あくまでも愉しいアーノンクールの「悔い改めるダビデ」

ヨーロッパ夏の音楽祭2005 NHK-FMベストオブクラシック(8/22 19:20~)

曲 モーツァルト/「カンタータ 悔い改めるダビデ K.469」

指揮 ニコラウス・アーノンクール
演奏 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス 
ソプラノ マリン・ハルテリウス/ロベルタ・インヴェルニッツィ
テノール クリストフ・シュトレール
合唱 アルノルト・シェーンベルク合唱団

「ハ短調ミサ曲K.427」の改作として知られる「悔い改めるダビデK.469」。あまり頻繁に演奏される曲ではありませんが、アーノンクールとその手兵でもあるウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(CMW)、それにシェーンベルク合唱団とは豪華な組み合わせです。早速耳を傾けてみました。

ところでこの曲は、モーツァルト研究家として著名なアインシュタインによれば、「はなはだ分裂した曲」であると指摘されています。要は、ダ・ポンテが付けたという歌詞と、本来ミサ曲のために作られた筈の音楽の間には、大きな乖離があるということです。確かに、急いで作曲されたこのカンタータは、大部分が「ハ短調ミサ曲」からの転用によって構成されていて、テノールのためのアリア「数知れぬ悩みの中で」と、ソプラノのためのアリア「暗い、不吉な闇の中から」、それに最後の合唱の一部だけが、この曲のオリジナルの部分となっています。もちろん、この日の解説の磯山氏によれば、その追加部分のオーケストレーションは素晴らしく、いささかの価値を損なうこともないそうですが、もし、二曲の新作アリアがなければ、「価値のない曲」として片付けられてしまう、そんな雰囲気がありそうな気もします。単なるミーハーなモーツァルト好きの私にとっては、ただ、ハ短調ミサ曲の上に流れるイタリア語の歌詞の流麗さや、追加された二曲のオペラ風の華々しさや人懐っこさに惹かれるのですが、何かと問題がある音楽なのかもしれません。

アーノンクールによる演奏は実にスピーディでした。勿体ぶった表情を一切つけないで、音楽に生気と愉しさを与えるように進めます。もちろん、CMWの喰らいつきも見事で、特に弦のしなやかさと躍動感には舌を巻くほどです。ただ、録音のせいか、パート間にあまり透明感や明晰さが見られず、全体的に少々ごちゃごちゃした印象も受けましたが、その抜群、いや独特の語り口によるリズム感はさすがでしょう。また、シェーンベルク合唱団を、そっとオーケストラにのせるように歌わせて、仄かで淡い雰囲気を作り出します。あくまでも柔らかい。自然体な音楽と、合唱や歌唱との絶妙な「間」。これは一体何処から来るのでしょうか。

大の時差嫌いとも言われるアーノンクールですが、来年の11月には、ウィーンフィルやコンツェントゥス・ムジクスとの来日公演が予定されています。私は、彼の演奏を熱心に聴き込んでいる「ファン」ではありませんが、これは期待が高まります。日本の古楽演奏史に新たな一ページを付け加える、記念碑的な公演となるかもしれません。
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