「三都画家くらべ」 府中市美術館

府中市美術館
「三都画家くらべ 京、大坂をみて江戸を知る」
3/17~5/6 前期:3/17~4/15、後期:4/17~5/6



恒例の春の府中・江戸絵画展が今年もやって来ました。府中市美術館で開催中の「三都画家くらべ」へ行ってきました。

これまでにも「動物」、「山水」、「人物画」など、様々な切り口で江戸絵画を紹介してきた府中市美術館ですが、今回は趣向をがらっと変え、タイトルの如く「三都」、ようは京、大坂、江戸の三都市にスポットを当てています。

江戸時代、おそらく現在よりもさらに個性際立っていただろう三都市ですが、当然ながら異なった文化を背景に、絵画表現においてもまた違った方向を指し示しました。



また三都といっても、単純に京、大坂、江戸の画家の作品をつらつら並べているだけではないのも大きなポイントです。

「花と動物」 (前期のみ)
「山水」
「笑い」
「特産」


メイントピックは上の4点です。個々の画家の作品を俯瞰しながら、三都の特徴を比較する構成となっていました。

まずは「花と動物」です。京の画家たちは、やまと絵の伝統を受け継ぐ優美さとともに、時に応挙に代表される写生的なリアルさをも追求しました。


森狙仙(大坂)「猿図」大阪市立美術館 前期展示

一方、大坂では中国絵画への憧憬が強く、とりわけ沈南蘋の濃厚な画風の影響を受けています。

その両者を端的に見比べられるのが、岸駒(京)と上田公長(大坂)の同主題の作品、「牡丹に孔雀図」です。

ともに南蘋風の孔雀が登場していますが、岸駒作は羽を右上へのばし、広がりのある空間を志向している一方、上田作は首がぐっ捻られ、言わばオーバーアクションなまでの孔雀が描かれています。

またここでは羽にも注目です。大坂は一部で簡潔な表現を好みます。上田の方がザックリと羽を描いていることを見て取れるのではないでしょうか。


吉村孝敬(京)「竜虎図」個人蔵 前期展示

それに大坂は文人画の趣味もあり、絵画において技巧よりもあえて拙さを楽しむ習慣もありました。

江戸では幕府の絵師、狩野探幽の力が大きく、例えば余白を巧みに利用した喜多武清の「秋草図屏風」など、あっさりとした自然描写が主流となります。


狩野探幽(江戸)「四季花鳥図」(部分)大本山永平寺蔵 前期展示

京の優雅、大坂の明瞭、江戸の抑制がキーワードです。

さて続いての山水では、江戸に西洋画に基づく洋風的な表現が出てくる点が重要と言えるかもしれません。


亜欧堂田善(江戸)「墨堤観桜図」府中市美術館寄託 前期展示

先に触れたように京はやまと絵的な空間の緩やかな広がりを求めましたが、江戸は遠近法を取り入れることによって、半ば理知的でより三次元的な空間を作り上げます。

もちろん司馬江漢の銅版画も有名ですが、江戸の風景を遠近感のある表現で示した広重の「江戸近郊図」など、横よりも縦、奥行を志向した風景画こそ、江戸ならではの作品と言えそうです。


佐藤魚大(大坂)「閻魔図」個人蔵 前期・後期

「笑い」はそれこそ大坂の独擅場かもしれませんが、私として好きなのは京に独特なデリケートでかつ和みの笑いです。

ここでは通称『和みの琳派』、中村芳中の「人物花鳥図巻」が見逃せません。


中村芳中(大坂)「人物・花鳥図巻」(部分)真田宝物館蔵 前期・後期展示

芳中ならではの軽やかなタッチのもと、皆にこにこするように佇む人物や動物たちが描かれています。

芳中作はどれも見ていると思わずにやりとさせられるような不思議な魅力がありますが、例えば同じく微笑ましい若冲の伏見人形図など、京には何とも言い難いほんわかとした笑いがあるように思えてなりませんでした。

ちなみに大坂には体を張ってまで笑わせる強引さが、江戸はバカバカしいことなど何か笑いに原因を求めることの特徴が絵画から引き出されるそうです。その辺は今もあまり変わらないかもしれません。


狩野山雪(京)「寒山拾得図」真正極楽寺蔵 前期展示

さて最後に京で最も重要なのが奇抜さに他なりません。

最初に触れた優美さももちろん京の特徴ですが、それに相対する奇抜さを求めたのもまた京でした。

元々京は禅宗の存在が大きく、そこから絵画においても奇抜さや難解さが引き出されてきたそうですが、その代表的な例が伊藤若冲ではないでしょうか。


伊藤若冲(京)「垣豆群虫図」個人蔵 前期・後期展示

何と昭和2年以来、約85年も一度たりとも展示される機会がなかったという幻の作品、「垣豆群虫図」がラストを飾ります。

また奇抜と言えばもう1点、長沢蘆雪の「なめくじ図」が忘れられません。


長澤蘆雪(京)「なめくじ図」個人蔵 前期・後期展示

なめくじが平面上をただ一匹、その足跡ならぬ粘膜の軌跡とともに描かれた作品ですが、簡潔明瞭ながらも画家の斬新な発想力には驚かされます。

蘆雪にはかつて府中で余白にただの一匹、蛙を描いた「蛙図」を見た時にも、その稀な空間構成に強く感銘しましたが、それと同じくらいの衝撃をこの作品から受けました。

と言うわけで、京、大坂、江戸と三都の画家では、この奇抜さをとる京に軍配をあげたいと思います。

さて展示替えの情報です。本展は会期中一度、4月半ばに作品の大半が入れ替わります。 (展示予定表)*前期89点、後期87点、総計152点。

前期展示:3月17日(土)~4月15日(日)
後期展示:4月17日(火)~5月6日(日)


前後期あわせて一つの展覧会です。トピックも「花と動物」が「人物画くらべ」に替わります。まずは早めにお出かけ下さい。

なお比較や特質云々というと難しい展示かと思ってしまうかもしれませんが、決してそんなことはありません。



お馴染みのクイズ形式ワークシートの「三都探検隊」、そしてスタンプの「さんとくんのはんこ旅」など、同館ならではのちょっとした仕掛けも用意されています。ここはさすが府中市美術館、抜かりありませんでした。

出品作は個人蔵が多く、全体としてかなり新鮮味があります。

宗達の水墨に抱一の小品、また探幽の4幅対の大作「四季花鳥図」など、お馴染みの画家の作品にも目が引かれましたが、初めて名前を知るような画家も多数紹介されていました。



江戸では若冲は受けず、また洋風画は実は京の人々が一番理解すると江漢が述べたエピソードも残っているそうです。作品を見比べることで浮かび上がる都市の性質、ありそうでなかった展覧会と言えるのではないでしょうか。

「もっと知りたい狩野永徳と京狩野/成澤勝嗣/東京美術」

前期展示は4月15日まで開催されています。 (全体会期は5月6日まで。)

「三都画家くらべ 京、大坂をみて江戸を知る」 府中市美術館
会期:3月17日(土)~5月6日(日)
休館:月曜(但し4/30を除く)。及び3月21日(水)。
時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
場所:府中市浅間町1-3
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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