「ノルマンディー展」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館

東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
「印象派のふるさと ノルマンディー展~近代風景画のはじまり」
9/6-11/9



東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「印象派のふるさと ノルマンディー展~近代風景画のはじまり」を見て来ました。

フランス北西部、セーヌ河口のル・アーヴルなどの港町を有するノルマンディー地方。絵画で辿るノルマンディーの旅と言っても良いでしょう。印象派からフォーヴィズムまで、ノルマンディーを描いた画家たちを紹介しています。

さてはじまりは当然ながらフランスの画家と思いきや、対岸、イギリスの画家。かのターナーでした。


ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー「ル・アーヴル」 アンドレ・マルロー美術館

と言うのも1815年に英仏戦争が終わり、イギリス人が数多くノルマンディーを訪れるようになった。ターナーもその一人です。いわゆる絵になる風景、ピクチャレスクを求めてノルマンディーを描きます。

ターナー画はいずれもエングレーヴィングの小品のみ。数も2点と少なめです。あくまでも触りの段階に過ぎませんが、この後にターナーらのイギリスの風景画家に影響を受けて、フランス人画家もノルマンディーを描き始めていく。そのプロセスを伺い知れる導入ではないかと思いました。


ウジェーヌ・イザベイ「浜に上げられた船」1865-70年頃 エヴルー美術博物館
© J.P Godais. Musee d’Evreux


必ずしも有名な画家ばかりではありません。例えばジャン=ルイ・プティの「嵐の中のオンフルールの田舎」やウジェーヌ・イザベイの「浜に上げられた船」。どれほど知られているでしょうか。前者はノルマンディーへ打ち寄せる大波を描き、後者は海岸線に打ち上げられた帆船を表す。当然ながら海景画が目立ちます。画題の主役はノルマンディー越しの英仏海峡としても過言ではありません。

そして海景といえばブーダンです。計10点ほど展示されています。そもそも生まれはセーヌ河口のオンフルール。そして育ちはル・アーブルです。言わば生粋のノルマンディーっ子でもあります。


ウジェーヌ・ブーダン「トルーヴィルの海岸にて」1880-85年 サンリス美術考古博物館
© Musee d’Art et d’Archeologie, Senlis Photo © Christian Schryve


「トルーヴィルの海岸にて」はどうでしょうか。お馴染みの海辺のピクニックを捉えた一枚。トルーヴィルはノルマンディーを代表するリゾート地でもある。1863年に鉄道が開通したことで多くのパリジャン、とりわけ上流階級の人々が訪れたそうです。


ウジェーヌ・ブーダン「ル・アーヴル、ウール停泊地」1885年 エヴルー美術博物館
© J.P Godais. Musee d’Evreux


「ル・アーヴル、ウール停泊地」も美しい。水平線を低く構えて港に停泊する帆船を大きく捉える。もちろん夕景でしょう。セピア色にも染まる空。少し逆光気味でしょうか。よく見ると帆船がうっすらと黒い線で描かれていることが分かります。


ギュスターヴ・クールベ「海景、凪」1865-67年 ロン=ル=ソニエ美術館
© Ville de Lons-le-Saunier, Musee des Beaux-Arts Studio Eureca, Jean-Loup MATHIEU


そのブーダンと親交があったのがクールベです。得意の「波」のほか、画家にしてはやや物静かな印象を与える「海景、凪」などが展示されていました。

また同じくブーダンと知り合ったモネも登場、うち「サン=タドレスの断崖」が目を引きます。なおノルマンディーを舞台にしたモネといえば、ルアーブルの港町を描き、意図せずとも印象派と名付け親となった「印象・日の出」が有名ですが、そちらは不出品。この展覧会で見ることは叶いません。

思いがけない作品がありました。写真です。写真が発明されたのは1839年のこと。写真家たちは画家が風景を描くのと同様、ノルマンディーの光景を写真に収めていきました。代表的なのはエミール=アンドレ・ルトゥリエです。「タンカーヴィル、廃墟の城跡」でも見られるように、同地に点在する遺跡や古城を写し出しました。


アンリ・ド・サン=デリ「オンフルールの市場」 アンドレ・マルロー美術館
© Florian Kleinefenn


印象派を超えてフォーブへの展開を見るのも本展の大きな特徴といえるかもしれません。オトン・フリエスやアンリ・ド・サン=デリ。そしてラウル・デュフィです。

ラストはさながらミニ・デュフィ展です。10点超の作品がまとめて展示されています。


ラウル・デュフィ「海の祭り、ル・アーヴルへの公式訪問」1925年頃 アンドレ・マルロー美術館
© Florian Kleinefenn


そもそもデュフィもル・アーヴルの生まれ。同地に留まり続け、波止場や海辺の景色、それにヨットレースなどをモチーフにした作品を描いています。

晩年、身体を崩して南仏へ移ったのち、改めて故郷を舞台にして描いた「黒の貨物船」の連作も目を引きました。デュフィならではの鮮やかな色彩の空間に広がる黒い影。さも光をかき消す闇のようでもある。何を思ってのゆえなのでしょうか。身体に自由のきかないデュフィの心情、そして強い郷愁。そうした要素が反映されているのかもしれません。

近年、ノルマンディーを舞台に撮影したメリエルの写真(2001~2009年)も興味深いもの。先の19世紀末のルトゥリエの写真と見比べるのも楽しいかもしれません。

もちろんノルマンディーを題材にした絵画を集めた展覧会ではありますが、例えば一部においてはル・アーブルにおけるフォーブや新しい芸術運動などの言及もある。ターナー以降、約100年間のノルマンディーの美術史をかなり細かく追いかけています。好企画でした。


アルベール・マルケ「ル・アーヴルの外港」1934年 アンドレ・マルロー美術館
© Florian Kleinefenn


出品は120点弱と多めです。一部、版画と写真を含みます。また松岡美術館の一点と個人蔵を除くと、全て海外のコレクションです。ル・アーヴルのアンドレ・マルロー美術館やオンフルールのウジェーヌ・ブーダン美術館の作品などが目立ちました。

会期早々に観覧しましたが、意外と盛況でした。ただし行列が出来ているわけでもありません。スムーズに楽しめると思います。

なおこの9月に館名が「損保ジャパン東郷青児美術館」から「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」へと変わりました。

それに伴って公式サイトもリニューアルされたようです。館名はさらに長くなりましたが、サイトは見やすくなりました。

11月9日まで開催されています。

「印象派のふるさと ノルマンディー展~近代風景画のはじまり」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
会期:9月6日(土)~11月9日(日)
休館:月曜日。但し祝日は開館。翌火曜日も開館。
時間:10:00~18:00 毎週金曜日は20時まで。 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(900)円、大学・高校生700(550)円、65歳以上900円、中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *10月1日(水)はお客様感謝デーのため無料。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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