見たのは今回が初めてでしたが、もっと多くを見てみたいと思わせるほど、見応えのある作品ばかりです。静岡県にあるビュフェ美術館。これは一度出向いてみなくてはいけません。
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