「ゲント美術館名品展」 世田谷美術館 8/27

世田谷美術館(世田谷区砧公園)
「ゲント美術館名品展 -西洋近代美術のなかのベルギー- 」
6/11~9/4

ベルギーの古都ゲントからの品々で構成された、19世紀から20世紀前半の「ベルギー近代美術」の変遷を概観する展覧会です。もちろん、クノップフやマグリットなど「お馴染み」の巨匠も展示されていますが、近代美術一般と言うことで、新古典主義から丁寧に美術史へ触れている点も、この展覧会の良さの一つです。全体的にやや地味な作品が多く、さすがに「大作」ばかりとはいきませんが、肩の力を抜いて楽しめる企画だと思います。

初めの新古典主義で紹介されていたジョセフ・ナヴェの「ミラノの聖女ヴェロニカ」(1816年)。そのヴェロニカのまとう衣装の質感は、実に鮮やかで目を奪われます。衣装に配された「緑・赤・青」の、丁寧に塗り分けられる油彩の美しさは、この時代ならではの要素もありますが、ヴェロニカの白く透き通るような肌も魅惑的です。とても印象に残りました。

バルビゾン派近辺のベルギーへの展開は、ジョセフ・ヘイマンスの「荒地に沈む太陽」(1876年頃)に、その昇華した姿を見せていたのではないでしょうか。地平線へ沈み行く太陽は雲に隠されていますが、そこから滲みだす柔らかい明かりは、荒地に広がる沼の水辺に穏やかに呼応しています。また、その柔らかな表現による空と大地の描写はどことなく刹那的で、一日の終わりを情緒豊かに表現しています。当然ながら全体の光量も少ないので、パッと見てもあまり映える作品ではありませんが、立ち去るのが惜しい気持ちにさせられる、そんな不思議な魅力をたたえた作品でしょう。

印象派と新印象派には、あまり惹かれた作品がなかったのですが、その後の象徴派にはアンソールやクノップフなどの力作が並び、どれも見応え十分でした。中性的な顔の表情に惹き込まれるクノップフの「香」(1898年頃)や、諧謔性のあるアンソールの一連の作品などには、最近、東京で開催されている一連の「ベルギー関係の展覧会」で拝見したものもありましたが、やはりこの時期に、ベルギー独自の芸術表現が花開いたと言えるのかもしれません。

この展覧会の中で最も気になった作品は、デルフォーの「階段」(1946年)です。ギリシャの神殿を思わせるような石造りの建物の中には、階段を対にするようにして歩く裸体の女性が二名。青いカーペットの敷かれた階段は、不思議と実在しない「絵の中の絵」のように見えてきますが、手前の女性も階段の非現実性に反応するかのように生気がなく、あくまでも「女性の形」として在るだけに見えます。むしろ、右奥に彫刻のように置かれた裸体の男女の方が、奇妙な生々しさを持っているでしょうか。灰色や青でまとめられた全体の色合いは、どこかヒンヤリとした雰囲気を生み出し、実際にある色とは無関係な「モノトーン風の景色」を見せています。「不条理な夢の世界」。そんな印象を受けます。強く惹き込まれました。

出展作品数は全部で約130点程と、かなりのボリュームがありましたが、ベルギー美術史の流れを大まかに追うことはできました。ミュージアムショップも付属レストランもベルギー一色です。くつろいだ雰囲気の漂う展覧会でした。
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