「ターナー展」 記者発表会

イギリスを代表する画家であるジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775~1851)。美しい光と色の織りなす、時に幻想的なまでの風景画は日本でも人気。回顧展を待っていた方も多いかもしれません。



追記:「ターナー展」@東京都美術館(プレビュー記事)

ずばり朗報です。ターナーの回顧展がいよいよ今秋、上野の東京都美術館(10/8~12/18)で開催されます。*以降、神戸市立博物館(2014/1/11-4/6)へと巡回。

と言うわけで、開催に先立って英国大使館で行われたターナー展の記者発表会に参加してきました。


ティム・ヒッチンズ駐日英国大使と「コーンウォール地方のセント・ジョン村から望むハウモウズの入江」

まず挨拶に立ったのはティム・ヒッチンズ駐日英国大使。流暢な日本語でスピーチを。大使自らがターナーの風景画を紹介。それが「コーンウォール地方のセント・ジョン村から望むハウモウズの入江」。父が海軍に属していたことから、大使の生活は常に海とともにあったとか。その海を重要なモチーフとしたターナーには強い思い入れがあると語りました。


東京都美術館の小林明子学芸員

続いて東京都美術館の真室館長の挨拶の後、同館学芸員の小林明子さんによる展示解説がスライドで行われました。ごく簡単にまとめてみます。

「『絵になる英国』を探して」:展示は画家の生涯と作風の変遷を見るもの。画家としての出発点はイギリス各地の風景を描く水彩画家だった。そして史上最年少、20代でアカデミーの会員に。


「スピッドヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク船」(1808年)

「『海洋国家』の精神を誇る」:特に海風画を制作し、歴史の素材を盛り込んで、英国の愛国心にも訴えかける作品を多く制作した。「スピッドヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク船」(1808年)は降伏したデンマーク船を英国海軍が曳航する様子を描いている。


「ヴァティカンから望むローマ、ラ・フォルナリーナを伴って回廊装飾のための絵を準備するラファエロ」(1820年)

「イタリアに魅せられて」:旅する画家としてのターナー。フランスからイタリアへ。「ヴァティカンから望むローマ、ラ・フォルナリーナを伴って回廊装飾のための絵を準備するラファエロ」(1820年)は最初のイタリア旅行で描いた作品である。後にターナーは水上都市ヴェネツィアに特に魅せられた。


「湖に沈む夕陽」(1840-45年頃)

「光と大気を描く」:晩年は形態を超えた色彩と光の表現に専念。「湖に沈む夕陽」(1840-45年頃)は、その前衛的なまでの表現から、当時、批判を浴びた一枚。


「クリゾン州の雪崩」(1810年)

「大自然の畏怖をかたちに」:大自然の険しさ、また自然災害を題材にした作品を描いたターナー。「クリゾン州の雪崩」(1810年)は同地で実際に起きた雪崩に取材したものである。


「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」(1832年)

「漱石が愛したターナー」:ターナーを著作で紹介した夏目漱石。日本のターナー受容の一つの契機に。「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」(1832年)は漱石が留学中のイギリスで見た可能性の高い作品。「坊っちゃん」に引用がある。

太字はターナー展を見る上で重要なキーワードです。なお出品は油彩36点に加え、水彩67点、スケッチ10点の全113点で構成。イギリスはテートからも多数の作品がやってきます。


ゲストトークを行う作家の林望さん

さて最後にゲストトークが。登壇したのは作家の林望さん。こちらもお話に沿って内容を。

林望「ターナーとコンスタブル。一年先輩がターナー。同時代に二人の偉大な画家が生まれましたが、これが生まれからして対照的。ターナーはロンドン中心部、コヴェント・ガーデンの床屋のせがれですが、コンスタブルは田舎の坊ちゃん。粉会社の息子さんです。」

「絵に関しても対照的な人生を歩んでいますね。ターナーは早熟の天才。20代にアカデミーの正会員になって売れっ子でしたが、コンスタブルは遅咲き、50歳を過ぎてから会員に。ターナーは14万ポンドともいわれる巨額の富を残しましたが、コンスタブルは赤貧のうちに死にました。」

「それにしても二人は何故にそれほど境遇が違ってしまったのでしょうか。まずターナーから。彼の絵画はいわゆるヒストリカルでピクチャレスク。ようは歴史的故事や神秘的なものを風景に取り込んで描いています。」


ブリテン島内でターナーが旅した地点

「ターナーは旅する画家としても知られていますが、ともかくブリテン島だけでもこれほど旅をしています。(上スライド。赤い点が旅した地点。)そしてターナーは次第に外国へ目を向けていきます。若い頃、例えば1775年から1800年の間は全て国内のみであったのが、1840年代の旅行は全て外国へ行っています。ようは英国の旅からヨーロッパの旅へと変わるわけです。」

「つまりターナーはピクチャレスクな風景を求めるために旅を続けていたのです。しかも日常ではなく非日常を求めるために外国へ。しかしコンスタブルはそういうことは一切しませんでした。彼は何でもない英国の田舎の田園風景をひたすら描き続けます。そしてこの時代の英国ではピクチャレスク絵画が好まれた。だからターナーは売れに売れたわけです。」


「平和ー水葬」(1842年)

「何枚か作品を挙げましょう。まずは『平和ー水葬』。水葬とは文字通り、海上で行なわれた葬儀のことで、ターナーの友人の画家の葬儀を元にしたそうですが、ともかく空に注目。舞台はジブラルタルですが、これはもうイギリスの空ですね。そして手前に一羽の真鴨。そして異様なほどに真っ黒い船。空は青空なのにこの暗さ。考えられない光のコントラスト。おそらくここには人の死が反映されているのですが、全体で見るとターナーの空想、創造によった風景なのです。」



「またこの一枚(上のスライド)はどうでしょうか。朦朧体ともいえるような作品、未完ですが、実はこれ都市風景で、右には鉛工場の煙突が見えるのですよね。そして左でもくもく出ているのは工場の煙。それを一体何処から見ているのかと思うほど高い視点から鳥瞰的に描いている。ターナーは何も田園だけでなく、こうした工業化された都市風景にも関心を持っていました。そこにも非日常、一種のピクチャレスクを見ていたのではないかと。ここはターナーの新しさかもしれません。」

「作品の中にある物語や思想。そして伝統的なものと新しいものへの関心。さらには光や大気に見られるような革新的な表現。風景を通して『形而上』の何かを見続けていたのがターナーではないかと思っています。」


スライド作品を解説する林望さん

林望さんのトークは以上です。ターナーとほぼ同世代のコンスタブルの対比を基点に、実に興味深いお話をして下さいました。


ターナー展記者発表会の様子

さてこのターナーの回顧展、最近では2度、1986年に国立西洋美術館、また1997年に横浜美術館で開催されましたが、今回はそれらを上回る展示スケール。しかもうち9割は日本初公開の作品というから驚きです。


東京都美術館の真室館長、ティム・ヒッチンズ駐日英国大使、作家の林望さん

公式WEBサイトも全面リニューアルされ、前売チケット情報も既に公開中。特にお得なのは先行前売ペアチケット。2枚で2400円です。その他、紅茶やブックカバーとセットにしたグッズ券もあります。こちらも要チェック!

「ターナー展」チケット情報

余談ですが、ターナー作「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」に登場するハロルド(イギリスの詩人、バイロンの物語誌です。)こそ、このブログの名付け親。もちろんターナーも私の大好きな画家の一人であります。


記者発表会時に大使館の庭園も公開されました

国内では16年ぶりとなるターナーの一大回顧展。まずは大いに期待しましょう!


英国大使館正面風景

「ターナー展」は2013年10月8日より東京都美術館で開催されます。*神戸市立博物館(2014/1/11-4/6)へ巡回。



「ターナー展」 東京都美術館
会期:2013年10月8日(火)~12月18日(水)
時間:9:30~17:30(金曜日は20時まで開館)*入室は閉室の30分前まで。
休館:月曜日。但し10月14日、11月4日、12月16日は開館。10月15日、11月5日は閉館。
会場:東京都美術館(台東区上野公園8-36
主催:東京都美術館、テート美術館、朝日新聞社、TBS
後援:在日英国商業会議所、ラスキン文庫
料金:一般1600(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体、及び前売券。前売券は2013年8月5日から10月7日まで販売。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
 *特別先行前売ペア券各種発売。詳細はチケット情報へ。

注)記者発表会、及び大使館内の写真の撮影については主催者の許可を得ています。またスライド図版は全てターナーの作品です。
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