「わたしの美術館展」 横浜美術館 8/28

横浜美術館(横浜市西区みなとみらい)
「わたしの美術館展 -市民が選んだ横浜美術館ベスト・コレクション- 」
7/29~8/31(会期終了)

約9500点にも及ぶという横浜美術館のコレクションの中から、近代日本画、印象派、それに現代美術など、約160点の品々が出品された展覧会です。一見すると、一般的な常設展示と大差ないようにも思えますが、市民による2500通もの応募の中から選ばれた人気作品の競演は、さすがにどれも見応え満点です。親子でのイベントやお得意(?)のワークシートなど、気軽に楽しめる企画も満載ということで、まさに夏休みらしい展覧会だとも言えるでしょう。

展示は「はぐくむ」や「はばたく」など、抽象的なイメージの言葉によって6つのカテゴリーに分かれていましたが、ジャンルとしては日本画や西洋画、それにシュルレアリスムなど、保守的な区分けとも合致していて、クロスオーバー的な要素は殆どありません。ですから、この手の分かりやすい展示は、自分の好きな作品を見つけたり、新たな作品との出会いによる喜びを手軽に味わうことができます。「あれも、これも。」というような雰囲気で楽しんできました。

最初のコーナーにある日本画には、速水御舟の「麦」(1925年)や横山大観の「霊峰不二」(1919年頃)、それに小林古径の「菓子」(1940年)など、今更私がどうこう言うまでもない力作が多数並んでいます。これまで、横浜美術館の日本画コレクションは、部分的にしか見たことがなかったので、30点あまりのそれらを鑑賞するだけで、早くも「お腹いっぱい」と言った所です。

先日Bunkamuraで見たモロー展の印象がまだ強く残っていますが、横浜美術館の所蔵品である「岩の上の女神」(1890年)も、大変に素晴らしい作品です。水彩による小品とも言える作品ですが、女神の透明な肌や、彼女が身につける美しい装飾品、それに精密な意匠が施されたローブなど、どれも実に細かく丁寧に描かれていて、青をベースにした背景の幻想的な雰囲気と合わせて、思わずその画面に吸い込まれてしまうような魅力をたたえています。この作品に出会えることだけでも、この展覧会に行った甲斐があると思うくらいです。

また、最近見た画家と言えば、これまた先日の世田谷美術館の「ゲント美術館名品展」で気になったデルヴォーも、全く同名の「階段」(1948年)という作品が展示されています。陽光が燦々と差し混んでいるテラスの中央に位置される階段には、胸を露にしながらも白いドレスを着た女性が一人佇んでいます。彼女は一体階段を降りようとしているのか、そうでないのか。片手を挙げて静止する様は、どこか人形のようです。テラスの外には工場か廃墟を思わせる景色が広がり、そこには同じように片手を挙げて胸を露にする女性が歩いているように見えます。ただこの作品で最も中心になっているのは、おそらくこの二名の女性ではなく、左前に立つ黒いマネキンではないでしょうか。赤いスカートを身につけて、まるで遠い昔から突如出現したような古めかしい姿。どこから来たのでしょうか。

以前、この美術館の常設展示で見て好きになったダリの大作「幻想的風景-暁、英雄的昼、夕暮-」(1942年)も、再び展示されていました。前回はもっと広々とした展示室にあり、途方もない奥行きと開放感を感じさせたのですが、今回はやや手狭な場所で、窮屈そうな表情を見せています。その他のいわゆる西洋画では、ブラックの「画架」(1938年)や、何回見ても感心させられるセザンヌの「ガルダンヌから見たサント=ヴィクトワール山」(1892~95年)などに惹かれました。

最後は「生きる」のコーナー、要は現代美術です。ここではアンディ・ウォーホルやジャスパー・ジョーンズなど、私がやや苦手とする作家も並んでいましたが、不可思議な表情を見せる少女が印象的な奈良美智や、原美術館で個展を開催中のやなぎみわ(もちろん見に行くつもりです。)の作品が一際存在感を見せていたのではないかと思います。近代日本画から西洋画を経て、今日本で活躍している方の現代美術へ至る。オーソドックスでもあり大雑把でもある道程ですが、飽きることはありません。

横浜美術館の膨大なコレクションを、分かりやすくリーズナブルに見ることのできる、とても親切な展覧会でした。どんな形にしろ、常設展示を再構築して見せる企画は大歓迎です。夏休みの「つなぎ的」なものであったとしても、是非また続けて欲しいと思います。
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