「山田純嗣展 絵画をめぐって 反復・反転・反映」 不忍画廊

不忍画廊
「山田純嗣展 絵画をめぐって 反復・反転・反映」
8/30-9/27



不忍画廊で開催中の山田純嗣個展、「絵画をめぐって 反復・反転・反映」を見て来ました。

絵画を鑑賞し尽くすということはこういうことなのかもしれません。

「モチーフの立体物を作り、それを撮影した写真に銅版画を重ね、樹脂を塗って仕上げるインタリオ・オン・フォトという方法」(ギャラリーサイトより)で制作を続ける作家、山田純嗣。

「『インタリオ オン フォト』について」@不忍画廊

これまでにも古今東西、様々な名画を手がけて来ましたが、今回私が特に驚いたのはいわゆる抽象、ようはポロックの絵画をモチーフにした作品があったことです。


手前:山田純嗣「One. Number 31」2013年

メトロポリタン美術館所蔵の「One. Number 31」を「インタリオ オン フォト」の手法で再生する。立体物を介しているからでしょうか。縦横無尽のドロッピングの広がりよりも手前と奥との関係、ようは奥行きが感じられる。言い換えれば線よりも面、さらには空間を強く志向させる作品へと変化しているのです。


山田純嗣「漣」2013-2014年

福田平八郎の「漣」はどうでしょうか。ざわめく水面のみをトリミングして描き出した作品、上から青みがかった色彩が波を象っていく。興味深いのは地と図の関係です。というのも福田は「漣」において銀箔の上に群青を重ねて波を描いていますが、山田は違う。地の部分、つまり波間に描き込みを入れています。ようは反転しているわけです。

そしてDM表紙でもあり、山田が本展に寄せたテキストでも触れているモネの「睡蓮」です。ここでも作品の構図、構造なりをやはり意識している。山田は以下のように述べています。


山田純嗣「WATER LILIES」(部分)2014年

モネの睡蓮の面白さは、水平な睡蓮の葉で奥行きを描くのと同時に池に反射する垂直の木立の平面性を描いていることにあると考えます。壁にかけられた睡蓮の作品は、奥行きと同時に壁同様の平面性を持っています。 *「山田純嗣: 鏡としての絵画」より


「インタリオ オン フォト」の製作ファイルより

さて今回、一つ目を引いたのが「インタリオ オン フォト」の製作過程の写真をファイルに収めた冊子。何でも会期二日目に藤原えりみさんと行った対談、「絵画をめぐって」の際にスライドで写したものだそうです。

元々完成した平面のみを作品として提示してきた山田ですが、例えば2011年の日本橋高島屋の個展では「インタリオ オン フォト」の最初の段階である立体を言わばインスタレーション的にも見せていた。近年は制作のプロセスも公開している印象があります。

もちろん全ては完成した作品を見るべきなのかもしれませんが、この冊子が制作を理解するのに非常に参考になりました。


山田純嗣「WATER LILIES」2013-2014年

一連のモネの連作、「WATER LILIES」に際して、ギャラリー内の照明を消していただきました。すると七色にも染まるかのような睡蓮の繊細な色味がより際立つ。角度を変えて見ると美しい光が仄かに放たれます。

この夏には愛知の一宮市三岸節子記念美術館で個展を終えた山田、同じく夏に長野で参加したグループ展がさらに来春、伊那へと巡回して開催されるそうです。



「信州新世代のアーティスト展2014」@長野県伊那文化会館 美術展示ホール(2015/1/24~2/8)


山田純嗣「日月山水 右隻」(未完)2014年

二次元の絵画を三次元にしてはさらに二次元に引き戻して見せる山田の作品。よく絵画なりを見る上で構図や奥行き云々を意識することがありますが、それがより強く表れているようにも思えなくない。「日月山水」における山と水辺との位置関係、さらには「漣」での地と図の関係しかり、舐め回すように見てしまいます。

名画が次元を行き来しては変化する山田の制作、半ば見知っているはずの元の絵画に思いがけない発見をすることも少なくありません。

初めに「鑑賞し尽くす」としたのはそういう意味でもあります。完成した作品自体は一見寡黙ですが、アプローチは極めて複雑。絵画を多角的に見定めています。ゆえにそうした絵画をどう自分が見ていたのか。その足りない部分に気がつくような展示でもありました。

9月27日まで開催されています。

「山田純嗣展 絵画をめぐって 反復・反転・反映」 不忍画廊@ShinobazuG
会期:8月30日(土)~9月27日(土)
休廊:9/7、14、15、21、23。
時間:11:00~18:30
住所:中央区日本橋3-8-6 第二中央ビル4F
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅より徒歩2分。都営浅草線日本橋駅から徒歩3~4分。
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