都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「人思い、人想う。」(後編・展示について) ホキ美術館
ホキ美術館
「人思い、人想う。」
5/22-11/16
中編(館内について)に続きます。ホキ美術館へ行って来ました。
「人思い、人想う。」(中編・館内について) ホキ美術館(はろるど)
館内にずらりと並ぶ現代写実絵画、その全ては美術館の創設者で、医療メーカーのホギメディカルの創業者でもある保木将夫氏が収集したコレクションです。
出品は150点です。コレクション総数350点のうち、ほぼ半年に1度程度で入れ替わります。
館内の撮影の許可をいただきました。
生島浩「5:55」2010年
まずは「ギャラリー1」の企画展「人思い、人想う。」です。目を引くのはチラシ表紙にも掲げられた生島浩の「5:55」。長い髪の女性がどこかためらいがちに椅子へ腰をかけている。左から光が差し込み、テーブルの上にはロウソクも置かれています。ちなみにタイトルの「5:55」は時間のことです。確かに右上の時計が6時前を指しています。モデルがまもなく帰る時間なのでしょうか。伝統的なオランダの室内肖像画を思わせる静謐な雰囲気が漂っています。
磯江毅「横たわる男」2001-2002年
2011年の練馬区立美術館での回顧展の記憶も甦りました。磯江毅です。作品は「横たわる男」、画家を象徴するというべきモノクロームの世界、一人の鼻の高い男がベットの上に仰向けて横たわる。2枚のキャンバスを繋いで一枚の画面に仕上げています。
諏訪敦「深海」2003年
諏訪敦の「深海」です。こちらもほぼモノクローム、ベットを上からの視点で眺めている。白いシーツの質感も驚くほど豊かです。まさに眠りの海に沈み込んでいるのでしょう。すっかり安心しきったように眼を閉じている。手を胸の辺りにそっと寄せて眠りこけています。
画家の石黒賢一郎さんのお話を聞くことが出来ました。
石黒賢一郎「惰眠」1993-2012年
作品は5点です。うち最初に写実を手がけたのが「惰眠」。1993年に描き始め、2012年まで手を加えて完成させた作品です。公園で帽子を頭の上にのせて眠る男、いわゆるホームレスでしょうか。モデルは実際に公園にいた人物です。石黒さんが酒をおごったりしてモデルになってもらったそうです。
石黒賢一郎「CH-08(KISARAGI)」2011年
ほか4点は近年に制作されたもの。石黒さん、ともかく作品を前にすると「持って帰りたい。」という言葉を連発されましたが、それはまだ描き直したい部分があるからとのこと。例えば「CH-08(KISARAGI)」では背景とモデルの髪にさらに手を加えたいそうです。
石黒賢一郎「No a ×××.」2013年
背景に目を奪われました。薄暗がりで滲みが点々と連なっている。これはスペインのマンチャと呼ばれる「汚す」デッサンのことで、作品の物質としての強度、言い換えればその部分を切り取っても一つのオブジェとして成立するようにしたいと考えているからだとか。またいずれもモチーフは画家のアトリエの壁です。釘が描かれている作品もありましたが、それも実際に刺さっているものだそうです。
石黒さんの近作のシリーズ、いわゆるアニメのキャラクターの引用がありますが、それとモデルは必ずしも似ている必要はないとのこと。多少意識する程度だそうです。
「ギャラリー1」 石黒賢一郎
実在のモデルと絵画ではどうやってもモデルの方が本来的に存在感があると述べる石黒さん。ゆえにモデルを理想化するというよりも、そのエッセンスをいかに絵画に定着化させるかを心がけているそうです。
テクニックについても少し触れて下さいました。基本的に表面の絵具は盛らない。何故ながらそもそも厚く塗ると細かい部分が描きにくくなるからだそうです。「実際の肌は全く盛っていないよね。」というお話を聞くと、さもありなんという気もしました。
ちなみにこの絵具を盛っているかそうでないかという部分は、ほかの写実絵画を鑑賞する際においても一つのキーポイントになるかもしれません。
いわゆる写真のような絵画といえども、画肌に目を凝らせば、各画家の絵筆の息遣いが感じられる。それは画家によって全くと言ってよいほど異なります。
「ギャラリー2」 森本草介
「ギャラリー2」に進みましょう。森本草介の作品です。美術館でも人気の画家。ホキコレクションでも最も作品の多い画家でもあります。
これらはいずれも昨年12月から個展のために館外に貸し出され、大阪や東京を巡回。延べ数万人もの来場者を集めました。戻ってきたのは約半年ぶりのことです。人物、風景、静物をあわせて計33点の作品が公開されています。
「ギャラリー3」と「ギャラリー4」では五味文彦が圧倒的ではないでしょうか。
五味文彦「青い器物のある静物」2005年
「青い器物のある静物」、メロンやレモンの果物ともに陶やグラスが並ぶ。白いレースのクロスの質感も美しい。息をのんでしまいます。
五味文彦「あかいはな」2010年
「ギャラリー4」は五味の展示室です。作品はまとめて8点、いずれも甲乙付け難いものがありますが、あえて一点あげるのであれば「あかいはな」、写真でも際立つかもしれませんが、このクリアなガラスのコップ。中にはバラが水に浮かんでいますが、ガラスによって出来る歪みまでをも精巧に描く。微かに延びた影も素晴らしい、一匹の蜂が画面に入り込んでもいます。
中編のエントリでも触れましたが、鑑賞時間はゆうに2時間以上です。私自身、元々写実にはあまり興味がなかったのですが、見終えた後は考えも変わりました。石黒さんの仰る「本物の素晴らしさを写実で示す。再現する。」ということの奥深さ、魅力を初めて知ったような気がします。
千葉の「昭和の森」に隣接するホキ美術館、建物しかり、作品しかり、一見の価値は十分にあります。なお少し都内から距離はありますが、東京駅発着のバスツアーなどに参加されるのも手かもしれません。
「鑑賞会・バスツアー」@ホキ美術館
「写実絵画の魅力/写実絵画専門美術館 ホキ美術館に見る/世界文化社」
写実絵画とひたすらに対峙する時間。思わず集中してしまいます。久々に心地良いまでの疲労感を覚えました。その後、改めてカフェで休憩したのは言うまでもありません。
「人思い、人想う。」は11月16日まで開催されています。
[ホキ美術館関連エントリ]
「人思い、人想う。」(前編・美術館について)
「人思い、人想う。」(中編・館内について)
「人思い、人想う。」 ホキ美術館(@hoki_museum)
会期:5月22日(木)~11月16日(日)
休館:火曜日。但し祝日の場合は開館。翌日休館。
時間:10:00~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、大学・高校生・65歳以上1300円、中学生900円。
*10名以上の団体は1600円。(65歳以上は1300円。)
*小学生団体は750円。
*「千葉市民の日」(10/18)は一般入館料が半額。
住所:千葉市緑区あすみが丘東3-15
交通:JR線土気駅から千葉中央バス「あすみが丘ブランニューモール」行きに乗車、「あすみが丘東4丁目」下車徒歩2~3分。有料駐車場あり。
注)館内の撮影は美術館の特別な許可を得ています。
「人思い、人想う。」
5/22-11/16
中編(館内について)に続きます。ホキ美術館へ行って来ました。
「人思い、人想う。」(中編・館内について) ホキ美術館(はろるど)
館内にずらりと並ぶ現代写実絵画、その全ては美術館の創設者で、医療メーカーのホギメディカルの創業者でもある保木将夫氏が収集したコレクションです。
出品は150点です。コレクション総数350点のうち、ほぼ半年に1度程度で入れ替わります。
館内の撮影の許可をいただきました。
生島浩「5:55」2010年
まずは「ギャラリー1」の企画展「人思い、人想う。」です。目を引くのはチラシ表紙にも掲げられた生島浩の「5:55」。長い髪の女性がどこかためらいがちに椅子へ腰をかけている。左から光が差し込み、テーブルの上にはロウソクも置かれています。ちなみにタイトルの「5:55」は時間のことです。確かに右上の時計が6時前を指しています。モデルがまもなく帰る時間なのでしょうか。伝統的なオランダの室内肖像画を思わせる静謐な雰囲気が漂っています。
磯江毅「横たわる男」2001-2002年
2011年の練馬区立美術館での回顧展の記憶も甦りました。磯江毅です。作品は「横たわる男」、画家を象徴するというべきモノクロームの世界、一人の鼻の高い男がベットの上に仰向けて横たわる。2枚のキャンバスを繋いで一枚の画面に仕上げています。
諏訪敦「深海」2003年
諏訪敦の「深海」です。こちらもほぼモノクローム、ベットを上からの視点で眺めている。白いシーツの質感も驚くほど豊かです。まさに眠りの海に沈み込んでいるのでしょう。すっかり安心しきったように眼を閉じている。手を胸の辺りにそっと寄せて眠りこけています。
画家の石黒賢一郎さんのお話を聞くことが出来ました。
石黒賢一郎「惰眠」1993-2012年
作品は5点です。うち最初に写実を手がけたのが「惰眠」。1993年に描き始め、2012年まで手を加えて完成させた作品です。公園で帽子を頭の上にのせて眠る男、いわゆるホームレスでしょうか。モデルは実際に公園にいた人物です。石黒さんが酒をおごったりしてモデルになってもらったそうです。
石黒賢一郎「CH-08(KISARAGI)」2011年
ほか4点は近年に制作されたもの。石黒さん、ともかく作品を前にすると「持って帰りたい。」という言葉を連発されましたが、それはまだ描き直したい部分があるからとのこと。例えば「CH-08(KISARAGI)」では背景とモデルの髪にさらに手を加えたいそうです。
石黒賢一郎「No a ×××.」2013年
背景に目を奪われました。薄暗がりで滲みが点々と連なっている。これはスペインのマンチャと呼ばれる「汚す」デッサンのことで、作品の物質としての強度、言い換えればその部分を切り取っても一つのオブジェとして成立するようにしたいと考えているからだとか。またいずれもモチーフは画家のアトリエの壁です。釘が描かれている作品もありましたが、それも実際に刺さっているものだそうです。
石黒さんの近作のシリーズ、いわゆるアニメのキャラクターの引用がありますが、それとモデルは必ずしも似ている必要はないとのこと。多少意識する程度だそうです。
「ギャラリー1」 石黒賢一郎
実在のモデルと絵画ではどうやってもモデルの方が本来的に存在感があると述べる石黒さん。ゆえにモデルを理想化するというよりも、そのエッセンスをいかに絵画に定着化させるかを心がけているそうです。
テクニックについても少し触れて下さいました。基本的に表面の絵具は盛らない。何故ながらそもそも厚く塗ると細かい部分が描きにくくなるからだそうです。「実際の肌は全く盛っていないよね。」というお話を聞くと、さもありなんという気もしました。
ちなみにこの絵具を盛っているかそうでないかという部分は、ほかの写実絵画を鑑賞する際においても一つのキーポイントになるかもしれません。
いわゆる写真のような絵画といえども、画肌に目を凝らせば、各画家の絵筆の息遣いが感じられる。それは画家によって全くと言ってよいほど異なります。
「ギャラリー2」 森本草介
「ギャラリー2」に進みましょう。森本草介の作品です。美術館でも人気の画家。ホキコレクションでも最も作品の多い画家でもあります。
これらはいずれも昨年12月から個展のために館外に貸し出され、大阪や東京を巡回。延べ数万人もの来場者を集めました。戻ってきたのは約半年ぶりのことです。人物、風景、静物をあわせて計33点の作品が公開されています。
「ギャラリー3」と「ギャラリー4」では五味文彦が圧倒的ではないでしょうか。
五味文彦「青い器物のある静物」2005年
「青い器物のある静物」、メロンやレモンの果物ともに陶やグラスが並ぶ。白いレースのクロスの質感も美しい。息をのんでしまいます。
五味文彦「あかいはな」2010年
「ギャラリー4」は五味の展示室です。作品はまとめて8点、いずれも甲乙付け難いものがありますが、あえて一点あげるのであれば「あかいはな」、写真でも際立つかもしれませんが、このクリアなガラスのコップ。中にはバラが水に浮かんでいますが、ガラスによって出来る歪みまでをも精巧に描く。微かに延びた影も素晴らしい、一匹の蜂が画面に入り込んでもいます。
中編のエントリでも触れましたが、鑑賞時間はゆうに2時間以上です。私自身、元々写実にはあまり興味がなかったのですが、見終えた後は考えも変わりました。石黒さんの仰る「本物の素晴らしさを写実で示す。再現する。」ということの奥深さ、魅力を初めて知ったような気がします。
千葉の「昭和の森」に隣接するホキ美術館、建物しかり、作品しかり、一見の価値は十分にあります。なお少し都内から距離はありますが、東京駅発着のバスツアーなどに参加されるのも手かもしれません。
「鑑賞会・バスツアー」@ホキ美術館
「写実絵画の魅力/写実絵画専門美術館 ホキ美術館に見る/世界文化社」
写実絵画とひたすらに対峙する時間。思わず集中してしまいます。久々に心地良いまでの疲労感を覚えました。その後、改めてカフェで休憩したのは言うまでもありません。
「人思い、人想う。」は11月16日まで開催されています。
[ホキ美術館関連エントリ]
「人思い、人想う。」(前編・美術館について)
「人思い、人想う。」(中編・館内について)
「人思い、人想う。」 ホキ美術館(@hoki_museum)
会期:5月22日(木)~11月16日(日)
休館:火曜日。但し祝日の場合は開館。翌日休館。
時間:10:00~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、大学・高校生・65歳以上1300円、中学生900円。
*10名以上の団体は1600円。(65歳以上は1300円。)
*小学生団体は750円。
*「千葉市民の日」(10/18)は一般入館料が半額。
住所:千葉市緑区あすみが丘東3-15
交通:JR線土気駅から千葉中央バス「あすみが丘ブランニューモール」行きに乗車、「あすみが丘東4丁目」下車徒歩2~3分。有料駐車場あり。
注)館内の撮影は美術館の特別な許可を得ています。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )